( 190098 )  2024/07/12 15:10:04  
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 政治資金パーティーをめぐる裏金問題で逆風を受ける自民党の“弱体化”が止まらない。7月7日投開票の東京都知事選で実質的に支援した小池百合子知事は3選を果たしたものの、同じ日に実施された都議補欠選挙では大惨敗を喫した。岸田文雄首相の支持率は依然として低空飛行を続け、さらに時代錯誤の失言や放言も後を絶たない。もはや“下野”に向けたカウントダウンは始まっているように見える。そんな中で自民党・笹川堯議員の「子ども少ない人は反省を」という発言が炎上している。フラッシュによると、笹川氏は小池都知事のブレーンらしいが……。経済アナリストの佐藤健太氏が解説するーー。 

 

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 7日に開票された都知事選は、小池氏が約292万票を獲得して圧勝した。自民党は表立った動きは見せなかったものの、各種支援団体への働きかけを強めるなど裏方での実質的な支援に徹した。党内には「連敗が続いてきた中、支援候補が勝利できたのは大きな弾みになる」(党幹部)と安堵の声も漏れる。 

 

 だが、そうした見方はあまりに自分たちが置かれている状況を理解していないと言って良いだろう。自民党東京都連はたしかに小池氏の勝利に向けて汗をかいたのは事実だ。しかし、小池氏にとっては「ステルス支援」とはいえ、自民党がバックに映ったことによるマイナスもあったはずだ。 

 

 各種出口調査によれば、小池氏には自民党支持層の6割近くが投票している。岸田首相(自民党総裁)が「必要な支援を党としてもしていきたい」と語っていたにもかかわらず、残る4割近くは他候補に投票したことになる。それだけ「自民党支持層の自民離れ」は深刻なのだ。 

 

 それは同日に投開票を迎えた9つの都議補欠選挙の結果からもうかがえる。自民党は南多摩選挙区を除く8選挙区で候補を擁立したが、大惨敗した。これまで9選挙区中5議席を確保していたが、結果は「2勝6敗」。萩生田光一都連会長の地元・八王子市選挙区で落とし、江東区長を4期務めた父親を持つ元職の山崎一輝氏も区長選に続いての“連敗”を喫した。 

 

 小池氏が事実上率いる地域政党「都民ファーストの会」が3議席を獲得して復調を見せる一方で、立憲民主党は「1勝2敗」、共産党は「0勝4敗」、日本維新の会は「0勝2敗」。「小池人気」に乗ることもできなかった自民党の弱体化は明らかだ。萩生田氏は「当初から自民党に対する逆風があった。原因をつくった1人としてお詫びからの選挙だった。差を縮めることができなかった」などと説明するが、もはや“負の連鎖”に陥っているように映る。 

 

 

 投票日当日のテレビで驚いたのは、自民党東京都連で最高顧問を務める深谷隆司元通産相の言葉だ。テレビ朝日「サンデーステーション」で放送された取材シーンはあまりに違和感のあるものだった。都連関係者と電話していた深谷氏は「小池の方から各種団体に議員が出るのを遠慮してくれって言っているの?」と聞いた後、「あつかましい野郎だな、あいつ」「僕から言わせれば随分と好きなことを言っているなって感じがするよね」と言い放っていた。 

 

 自民党衆院議員だった小池氏が「崖から飛び降りる覚悟」で都知事選に初挑戦した2016年、自民党は「都議会のドン」といわれた内田茂都議を中心に小池包囲網をつくり、増田寛也元総務相を擁立。当時の石原伸晃都連会長は党所属議員が増田氏以外を支援した場合は「党の組織にはいられなくなる」などと猛烈な引き締め工作を展開した。 

 

 この際、石原氏の父で都知事も務めた石原慎太郎氏が「大年増の厚化粧」と小池氏を罵倒して大不評を買ったのは有名だが、小池氏は都知事選で圧勝した後も就任直後の挨拶回りで都議会自民党の重鎮だった川井重勇議長から写真撮影を拒否されるなどの仕打ちを受けた。さすがに自民党都連は生まれ変わったのではないかと思っていたのだが、深谷氏の「上から目線」を見ると、どうも違うのではないかと感じてしまう。 

 

 もちろん、すべての自民党関係者が同じような感覚は持っていないと信じたい。だが、同じ7月7日にはもうひとつの驚くべき発言が放たれた。 

 

 自民党三役の総務会長を務めた笹川堯元衆院議員が前橋市での党県連大会で挨拶し、「みんな胸に手を当てて反省してください。子どもの少ない人は」などと発言した。 

 

 朝日新聞DIGITALが報じた発言内容を見ると、笹川氏は「男がしっかりすれば、必ず女性は子どもをこしらえてくれる」「人間のことですから、子どもができない人もいる。しかし、その人はその人として働いて、世の中のために尽くしているから、それはそれでいいんだ」「お金を出したら人口が増えると思ったら大間違いだ。そんなことはありえない」「あなたの子どもならぜひ産みたい。作りたい。そういう気持ちになるような旦那が増えなきゃだめだ」と語っている。 

 

 

 様々な背景から少子化が進む中、精神論を振りかざす姿勢、時代錯誤な発想はあまりに残念である。もちろん、「言葉狩り」のようなことをするつもりは全くない。ただ、こうした発言には自分以外の価値観を認めない感覚が見えてしまうのだ。 

 

 思い出すのは、2007年の柳沢伯夫元厚生労働相による「女性は産む機械」発言や、2000年の衆院選の際に森喜朗元首相が発した「(無党派層は投票に行かずに)寝てしまってくれれば良い」という言葉だ。 

 

 野党も例外ではない。2009年に民主党が政権交代を果たした後、たとえば2010年に柳田稔法相が「法相はいいですね。2つ覚えておけばいいんですから」と発言。2011年には松本龍復興相が「知恵を出したところは助けるけど、出さないやつらは助けない」と被災県の知事に言い放った。他にも政治家による見下したような失言や放言の例は後を絶たない。 

 

 今回の都知事選で「既成政党離れ」が目立った点を見ると、国民は政治家に対する嫌悪感を強く抱いているように感じる。政権与党としてメディアに取り上げられることが多い自民党は裏金問題や政治資金規正法改正案をめぐる不手際も加わり、庶民感覚とかけ離れた存在の象徴と映ってしまうのは当然だろう。 

 

 自民党の小泉進次郎元環境相は「自民党は国民の信頼も失うようなことをした。地方選挙も、首長選挙も自民党というだけで、その迷惑をかぶっている現状がある」と話している。菅義偉前首相も6月23日配信の「文藝春秋 電子版」オンライン番組で「このままでは政権交代してしまうと危機感を持つ人は増えている」と述べ、その危機感は深刻なレベルだ。 

 

 都知事選の結果を踏まえ、自民党の小渕優子選対委員長は「勝利は今後の全国における選挙にも大きな弾みになるものと考えるが、一方で政治の信頼回復は未だ途上にあると感じている。改めて襟を正し、改革に取り組んでまいりたい」とのコメントを発表したが、その通り進んでいくことができるか否かが自民党の生命線になるはずだ。 

 

 逆に言えば、自民党内という組織全体にはびこる「悪弊」や「古い体質」を変え、国民政党としての感覚を取り戻せなければ、次の総選挙において国民の鉄槌が下される可能性は高まる。今回の都議補欠選挙の大惨敗は、政権交代へのカウントダウンを感じさせるには十分だったと言える。 

 

 

 一体自民党はどこへ向かうのだろう。すでに決定されている防衛費大幅増に伴う所得税・法人税・タバコ税の増税に加え、6月からは1人あたり年間1000円の「森林環境税」が徴収されることになった。電気・ガス代の補助金制度は5月使用分で終了し、電気料金などの負担は6月分から増加する。冷房が欠かせない夏場を前に補助金を打ち切る感覚が理解できない。 

 

 今春闘で大企業の賃上げ率は5.58%(1次集計)と高水準を見せたが、日本商工会議所が6月5日に発表した調査結果を見ると、中小企業の正社員賃上げ率は3.62%と大幅に下回っている。小規模事業者は賃上げの恩恵を得られていない上、最近の物価上昇によって生活が一向に上向かないといった声は根強い。 

 

 5月の毎月勤労統計調査によれば、実質賃金は前年同月比1.4%減少となり、過去最長の26カ月連続マイナスとなった。岸田首相は「所得倍増プラン」「資産所得倍増」などと掲げてきたが、岸田政権が発足した2021年秋から国民全体の生活は改善されているとは言えない。可処分所得が減っていけば、少子化対策にとってマイナスに働くのは自明だろう。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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