( 190363 )  2024/07/13 02:02:56  
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サイゼリヤが株主優待廃止を発表した(写真:西村尚己/アフロ) 

 

 サイゼリヤが7月10日に株主優待廃止を発表した。SNSでは賛否が表明された。 

 

 なお、結論から述べれば、当稿はサイゼリヤの株主優待廃止を賛成するものだ。私はかねて株主優待を批判的に見ていたので、同社の決定は正しいと考える。 

 

【画像】国内店舗数はここ数年横ばいだったサイゼリヤ。優待廃止で株価はやや低下も、アジア事業に支えられて業績は堅調(3枚) 

 

■現行の優待制度の内容 

 

 ところで、同社の株主優待の内容は次のとおりだった。細かな条件を抜きに説明する。 

 

・100株以上を保有する株主に『食事券』2000円分 

・500株以上を保有する株主に『食事券』1万円分 

 

・1000株以上を保有する株主に『食事券』2万円分 

 これを実施済の昨年をもって廃止とするとした。だから、短期的な食事券の取得を狙っている層からすれば衝撃的だっただろうし、落胆を招いただろう。 

 

 同社の発表によると、「株主の皆様への公平な利益還元のあり方という観点から、慎重に協議した結果、配当による利益還元に集約することが適切であると判断し、株主優待制度を廃止することといたしました。今後も(中略)企業価値の向上に取り組んでまいります」とした。このアナウンスは株主観点からしても正しいといえる。これは後述する。 

 

【画像】国内店舗数はここ数年横ばいだったサイゼリヤ。優待廃止で株価はやや低下も、アジア事業に支えられて業績は堅調(3枚) 

 

 なお、同社は同時に「配当予想の修正(増配)に関するお知らせ」も発表している。「直近の業績動向や財政状態、将来の事業展開等を総合的に勘案した結果、1株当たりの配当金を7円増配し、25円に修正することといたしました」として、前回発表予想の18円から今回修正として25円と増配を発表した。 

 

 しかし、この増配幅では、持ち株数によっては利益率としては食事券が有利だと判断したため、SNSでは批判コメントが多く見られた。 

 

 実際に、株価が下落したとする報道もあった。ただし、原稿の執筆時点(2024年7月11日)ではふたたび回復しており、中長期的に確認しなければならないだろう。一部、株主優待の廃止にたいして激怒している株主もいるようだが、激怒する必要はない、というのが私の考えだ。 

 

■サイゼリヤの業績 

 

 

 ところで論を進める前提として、同社の業績を見てみよう。 

 

 2024年8月期第3四半期で、売上高1633億円、営業利益101億円だ。実に営業利益は前年同四半期にたいして182%も伸びている。しかも通期でも売上高、営業利益ともに増収増益を狙う。 

 

 ただセグメントで見ると、日本はギリギリといった感じだ。 

 

・日本:売上高1062億円、営業利益13億円 

・豪州:売上高76億円、営業利益4億円 

・アジア:売上高581億円、営業利益82億円 

 

 つまり、日本は薄利で、他の地域に稼いでもらっている状況だ。 

 

 日本では安売りと徹底したコスト管理が注目の的になっている。そして、純粋に私も同社の品質はすごいと思う。なぜあの価格であのクオリティかわからないほどだ。しかし、現実的に儲かっているかというと、日本市場ではそれほどではない。 

 

 日本の利益状況が単純に株主優待廃止を導いた、という単純な図式では考えていない。それに実際には同社の大株主はサイゼリヤ代表取締役会長である正垣泰彦さんだ。株主優待廃止から増配への動きは株主を利することになる。 

 

 私は仕事の関係もあって現在は、国内株式について個別株をもっていない。インデックスファンドやREITなどで資産の大半を占める。だから個別株式の株主優待は羨ましい……と思わなくはない。ただ、その理由で株主優待に反対はしていない。 

 

■株主は食事券ではなく、配当や株価の上昇を望めば良い 

 

 まず、株主優待は日本特有の制度だ。もちろんすべての国の株式市場は知らないが、日本でとくに重要視された制度ではある。ただ、私はこの株主優待制度は、特定株主への優遇措置であり、特定株主への利益供与ではないかと疑っている。 

 

 たとえば「1000株以上を保有する株主に『食事券』2万円分」とあるが、それ以上を保有していてもそれ以上のメリットがない。さほど大きくない株主をターゲットにしているのは明らかで、平等性にも反している。さらに食事券は現金同等物を配っているため、配当金と同様の効果をもつ。それであれば、やはり株主平等の原則にも反している。 

 

 また、たとえば一般論でいえば、現在では日本企業といえども、上場している企業の株主の大半は外国人であり食事券を使うこともできない。かつては株主の数を一定以上確保することが求められたから、その際の名残といえるだろう。しかし、現代ではその意義を失っている。 

 

 

 さらに、「株主優待がなくなってソンをした」と感じる人もいるだろうが、株主なので食事券ではなく、配当や株価の上昇を望めば良い。それによってはるかに大きなリターンが望めるだろう。 

 

 ちなみに、サイゼリヤが株主優待に充てる金額にたいして、全体の増配額のほうが大きい。だから、持ち株数によって有利か不利かは分かれるだろうが、株主全体としてはメリットがあると判断できる。 

 

 なお、株主優待がなくなって、さらに期待する配当もなく、株価の上昇もなかったとしたら、それは株主の権利として取締役を選んだり、株主提案を提出したりすればいい。あるいは保有株を売却して、他の株式に乗り換えればいいだけだ。 

 

 ちなみに、株主を騙すわけではないが、ある意味で「なんとなく経営に納得してもらう」ために株主優待を発行するケースがある。株主も目に見える「券」とかクーポンやらをもらったら納得してしまう、というわけだ。なかには自社と無関係な券を配っていたケースもあった。 

 

 しかし、実際には、企業とは株主のものであり、株主は企業を通じて自身の資産を最大化させようとする。そのとき、株主優待という皮相的なものではなく、純粋に経営の巧拙でドライに判断されたほうが良い、と私は考える。その意味で、サイゼリヤの株主優待廃止決断と増配について、賛同と支援をしたい。 

 

坂口 孝則 :未来調達研究所 

 

 

 
 

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