( 191133 )  2024/07/15 16:12:59  
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北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への出発前、記者団の質問に答える岸田文雄首相。2024年7月10日撮影 Photo:JIJI 

 

 自民党総裁の任期満了までの憲法改正を目標に掲げている岸田首相だが、憲法改正の発議は行われるのか。任期満了も近づく中、意外な証言が飛び出した――。(イトモス研究所所長 小倉健一) 

 

● 「岸田首相にだまされないで」 異様な雰囲気の改憲派フォーラム 

 

 あのとき、あの会場にいた誰もが半信半疑だったと思うが、ジャーナリストの櫻井よしこ氏だけは岸田文雄首相の発言に「大きな変化を読み取ることが可能」だったと指摘していた。5月3日、憲法記念日に開催された改憲派のフォーラム『今国会で憲法改正の発議を!』での櫻井よしこ氏の基調講演での指摘だ。当時、私もその場にいたのだが、会場になった砂防会館は異様な雰囲気に包まれていた。 

 

 砂防会館の入り口付近には、「頑張れ日本!全国行動委員会」という保守派、改憲派のグループが「岸田首相にだまされないでください」と、改憲派のフォーラムに入場する人に呼びかけをしていたのだ。 

 

 そうした状況にあって、櫻井よしこ氏は講演の冒頭でこう述べている。 

 

 〈今日ここに集いましたのは特別の意味があると私は思ってまいりました。まず第一に、この道の反対側で、『頑張れ日本!(全国行動委員会)』の方々がちょっと変わった形で私たちにエールを送ってくれています。何か私は亡国の輩(やから)だそうでありますが、できれば保守の皆さん方がですね、小さな相違を乗り越えて、本当に今力を結集する時であります〉 

 

 ある意味、この櫻井氏の講演は、この会場外で「岸田首相にだまされるな」と呼びかけを行う『頑張れ日本』のメンバーや、岸田首相が本当に憲法改正をするつもりがあるか疑っている聴衆に向けて語り掛けられたと言っていい内容だ。櫻井氏は言う。 

 

 〈一連の総理の発言の中、大きな変化を読み取ることが可能ではないかというふうに思います〉 

 

 〈岸田総理は、今朝の産経新聞の一面トップの阿比留瑠比さん(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)との対談の中でもおっしゃっています〉 

 

 この産経新聞での対談で、阿比留氏から〈首相は自民党総裁の任期中(今年9月)の憲法改正を目指すと発言されています〉〈国民からすると、じらされ続けている感じがあり、「結局進んでいないんじゃないか」という疑問もわいています〉という指摘が飛び出した。岸田首相は〈いたずらに議論を引き延ばし、選択肢の提示すら行わないということになれば、「責任の放棄」と言われてもやむを得ません〉と発言している。櫻井氏の講演に戻る。 

 

● とにかく岸田首相を信じようと 連呼した櫻井よしこ氏 

 

 〈(岸田総理は)国民の皆様方の判断が大事なんですと、国会は発議するけれども、判断するのは国民なんですよと。これ、私たちから見れば当たり前の話。でも、総理が、この段階になってですね、この国民の判断、そのチャンスを与えなければならないのであって、もしそれをしないとすれば、それは政治の怠慢であり責任であるという風にはっきりおっしゃっています。 

 はっきりおっしゃったからには怠慢であってはならないと思ってらっしゃるわけで、大いに期待してもよろしいのではないですか〉 

 

 〈(こうした発言をすると)「櫻井さんはまだ岸田総理を信じているの?」って、もうとっくの昔に見放してもいいんじゃないかっていうお叱りを受けるんです。でも、皆さん、岸田総理が繰り返し繰り返しおっしゃって、「憲法改正、私の任期内でやります」「9月が(総裁)任期いっぱいです」「それまでに憲法改正やる」っておっしゃってて、今まで一度もやりませんということはおっしゃっていません。(岸田総理は)政治家です、一国の宰相です。この言葉を信じないでどうやって政治を動かしていくのか〉 

 

 他にも、岸田首相をやめさせて石破茂氏、小泉進次郎氏、河野太郎氏にしたところで、憲法改正をやり遂げる力があるとも思えないなどと、とにかく岸田首相を信じようと連呼を続けたのだった。 

 

● 任期内での憲法改正の発議は 現実的に無理な状態 

 

 最後に〈このミッション(憲法改正の発議)をやり遂げることができるのは、私は岸田さんしかいないと思って、他の人では、なかなかできないだろうという風に思っています。そう思いませんか?〉と会場に尋ねたが、会場からは弱い拍手が返ってきたのだった。会場の方が冷静だったようだ。 

 

 しかし、岸田首相とホットラインを持つ櫻井氏の主張である。それほどの意気込みがあるのかとも考えていたが、現在、7月11日まで憲法改正の発議など起きていない。今後、起きる予兆すらない。永田町のスケジュールから考えても、総裁任期内での憲法改正の発議は、現実的に無理な状態だ。 

 

 いったいなぜ、こんなことになっているのか。岸田首相は最後まで頑張ろうとしたが誰かに邪魔されてしまったのか。月刊誌「正論」8月号の連載『永田町事情録』にその答えが記されていた。 

 

 

● 岸田首相の不作為か 櫻井氏は「激おこ」状態 

 

 〈茂木(敏充。自民党幹事長)は十日に東京・丸の内のパレスホテルで行われた経済再生担当相、新藤義孝の子息の結婚披露宴に出席した際、岸田が意欲を見せる憲法改正への取り組みを聞かれると、「我々は段取りを整えているのですが、ここの人が言うことを聞かないんです」と、ついさっきまで岸田が座っていた席を指差した〉 

(月刊誌「正論」8月号『永田町事情録』) 

 

 なんのことはない。憲法改正の発議をしなかったのは岸田首相、その人の意思だったようである。こうした不作為を裏金問題が盛り上がったせいなどと背景を説明する人がいるようだが、5月3日の時点で、裏金問題は盛り上がっていたわけである。単純に、岸田首相は自らの意思で憲法改正をサボタージュしたということになる。 

 

 こうした状況に、櫻井氏は「激おこ」の模様だ。そんなこと5月3日の時点で、みんな薄々感じていたのに、「あの櫻井氏が言うのだから」と少しは岸田首相を信じてみようと考えた人も多かったのではないか。 

 

● 総裁任期満了も間近 真剣に国民に向き合うべきだ 

 

 櫻井氏は7月1日の産経新聞コラム『美しき勁き国へ』で、岸田首相についてこう述べている。2カ月前(5月3日)とのトーンの差に留意してほしい。 

 

 〈自民党は岸田氏に代わる志ある総裁を選出し、徹底的に国の在り方を議論し、再出発する。それが国益だ〉 

 

 〈安倍氏が暗殺され世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題が浮上すると岸田氏の本質がこぼれ出始めた。事件の核心は安倍氏の暗殺だった。日本国最大級の喪失、悲しみと憤りを国民と心を合わせてどう埋めるのか。法的、社会的にどう対応して乗り越えるのか。これが主題だった。しかし、メディアが一斉に旧統一教会問題を報じると、岸田氏は事の本質から外れて旧統一教会と自民党の関係清算に力を注いだ。本質を見る目が欠落していたのだ。支持率低下は当然〉 

 

 〈安倍氏亡き後、岸田氏への財務省の影響力は強まり、国民は氏を「増税メガネ」と呼んだ。これを苦にした岸田氏は5年10月、定額減税を打ち出した。 

 多くの人は選挙目当てと受けとめ、支持率はさらに下落。減税策で支持率を下げるというあり得ない現象が起きた。岸田氏は国民が感じとったうさん臭さの本質を理解できなかった〉 

 

 〈政治とカネのあるべき関係も議論されず理解も進められなかった。岸田氏は今日までずっと、事の本質をずらしたままだ〉 

 

 〈本質を読みとれない岸田文雄首相は大局観も欠いている〉 

 

 岸田首相は憲法改正の発議を行うのか否か。総裁任期満了が近づく中、いいかげん、真剣に国民に向き合うべきだ。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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