( 189781 ) 2024/07/11 15:32:42 1 00 石丸伸二氏は広島県安芸高田市長から都知事選に出馬して落選した。 |
( 189783 ) 2024/07/11 15:32:42 0 00 街頭演説中の石丸伸二氏/編集部撮影
東京都知事選で得票数2位という大きな爪痕を残した石丸伸二氏。ついこの間まで広島県安芸高田市長を務めていた若き候補者の躍進を、讃える声は少なくない。
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では、そもそも彼は中国地方の自治体の長として何を成し遂げたのか。なぜ市長職を投げ出してまで都知事選に出馬しなければならなかったのか。
都知事選の街頭演説中に深々と礼をする石丸伸二氏/編集部撮影
石丸伸二氏が東京都知事選挙で落選した陰で、広島県の安芸高田市では小さな政治劇場の幕が下りた。
石丸伸二前市長の退任に伴う市長選挙で、石丸市政の「継続と改善」を訴えた熊高昌三氏が、「石丸市政の在り方」の見直しを主張した藤本悦志氏に敗れたのだ。
小さな市を舞台にした切り抜き動画による炎上政治は、住民の手によって否定された。市長選の開票が終わった7月7日夜現在、安芸高田市民に対する石丸支持者の罵声がSNSには溢れている。
しかし今後、安芸高田市民は動画で踊らされた同市とはほぼ無関係の人々による侮辱の日々から解放されることになるだろう。
そもそも石丸氏が安芸高田市を捨て、都知事選に転出した背景には何があるのか。
もちろん同市長選挙に再立候補して負ける可能性も十分にあった。
しかし、それ以上に、仮に再選できたとしても彼の実績が虚構であったことがバレてしまうことが問題だったのではないか(石丸氏は都知事選への立候補に際して別の理由を述べていたが、政治屋が新たな選挙に立候補する際に適当を述べるのはいつも通りのことに過ぎない)。
石丸陣営のボランティアの数は5000人以上だった/編集部撮影
石丸氏の安芸高田市政の主な実績は、財政改革やふるさと納税額の増加とされている。
しかし、実際の石丸市政は財政改革にほぼ成功していない。また、ふるさと納税の伸び率も全国と比べて著しく高かったわけではなく、彼のYouTuber芸による一過性のものに過ぎない。
そのため、その実態が明らかになってしまえば、彼の求心力が失われることは自明だった。それがこのタイミングでの出馬を模索した背景の一つであることは疑う余地がない。
石丸氏は「市長就任以前の5年間は市の財政は実質単年度収支が赤字であった。それを黒字に立て直した」と主張してきた。実質単年度収支とは、前年度の決算からの変動額を表すものだ。この数字が赤字だと財政が前年度よりも悪化したと言える。
たしかに、公表済みの市の決算書によると、石丸市長就任前の予算が執行された5年間、2016年度から20年度決算まで実質単年度赤字であり、石丸市政開始後の21年度には実質単年度収支は黒字に転じている。
しかし、黒字化した2021年度はコロナ禍による特殊要因があり、国からの地方自治体への巨額の財政支援措置があった。ただし、これは一時的な措置なので、22年度決算では当然のように安芸高田市は再び赤字に転落している。
そして、広島県内で安芸高田市と同規模人口の庄原市や大竹市もほぼ同様の数字の変化を辿っていることからも、実質単年度収支の黒字化は石丸市政の成果ではなく、単なる外部要因による一過性の出来事だったに過ぎない。
さらに、石丸氏が自らの成果として主張した公共施設等総合管理計画及び個別施設計画(ハコモノの整理計画)は、総務省がもともと2014年度から16年度の間に主導し、20年度末に99.9%の地方自治体が同計画を策定したものだ。
しかし、それらの計画の進捗は首尾良く進まなかったため、総務省が21年度にアドバイザー等を活用するための特別交付税措置(財政支援)を改めて実施し、各地方自治体に見直し計画を改めて作らせることになっていた。
偶然、石丸氏はその年度、金銭スキャンダルで辞任した前任市長に代わって就任したに過ぎない。したがって、国主導の計画づくりであり、市長を誰がやっても同じ計画が当然に出来上がったと言えるだろう。
そして、以前の計画が遅延したように、この計画の本当に困難な点は、計画を作ることではなく、計画をやり切ることだ。
そのためには、市民・市議会との調整が重要となる。議会で対立を生む石丸氏のやり方ではほぼ不可能なことは明らかだった。だから、昨年末に計画を作っただけで、その実行段階では急いで市政から“退場”する必要があったのだ。
そして、財政改革のフェイクの真骨頂は「経常収支比率」である。経常収支比率は予算全体のうち何%があらかじめ使途が決まっているか、という財政の自由度を測る指標だ。この指標は安芸高田のような過疎自治体では95%を超えていることが多い。数値が低いほど自由度は高いと言える。
実際、安芸高田市の経常収支比率は2016年度に94.4%となり、19年度に98.2%の財政悪化のピークを迎えた。
ところが、2020年度は92.5%、21年度は88.6%、22年度は94.4%となったことで、21年度の石丸市長就任年前後に改善したように見える。
しかし、2020年度からの数字の低下にはやはり特殊要因が重なっている。20~22年度は、過去の市職員の退職金積立が過剰であったために退職金引当金に対する拠出が低下したこと及び、21年度はコロナ関連の国からの支援等があったことが大きかった。
そのため、それらの要因が剥落した今年秋口に公表される2023年度決算では96%前後に再び上昇してしまう見込みとなっている(23年度決算の悪化は石丸氏が財政説明会で、自ら述べていた数字だ)
さらに、石丸市政最後の予算編成である2024年度予算では、給食費無償化が実行されることに伴い、市の貯金にあたる財政調整基金が億円単位で取り崩されている。
筆者が見る限り、給食費無償化費用は過重であり、持続可能性が極めて疑わしいバラマキ政策となっている。
安芸高田市の新市長に選ばれた藤本氏は、石丸氏が残した財政改革の失敗と向き合い、新たなバラマキとの折り合いをどのようにつけるのか。頭を悩ませることになるだろう。
もし石丸氏が都知事選挙に転出せずに安芸高田市長を継続していた場合、彼は自らの財政改革の失敗に向き合わざるを得なくなっていたはずだ。切り抜き動画でいくら煽ったところで、数字は嘘をつけない。民間企業でも同様だ。広報・PRが上手な企業でも財務状況の悪化を長期間に渡って誤魔化し続けることは難しい。
したがって、石丸氏にとってはこのタイミングで安芸高田市政に関する責任を放棄することは必須だったと言えよう。
そのための渡りに船が都知事選であり、彼が取った行動は、自らが定義してみせた「政治のために政治をする、自分第一」の”政治屋”であった。そして、冒頭に取り上げた通り、安芸高田市民はそのような石丸市政の継続を粛々と拒否したのだ。
石丸氏に大きな期待を寄せていた街頭演説の聴衆/編集部撮影
しかし、今回の都知事選の大きな問題は、このような不誠実な人物であったとしても、都知事選で第2位の得票ができてしまうほどに「現在の政治に対する不満」が溜まっていることだろう。
実際、彼の公約は財源の裏付けもなく、大学生が数時間で作れる程度の項目とキャッチフレーズのみで詳細を論じるに値しないものであり、政策の具体的な理解が都民に拡まることすらなかった。
そのため、石丸氏の得票は同氏に対する支持の結晶というよりも、しょうもない話題で右往左往する従来の政治屋に対する不満が爆発したと捉えるべきだ。既存の政治関係者も大いに反省するべきだろう。
石丸氏の切り抜き動画を通じたフィクションの政治は、民主主義の学校であり、生活に直結する地方自治の現場を破壊した。もちろん、市議会議員にはマトモな人からふざけた人まで、さまざま存在する。それは事実だ。
しかし、そのような現実を踏まえた上で、政治を変えるには地道な努力が必要なのだ。SNSを使って議会で政敵を吊るし上げるエンタメでは何も変わらない。
政治や行政の関係者には、石丸氏が安芸高田市で見せたような茶番政治が拡がらないように、住民から一層の信頼が得られる積極的な情報発信、及び情報公開などを推し進めてほしい。
さらに関連記事『「石丸伸二氏こそ“政治屋”だ」…!暴走支持者に“脅された”政治アナリストが指摘する「人気者のカネ」と「石丸構文の危うさ」』では、石丸氏躍進の背景について分析する。
渡瀬 裕哉(国際政治アナリスト・早稲田大学招聘研究員)
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