( 188313 ) 2024/07/07 01:09:26 0 00 東大の女子学生比率は文学部や教育学部で比較的高いが、多くの理系学部では低くなっている(写真:イメージマート)
東京大学が5月に「なぜ東京大学には女性が少ないのか?」というポスターを掲示し、話題を呼んだ。東大が女子学生を増やすためにはどうすればよいのか。現在、全国の多くの大学で、女子学生を増やすために「女子枠」を設けるなどの施策が進められているが、一部では反発の声も出ている。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【前編から読む】
「女子なのに東大?」東大が問題提起をしたポスター
* * * 東大は女子の合格者の割合が2024年で20.2%と低いことを打開しようと動き出し、今年の5月に「#言葉の逆風」という見出しのついた啓蒙ポスターを掲示した。ポスターには女子学生たちが実際にいわれた言葉が書かれている。「女子なのに東大?」「女の学歴に価値はない」。つまり、東大に女子が少ない背景には、女性への偏見や差別があるという見方を伝えたいのだろう。
これに対してはSNS上で「今どきそんな価値観ある? そんなことを言うのは少数派の変な人なのでは」という旨の疑問を呈する声も出ている。前回記事では、この「東大に女子が少ない」理由は「(女子に不人気の)工学部の定員が多いからではないか」ということを指摘した。2024年5月時点で、文学部は32.9%、教育学部は40%が女子。一方、工学部は13%、農学部は21.6%だ。
工学部の学生数は997人にも及ぶ。文学部は325人、教育学部は90人。農学部は235人。女子に人気がない工学部が文学部の3倍、教育学部の10倍の規模だ。女子に不人気の工学部の学生数が多いわけだから、全体として女子の割合が少なくなるのは当然だろう。
もしも、東大に女子を増やしたいなら、女子の割合が多い文科III類(文学部や教育学部への進学が多い学類。入試は科類別に募集する)の定員が現在469人なのを倍増し、女子率が高い教育学部の学生数を今の10倍にすればいい。自ずと女子率は上がるはずだ。
だが、それは現実的ではないだろう。そうなると、女子学生の比率を上げるためには、一般試験とは別に、推薦入試で女子枠入試をおこなうしかない。
たとえば、現在おこなわれている東大の推薦入試は、共通テストで概ね8割以上を取ることが目安で、それ以外は書類審査や面接で合否を決めていく。女子枠も同じようにしていくことが推測される。東大入試の大きなハードルとなる二次試験の数学がなければ、女子の受験者は増えるだろう。
アメリカの難関大では女子の学生の比率が高い。その入試形式は、学力を測るペーパー試験ではなく書類審査をメインとする入試で、日本でいう総合型選抜入試に近い。
数学や英語の学科のペーパー試験は採点の基準が明確であるが、総合型選抜は書類審査や面接が中心なので基準は外から見てもあいまいだ。今後は日本の大学でも総合型選抜が増えていくとされるが、反発が大きいのは合格基準の「あいまいさ」ゆえだ。
一般選抜が「ペーパーテストで高い点数をとった受験生」を合格させるのに対して、総合型選抜は「大学がほしい受験生を合格させる」ことができる試験である。そして、その「ほしい」にも様々あり、「英語力が高い受験生がほしい」ならば英語力を問うし、「論理的な思考力が高い受験生がほしい」と思えばそれを問う。女子がほしいならば、女子であることを出願条件にする入試を作ればいいわけだ。
ちなみに、2024年の東大の一般入試での女子の合格者割合は20.2%だが、推薦入試での割合は46.2%。推薦入試と女子は相性がいいようにも見える。ましてや「女子枠」を作ればさらに女子の合格者は増えていくだろう。
現在、多くの大学で女子枠を導入し、京大は理学部と工学部で「女子枠」入試をおこなうと発表しているが、東大もその流れに沿っていくのではないか。東大も理系の学部だけに「女子枠」を設定するのか。それとも文系も含むのか。気になるところだ。
一記者の私としては、工学部などの理系学部が「女子枠」を作ることが話題になれば、女子学生へのPRになるので有意義だと考える。
もちろん、この「女子枠」の導入には反発も起きている。朝日新聞デジタル2024年6月13日配信の〈「もともとあった段差を乗り越える」 受験で拡大する女子枠の意義〉という記事の中では、名古屋大学工学部へ学校型選抜の女子枠で入学した女子学生が「女子枠なんてずるすぎる」と男子学生からいわれたエピソードを紹介している。
SNS上でも男性たちからの反発の声が多く見られるが、女性の中にも違和感を表明する声がある。タレントのフィフィは、3月に「女子だけの特別枠を設けるなんて、逆差別だし、女子をもバカにしてる…そんなことも分からないのか。」とX(旧Twitter)に投稿し、1.8万の「いいね」がついている。
東大出身の40代女性(理学部から修士課程に進み、大手企業の技術部門に在籍)はこう話す。
「女子枠を作ることで、下駄を履かせてもらえる女子とそうではない女子の格差が広がっていくんじゃないですか。今までだってそういう格差がありました。私みたいな不器用な女は泥くさく努力して、実績を積みかさねないと認められなかったんですが、女であることを武器にしてキャリアを築いた人たちもいます。彼女たちは恥ずかしげもなくポジショントークがうまく、男性たちが望む女性像を演じている。そういう器用な女子だけに有利な社会が実現していくように感じます」
もっとも、こういった反発は「想定内」のようにも思える。今回、東大が掲示したポスターのキャンペーンも、「女性への偏見や差別が東大の女子率を減らしているのではないか」と問題提起することで、「令和の時代にそんな差別あるの? あるとしても稀なんじゃないの」というツッコミや反発を呼びこんでいる。それで結果的に注目度が上がれば、目論見どおりなのかもしれない。今後の動向に注目したい。
(了。前編から読む)
【プロフィール】 杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。
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