( 189188 )  2024/07/09 16:34:33  
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「ほぼカニ」というネーミングだけでなく、横に添えた「※カニではありません」の一言が消費者の心をつかんだ。「ほぼホタテ」「ほぼうなぎ」など、「ほぼシリーズ」のラインアップが増えている(写真/スタジオキャスパー) 

 

 発売から10周年を迎えた「ほぼカニ」をはじめ、「ほぼシリーズ」がヒットしている。背景には過去に失敗した商品から学び、ネーミングを重視する姿勢を貫いたことに加え、水産資源の保護やアレルギー対策など、食に対する困りごとに対応してきたことがある。 

 

【関連画像】ほぼカニとして売る前のネーミング「Ju-Sea(ジューシー)」としていた時のパッケージ 

 

 ユニークなネーミングは、ユーザーにすぐに浸透し、商品の認知度向上につながりやすい。ただしダジャレに近い面白さだけでは、発売当初は話題を集めるだろうが、一過性で終わってしまって長続きしないだろう。 

 

 ユニークなネーミングで注目され、さらにロングセラー商品として育成するにはどうすべきか。その好例といえる商品が、カネテツデリカフーズ(神戸市)の「ほぼカニ」だろう。 

 

 ほぼカニは、まるで本物のカニのようにほぐれやすくジューシーなカニ風味かまぼこ。当時の社長が様々な候補の中からネーミングを決めた。2014年に発売し、24年で発売10周年を迎えた商品だ。 

 

 今では「ほぼホタテ」「ほぼうなぎ」など、「ほぼシリーズ」の商品も次々と登場し、テレビ番組など様々なメディアに取り上げられて知名度がアップ。販売数はほぼカニだけで24年5月末までに累計約7000万パック、ほぼシリーズでは約8500万パックに達した。 

 

 当初は関西エリアが中心だったが、今では全国のスーパーマーケットでも販売。ほぼシリーズの売上高は公表しないが、企業全体の売上高が119億円(23年9月期)のカネテツデリカフーズにとって、新規事業として大成功した商品といえる。 

 

●10周年イベントも開催 

 

 24年は発売10周年を記念し、様々なイベントを実施。例えばオンライン特設サイト「ほぼ展~みんなの『ほぼ』を練り合わせよう~!」を24年3月に開設した。日常の「ほぼ」を集め、感覚の違いを共有し、「ほぼ」という言葉の定義を考える参加型のオンラインコンテンツ。同志社大学の髙橋広行ゼミとの共同企画で、若い人たちに向けて、ほぼシリーズをアピールした。 

 

 4月には「ほぼカニ神社」も“建立”。発売から10年間の感謝の気持ちを込め、人に寄り添うものづくりを大切にしてきたカネテツデリカフーズが提供する、現代の癒やしスポットにしたという。お守りも販売している。イメージキャラクター「てっちゃん」のLINEスタンプも配信し、200万ユーザーに達した。 

 

 だが単なる話題づくりだけなら、どこの企業も当たり前に実施しているはず。ほぼカニのルーツを探ると、おいしさの追求だけでなく社会課題にも対応する商品として改良を重ねてきたことも、ロングセラー商品の背景にあるようだ。 

 

●最初は「ほぼカニ」じゃなかった 

 

 ほぼカニの開発に着手したきっかけは、練り製品の夏場の需要拡大だった。秋冬のおでんや正月だけでなく、夏場の市場も拡大したいという思いがあった。さらにカニなどの魚介類の価格高騰もあり、普段の食事で手が届く価格の商品にしたかった。 

 

 そこで「世界一ズワイガニに近いカニ風味かまぼこをつくる」ことを目指してプロジェクトがスタート。カニの味を再現するため、本物のカニのアミノ酸分析を実施したほか、カニの繊維の向き、ほぐれ感も追求した。 

 

 約2年をかけて開発したが、実は最初は「Ju-Sea(ジューシー)」というネーミングだった。商品の特徴である水分をしっかりと含んだ「圧倒的なジューシーさ」と「海(の幸)」を表現したという。 

 

 しかし、あまり売れなかった。中身には自信があったため、当時の社長の指示で新たなネーミングを社員たちが考えていった。 

 

 例えば「ZY(ズワイ)」「カニかも」「カニよりカニ」「ひそカニかま」「かにゴールド」「かに職人」「なんかカニ」「でもカニ」「やっぱカニ」など100個以上を出した。 

 

 これらの中から、世界一ズワイガニに近いカニ風味かまぼこを一目で伝えられること、楽しさやカネテツらしい遊び心、インパクトがあることを考慮し、社長が「ほぼカニ」を選択。当時「ほぼOK」など「ほぼ」という言い方が流行し、語感が良かったことから決定した。 

 

 このとき「ほぼカニというネーミングでは、カニかまかどうか分からず、本物のカニと間違えるのではないか」という声が社内から出た。 

 

 そこでパッケージには、ほぼカニの商品名の横に「※カニではありません」と入れた。この一文が注目された。発売されるとSNSで一気に拡散。「カニではありませんと書いたのが面白い」「それだけ品質に自信があるんだ」と消費者が好意的に評価した。 

 

 「カニではありませんと真面目に説明を入れた点が、むしろユーモアがある商品と判断された。中身は以前と同じ商品だったが、リニューアルで認知度が拡大。ネーミングの重要性を改めて感じた」(同社マーケティング部部長の一柳圭氏) 

 

●進化するほぼシリーズ 

 

 ほぼカニがヒットすると、ほぼシリーズの開発に着手。どんな商品をつくるべきかを決定する指針にした点が、価格高騰により日常的に購入しにくくなった食材や、水産資源の保護、絶滅危惧種の保護などもつながる分野だったという。 

 

 そこでホタテやうなぎなどの味を研究。ほぼシリーズとして次々と販売していった。「ほぼエビフライ」「ほぼカキフライ」「ほぼタラバ」「ほぼズワイガニ」「ほぼエビ」「ほぼいくら」「だいたい毛ガニ」などがある。 

 

 味は絶えず改良しており、ほぼうなぎは自信作の一つ。当初はうなぎのエキスを使っていたが、今では原料から添付のたれに至るまで、うなぎはもちろん、うなぎのエキスも一切使用していない。 

 

 ほぼホタテをフランス料理のように仕上げた「ほぼホタテ特製 シーザーソース付」もある。ほぼホタテは以前から発売していたが、10周年記念の商品として味わいを変えて売り出したところヒットしたという。 

 

 「チーズinほぼタラバ」も同様に、ほぼタラバに3種のブレンドチーズを詰め込み、風味が豊かな味わいにした。一口サイズで食べられる、おつまみ用に特化した商品だ。 

 

 認知されるようになると、他社とのコレボレーションも多くなってきた。 

 

 例えば、マルコメ(長野市)と組んで開発した「カップ ほぼカニ汁」は、フリーズドライのほぼカニを具材にしたみそ汁だ。ローソンと共同開発した「おつまみほぼカニ」は、ほぼカニより少し小さい、ワンパック80gの食べきりサイズに仕立てた。 

 

 「もともとはカニの価格が高いという社会課題に対応するために発売し、ほかにも課題を持つ食材があるのではとシリーズを広げた。また、ほぼエビやほぼいくらなら、アレルギーを持つ人も喜んで食べていただける。そうした食への課題や不満、社会の困りごとを解決したいと思って開発を重ねてきたことが、ロングセラー商品につながったのでないか」(一柳氏) 

 

 これまでの、ほぼカニの累計販売数から計算すると、約7000万匹分のカニに相当するという。それだけの水産資源の保護につながったわけだ。 

 

大山 繁樹 

 

 

 
 

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