( 190473 )  2024/07/13 16:12:38  
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「だし廊」店舗(筆者撮影) 

 

 コロナ禍を耐え抜いたはずのラーメン店の倒産が相次いでいる。2023年度(2022年4月~2023年3月)のラーメン店の倒産は、過去最多の63件で前年度の2.7倍に増えた。一杯のラーメン代は「千円の壁」と言われてきたが、大都市ではゆうに千円を超えるラーメンでも行列ができる人気店もある。だが、ブームに乗じた店舗拡大は両刃の剣だ。もともとラーメン店は参入障壁が低く、生き残りが厳しい業界と言われるが、原材料代や光熱費が高騰するなか、集客競争とコストアップのはざまでラーメン店の模索が始まっている。(東京商工リサーチ 東北支社情報部 早坂成司) 

 

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● 負債総額は約2億6000万円 今年最大となった人気店の倒産 

 

 ラーメン店は全国に約1万8000店舗ある。このうちの約半数が個人経営で、市場規模は約6000億円と巨大だ(経済産業省経済センサス活動調査)。 

 

 国民食であるばかりか、今や外国人にも知られた日本の食文化でもある。2020年に観光庁が発表した「訪日外国人の消費動向」によると、訪日客が日本滞在中に食べた「外食」のうち、「一番満足した飲食」ではラーメンが「肉料理(焼き肉、すき焼きなど)」に次いで堂々の2位にランクしている。 

 

 当然だが、ブームから文化へと成長した市場で、生存競争は激化した。身軽な経営も多く、倒産以上に多いのが店舗の閉鎖や撤退、オーナーチェンジによる店舗の衣替えである。居抜きで設備や内装はほとんど変わらず、看板だけが変わった新たなラーメン店は少なくない。ラーメン店経営は、腕やカンだけでなく、ブランディングやSNSの活用、ウェブ戦略など、現代ならではの能力が問われる時代になっている。 

 

 2024年2月、仙台の人気ラーメン店「だし廊」を展開する(株)ブロスアップが仙台地裁に民事再生法の適用を申請した。地元の人気ラーメン店で、仙台市内に6店舗を展開していた。負債総額は約2億6000万円と、今年発生したラーメン店の倒産では最大規模となった。 

 

 ブロスアップは2016年7月、だしソムリエの資格も持つ社長の原田佳和氏がラーメン店での経験を生かして創業し、1号店「だし廊 DASHIRO」をオープンした。2018年12月に法人化すると、「だし廊」の店名で2号店、3号店と短期間で積極的に出店した。 

 

 博多の豚骨ラーメン、北海道のみそラーメンが有名だが、仙台のご当地ラーメンには特産の仙台みそを使った「仙台ラーメン」がある。だが、仙台みそベースが多数派を占めるわけではなく、みそ系やしょうゆ系などバリエーションは幅広い。他地区に負けずラーメン店の数は多く、市内にはラーメン店がひしめき、群雄割拠の様相を呈している。 

 

 このなかで、同社が徹底してこだわったのは、社名の由来にもなった「だし」だ。飛び魚だし、貝だし、鶏だし、根菜だし、エビだしなど、多彩なだしをベースにしたラーメンが人気を博した。 

 

 また、創業当初から店舗で練り上げた自家製麺も定評があった。この「麺」と「だし」をベースにしたブランディング戦略が功を奏し、地名度は瞬く間に広がった。口コミ評価も高く、「ミシュランガイド宮城2017」にも掲載されたほどだ。地元メディアが集計するラーメン店の人気ランキングでは常に上位にランクされ、仙台屈指の人気ラーメン店へと駆け上がった。 

 

 

● 設備投資や多店舗展開で 資金負担が増加 

 

 コロナ禍が拡大した2020年。仙台の飲食業界もコロナ禍にほんろうされたが、ブロスアップは高い人気を追い風に4号店をオープンした。さらに、2021年には仙台空港内に5号店を出店。将来の海外展開も視野に入れた店舗として、話題を集めた。 

 

 さらに、コロナ禍の直撃で委縮する飲食業界を尻目に、市場が急拡大したデリバリー専門店やネットショップにも進出した。こうした事業拡大を支えたのは借入金だったが、前のめり経営に歯止めは掛からなかった。 

 

 コロナ禍で街の人流が止まり、飲食業界は持続化給付金やゼロゼロ融資などで凌いでいた時期と重なる。話題となった目新しい店舗も営業活動が制限され、客足が止まれば開店休業にならざるをえなかった。 

 

● 原材料高騰が追い打ち スポンサー支援による民事再生へ 

 

 競合店がひしめく地域で先行投資の回収が難しいのはコロナ禍に限ったことではないが、特にコロナ禍では外出自粛などによって計画通りに集客ができず、結果として損益分岐点を上回る売り上げを確保できずに苦戦を強いられた店舗は少なくない。 

 

 実際、ブロスアップでもそれを裏付けるように、ラーメンの評判とは裏腹に2020年6月期から赤字に転落した。 

 

 この間、ゼロゼロ融資の利用に加え、経営の打開策として、「事業再構築補助金」を活用し、フードトラックによる販売事業にも参入した。 

 

 この事業再構築補助金はコロナ禍で激変した需要などに対応し、新分野への進出や事業転換、事業再生の支援を目的に創設された。2023年10月締切分の第11回公募までに総勢約7万8000社が採択されたが、このうち、業種別の最多は飲食店で、全体の約1割を占めた。テイクアウトなどへの対応を進めた飲食店の申請が多かったようだ。ただ、現時点までに全採択企業のうち、338社が倒産に追い込まれたことが判明している。 

 

 さらにブロスアップは、セントラルキッチンを導入して麺などの生産体制を整備した。対外的にはコロナ禍に対応した効率経営を邁進しているようにみえたが、資金面は火の車だった。そして、ここに追い打ちをかけるように円安が進行し、ロシアのウクライナ侵攻で小麦価格も上昇した。あらゆる原材料価格が高騰し、厳しい経営を迫られた。 

 

 客足が不安定なまま、原材料や電気、光熱費の上昇分を販売価格に転嫁することは、さらに客離れにつながる。本業の収益悪化と設備投資の失敗をカバーするため、不採算事業から撤退したが、焼け石に水だった。その後も抜本的な経営改善に着手できないまま、自主再建を断念した。 

 

 今後は、地元の東洋ワークグループ(株)(仙台市)が支援する方向で進んでいる。同社は人材派遣業ビジネスを展開し、地元企業の再生にも取り組んでいる。ラーメン店6店舗の営業は継続しており、東洋ワークグループの支援の下で新たな事業展開を描くことになる。 

 

 

● ますます難しくなる ラーメン店経営 

 

 ラーメン店の倒産は、圧倒的に小・零細規模が多い。2023年度に倒産した63件のうち、負債1億円以上はわずか5件しかない。9割以上が負債1億円未満の小規模店だった。小規模事業者は経営リソースに乏しく、いったん経営が傾き、客足が遠ざかると、事業再生は至難の業だ。2023年度に倒産した63件のラーメン店のうち、再建型の民事再生法は4件に過ぎず、大半は消滅型の破産が占めている。 

 

 消費者と直結した飲食業界では、一度倒産で信用を失うと再建の道はとたんに険しくなる。例外としては牛丼の吉野家(会社更生法)、居酒屋の北の家族(民事再生)などがある程度だ。 

 

 この点で、知名度や一定の事業規模があったとはいえ、ブロスアップの再建は珍しい。もちろんスポンサーが付いたことが大きいが、それを含めて当社がこだわってきた商品力と、「だし廊」のラーメンを愛する顧客の支持が事業価値として評価されたことはいうまでもない。 

 

 一方で、開店から3年以内の廃業率が70%ともいわれる激しい生存競争が常のラーメン業界で、勢いだけで長く生き残るのは至難の業だ。コロナ禍におけるブロスアップの「猪突猛進」な経営には、冷静な判断や周囲からの指摘が必要だったのかもしれない。 

 

 ラーメン店の経営がますます難しくなるなかで、あらためて自社の強みと弱み、チャンスやリスクを洗い出し、現状を把握する冷静な視点が求められている。 

 

早坂成司 

 

 

 
 

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