( 191633 ) 2024/07/17 01:55:02 0 00 中国国旗
【お金は知っている】
習近平国家主席率いる中国で進むEV(電気自動車)などの「過剰生産」に対し、国際社会が対抗措置に乗り出している。欧州連合(EU)欧州委員会は今月、「欧州の自動車メーカーに経済的な損害を与える脅威となっている」として、中国から輸入されるEVに対して10%から最大37・6%を上乗せする暫定的な追加関税適用を始めた。ジョー・バイデン米政権も8月から、制裁関税を強化する。日本市場にも影響を与えかねない中国製EVは今後、どうなるのか。産経新聞特別記者の田村秀男氏は、中国の乗用車販売データやEV業界事情を読み解き、「EVバブル崩壊危機」に近づいていると予測する。
【グラフでみる】中国の乗用車販売前年比増減率
不動産バブル崩壊不況に悩む習政権は経済成長率かさ上げのために、EVなど「新質」と称する新産業分野の増産の大号令をかけ、EV、リチウムイオン電池、太陽光パネルなどで世界最大の市場シェアを築き上げた。しかし、それらもまた生産過剰で値崩れを起こし、いわばEVバブル崩壊危機に突入しつつある。
グラフは、中国国内の乗用車販売台数の前年比増減率で、EV及びプラグインハイブリッド車(PHV)を合わせた新エネルギー車と在来型の内燃機関(エンジン)車別に推移を追っている。政府の手厚い補助金を背に、すさまじい勢いで販売台数が増えてきたが、よくみると、新エネ車も年を追うごとに増加率が減少している。このまま行けば、来年にはその伸び率は二桁台を切りそうだ。
EVはエンジンに代わって車載蓄電池から供給される電気によってモーターで車輪を駆動する。内燃機関車はエンジンと、そこから発生する力を車輪に伝えるトランスミッションが基幹部品になるが、いずれも複雑で高度な機械加工技術が必要だが、EVは不要で、核心機材のリチウムイオン電池さえ調達できれば、自動車メーカーでなくても比較的簡単に参入できる。補助金までもらえるとなって、文字通り猫も杓子(しゃくし)もEV分野に進出する。その結果、実に、100社以上がEVに新規参入し、凄絶(せいぜつ)なまでの過当競争が演じられている。営業収益で黒字化を達成したのは中国メーカートップの比亜迪(BYD)などほんの数社に限られる。
それは、同じく習政権の旗振りで、全国各地で地方政府系列まで含めた中小規模の不動産デベロッパーやノンバンク業者が高層マンション開発や不動産金融に一斉に乗り出し、不動産開発ブームが沸き起こった2010年代を彷彿(ほうふつ)させる。それは住宅需要を大きく上回る供給過剰、即ちバブルとなり、崩壊へと突き進んだ。
習政権は2010年代後半から、製造業に着目し、鉄鋼、造船など在来型業種に加えて、世界最大の市場シェアを獲得しようとして、EV、リチウムイオン電池を代表とする「新質」に集中的に補助金を投入し、それらの生産力強化に努めてきた。リチウムイオン電池などの材料に使われる鉱物資源の獲得に向け、共産党が支配する政府と企業、金融機関が一体となって東南アジアや中南米などでの鉱山開発に全力を挙げている。こうして、中国は昨年までにEV市場で65%、車載用電池市場で約7割のシェアを持つようになった。中国はこれらのサプライチェーン(供給網)を独占しているわけだ。
日本市場への影響は
中国製EVに対し、EUは7月5日から最大47・6%、米国は100%の関税を8月1日からかけるなど、国内市場からの締め出しに乗り出した。米欧のEV市場規模に比べると、日本やロシア、東南アジア、中近東などは小さいので、中国のEV供給過剰はひどくなる情勢である。(産経新聞特別記者・田村秀男)
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