( 191173 ) 2024/07/15 16:48:41 0 00 Photo by gettyimages
前編記事『千葉県に盗撮マニアが「聖地」と呼ぶ駅があった…恐るべき「盗撮ステーションの実態」』の続きである。
【写真】千葉県に盗撮マニアが「聖地」と呼ぶ駅があった…「盗撮ステーション」の実態
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西船橋駅が「聖地」と呼ばれる理由は二つある。
ひとつは多くの女子高生が通学路として駅を利用すること。そしてもうひとつは、駅の構造的に盗撮をしやすい場所が非常に多いことだ。
西船橋駅の改札は2階にあるのだが、京葉線・武蔵野線を利用する場合は3階のホームまで上らなくてはいけない。このときに使うエスカレーターが20メートルと長いため、盗撮時間を確保することができる。
加えて、2階には様々な売店が並ぶ広いスペースがあるため、盗撮犯にとってターゲットを見定めるちょうど良い待機場所になっている。ある警察関係者はこう語る。
「残念ながらいくら警告文や盗撮抑止ミラーなどの対策をしても、盗撮被害が起きてしまっているのが現状です」
これほどの対策があっても、なぜ盗撮は減らないのか。その理由を解明するには、盗撮犯たちの実態を知る必要がある。
ここ数年は「盗撮グッズ」の小型化・高性能化が著しい。ペンや腕時計、充電器、メガネに偽装した巧妙なカメラが次々と登場。通信機能がついているものも多く、小型カメラで撮影しながら、スマホでズーム操作を行うことも可能だ。こうした手口は無音で行われるため、気づくのは難しい。
しかも、こうした商品はインターネット上で安価で簡単に入手できる。10年ほど前は2万~3万円ほどしたものが、中国製の廉価版が普及したことで3000円もあれば買えてしまう。
そして、盗撮という性犯罪が備える「特殊性」こそ、盗撮犯が後を絶たない原因と言えよう。
これまで盗撮などの性被害に関する刑事事件を700件以上も担当したことがある河西邦剛弁護士が、衝撃の実態を語る。
「捕まる人の大半は、30~100回くらい盗撮した経験があります。なかには1000回以上も盗撮して、ようやく捕まる人もいます」
かつて私の取材に「盗撮は誰にも危害を与えない『安心・安全な趣味』なんです」と話した盗撮犯がいたが、盗撮は対象者に気づかれにくく、現行犯で捕まることがきわめて少ない。統計上の検挙件数は氷山の一角なのだ。そして、捕まらないからこそ彼らの行動はエスカレートしていく。
その典型的な例が、盗撮動画の販売だ。
インターネット上には「盗撮サイト」と呼ばれるホームページがいくつも存在していて、そこでは盗撮動画が販売されている。いわば、盗撮犯による「闇マーケット」だ。
この闇マーケットの市場規模は100億円をくだらないとされている。昨年2月に迷惑防止条例違反で逮捕されたある盗撮犯は、動画販売で約1億5000万円も売り上げていた。たったひとりで、ここまでの大金を得られるのだ。
当然、警察は「闇マーケット」の存在を知ってはいるが、海外にサイトのサーバーが置かれるなど手口が巧妙なため、捜査の手が及びづらい。
こうしたサイトにおいて、動画を販売する盗撮犯は「神様」「カリスマ」などと惜しみない賞賛を浴びる。それどころか「あなたに憧れて、私も(盗撮を)始めました」というコメントもある。教祖のような扱いを受けた結果、罪悪感は薄れてしまい、もういちど褒めてもらうために盗撮を繰り返していくわけだ。
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盗撮はもちろん犯罪だが、盗撮犯にとっては「病」でもある場合もある。前出の河西弁護士はこう解説する。
「まず前提として、盗撮には様々なジャンルがあります。パンチラ盗撮やトイレ盗撮、性行為の盗撮など、多岐にわたります。そして、盗撮犯は複数のジャンルに手をつけることはありません。
パンチラの盗撮をする人はパンチラ以外を撮らないし、トイレで盗撮する人はトイレ以外では盗撮をしない。つまり、彼らは自分が好むシチュエーションにおける盗撮だけが『強烈な性的嗜好』になっています。倫理観を忘れるほど興奮してしまうから、盗撮をやめられないのです」
実際、盗撮の再犯率は高く、性犯罪の再犯率が約14%なのに対し、盗撮は約36%。盗撮をやめたくてもやめられない人は、医学用語で「窃視障害」と呼ばれる性依存症に陥っている可能性が高い。
河西弁護士のもとに盗撮事件を起こして訪れる人には既婚男性が多いという。彼らは決して女性経験が乏しかったり、女性との触れ合いを求めたりしているわけではない。そのほとんどが、犯罪ではあるとわかりながらも衝動的に止められないでいる人が多いのだ。
盗撮経験があるという30代の男性は、自身の経験についてこう語る。
「初めて盗撮をしたのは、大学生のときです。ベンチに座っている子のパンツを撮ったところ、異様に興奮したことを覚えています。それ以降、何回も盗撮を繰り返してしまいました。とはいえ犯罪行為だと認識はしていたので、大学卒業後は盗撮を控えていました。
ところが数年後、電車内でミニスカを穿いている女の子を見かけたときのことです。その子が降りるのを追いかけて、上りエスカレーターで盗撮してしまいました。当時は思考が停止してしまい、制御できなかった。女性に申し訳ない気持ちを抱いたのと同時に、自己嫌悪にも陥りました」
彼は同じ過ちを繰り返さないために、性依存症を治す専門クリニックへの通院を検討している。
大前提としては、盗撮は犯罪行為だ。何よりも被害者数を少なくすることに行政などは注力しなければならない。一方で、「なぜ盗撮に手を出してしまうのか」という疑問についても無視することはできない。加害者のなかには、「盗撮は許される行為ではない」と加害者自身が認識していたとしても、「依存症」のような症状が出て、自分で自分の行動が止められなくなる。
盗撮に及んでしまう人の心理については、多くの研究が行われている。たとえば、アメリカの犯罪心理学研究によると、盗撮癖がある人には「幼少期に親の性行為を目撃した人が多い」という。
このように、犯罪心理学の研究が進んでいくことで、後を絶たない盗撮犯を撲滅するヒントが見つかるかも知れない。
なぜ盗撮は減らないのか―。その理由にきちんと向き合わなければ、犯罪者たちが群がる「盗撮ステーション」に平和は訪れないだろう。
取材・文/竹輪次郎(ジャーナリスト)
「週刊現代」2024年7月13日号より
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