( 192143 )  2024/07/18 16:42:17  
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実業家の堀江貴文さん。ライブドア社長として日本プロ野球への参入を断念してから20年、地元で独立リーグ球団を設立した狙いとは - 撮影=プレジデントオンライン編集部 

 

実業家の堀江貴文さんは宇宙ロケット開発やラジオ局など、さまざまな分野で事業を手がけている。そのうちの一つがプロ野球チームの経営だ。ライブドア社長として日本プロ野球機構への参入を断念してから20年、なぜ野球にこだわり続けるのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。 

 

【写真】堀江さん「この球団を見てプロ野球に参入しようとた」 

 

■NPBはもう球団を増やさないのか 

 

 ――北九州フェニックスは意外といっては失礼ですが、思ったよりも、お客さん、入ってますね。 

 

 【堀江】毎回、満席とまではいかないけれど、けっこう入ってます。 

 

 ――オリックス・バファローズの元オーナー、宮内義彦さんが『諦めないオーナー プロ野球改革挑戦記』(日経BP)を出しました。そこでは球団をこれ以上増やすことに「反対です」と明言しています。12球団でいいと。 

 

 そんなこと書いてるんですか。 

 

 ――はい、増やさなくていい、って。でも、増やしたほうがプロ球団はどこも儲(もう)かるんじゃないでしょうか? 

 

 それは球団を増やしたほうが儲かります。ただ、既存のオーナーが絶対に嫌だって言うんですよ。宮内さんだけでなく、どの球団オーナーも嫌だろうから、僕はNPBが変わることはまったく期待してない。 

 

 ――それはどうしてでしょう? 

 

 彼らは自分たちと同じ考え方の人は入れる。でも、そうじゃない人は入れないスタンスになっている。はっきり言えば自己中心的で全体を見ていない。僕はずいぶん前からこのことを言ってきたけれど、ずっと黙殺されてきました。だから、自分で独立リーグの球団を作ったわけです。それが北九州下関フェニックス。 

 

■当時のダイエーホークスが球界を変えた 

 

 そうはいっても、フェニックスはまだこれからの球団ですよ。ただ、ビジネスとして勝ち筋はあると思っていて……。 

 

 例えば昔のパ・リーグは人気がなかった。でも、今は大人気じゃないですか。それと同じことをやればいい。たった20年前のことなんですけどパ・リーグが不人気だったことをみんな忘れちゃってます。 

 

 人気がなかったのはテレビ放送がなかったから。すべて変えたのが福岡ダイエーホークスでした。僕はそれを見ていて、チャンスあるなと思ったから2004年に近鉄バファローズ(当時)を買収しようと思ったのです。 

 

 ――なるほど、そうだったんですね。福岡ダイエーホークスは何をやったのですか? 

 

 ダイエー創業者、中内㓛さんの息子さん(正、次男)がメジャーリーグを視察して回り、福岡に「ドーム3点セット」を作りました。福岡ドーム、ヒルトン福岡シーホーク、プロ球団の3点セットを百道(ももち)という湾岸エリアに作ったんです。 

 

 当時、めちゃくちゃ批判されましたが、今ではそれが当たり前のやり方とされています。特に球団と球場は一体経営しなきゃいけない。加えてホテルが必要なのはアウェーチームの選手やファンが来るから必要なんです。3点セットは正解でした。 

 

 

■「3点セット」で参入を目指したライブドア時代 

 

 もうひとつ忘れてはならないのは、福岡ダイエーホークスを盛り上げたのはリクルートから来た人だったこと。 

 

 ダイエーの経営が傾いてきた時期、中内さんは1992年に買収したリクルートの江副(浩正)さんに頼んで、優秀な人材をダイエーの福岡事業にあたらせた。担当したのが高塚(こうづか)(猛)さん。 

 

 高塚さんがやったことは、まず地元の商店街に対してホークスグッズをライセンスフリーで使っていいよ、と。旅行代理店と提携してバスツアーを企画して球場に呼んだり、福岡のテレビ局にホークス戦の中継をお願いしたり、子どもたちを招待したり……。地域密着の戦略で観客を動員しました。 

 

 2000年代前半には福岡ドームは平日でも満員御礼になったくらい。それを見て日本ハムは北海道にフランチャイズ移転を決断するわけです(実施は2004年)。 

 

 ――それで堀江さんはライブドア時代、仙台に球団を作ろうと考えたのですね。 

 

 そうです。仙台で3点セットを作ればいい、と。仙台だけでなく、球団も増やして全国10都市くらいに3点セットを整備する。地方都市はまだ娯楽が少ないから今でも必要です。 

 

 実際に、僕があの頃言っていた通りになってきています。プロ球団は自前のスタジアムをどんどん増やしています。巨人は築地移転が取り沙汰されていますし、DeNAも横浜スタジアムを買った。 

 

■約20年訴えているが、黙殺されている 

 

 ――プロ野球ビジネスがそこまで成長しているなら、NPBはそれこそ球団を増やせばいいのでは? 

 

 そうです。例えば16球団になったとします。まず、クライマックスシリーズが盛り上がる。シーズン中はパ・リーグ、セ・リーグは東西に分けて4球団ずつでペナントを戦えばいい。交流戦もやります。そして、クライマックスと日本シリーズ。 

 

 メジャーリーグはポストシーズンがいちばん盛り上がるし、放映権もシーズン中の試合より高く売れる。日本だって球団を増やせばそれができる。放映権は地上波テレビではなく、AbemaTVやサブスクサービスに売る。20年くらい前からこの話をしてるんですけど、黙殺されてますね。 

 

 今の球団オーナーの何人かは現状維持で球団を増やさないほうが既得権を守ることができるという考え方をしている。ポストシーズンの放映権は高く売れるのに、セ・リーグなんて共同で放映権を売ろうという考え方すらない。メジャーリーグでは放映権は一括ですから。 

 

 

■スポーツビジネスはテレビ局が支配してきた 

 

 日本ではスポーツビジネスを地上波が支配してきた。その構造を変えることです。 

 

 プロゴルフだって、団体でまとまって放映権をサブスクに売ればいい。女子のプロゴルフ団体は一括して放映権を売ることになりましたけれど、男子プロゴルフはまとまっていません。それは試合を地方のテレビ局が主催してるから。地方テレビ局の主催だと個別交渉になるから試合を高く売れない。そこで選手の賞金を上げることもできない。 

 

 ――日本の男子プロゴルフ、アメリカのPGAツアーに比べたら賞金は圧倒的に安いです。かわいそうなぐらい。 

 

 そうなんですよ。PGAツアーはまとめて放映権を売ってるから賞金を高くできる。僕自身はスポーツビジネスをやるなら相撲だと思ってます。NHKが相撲協会に払っている放映権料は年間でわずか30億円といわれています。 

 

 安いです。相撲はグローバルコンテンツです。放映権はサブスクに10倍で売れます。 

 

■膨大な仕事をこなすホリエモンの時間術とは 

 

 ――さて、まったく違うことを質問します。堀江さんはロケットからプロ球団、ラジオ、和牛、パンなど、さまざまな事業のファウンダーとして経営に携わっています。多くのビジネスに対する時間コントロールはどうやっているのですか? 

 

 余計な仕事はしないこと。時間を取られるような仕事はしない。例えば、スケジュール調整って、意外に時間を取られる仕事なんです。ですから、調整するより、その場で来た仕事から片づける。スマホとオンラインで仕事はできます。スケジュール調整はそのうちAIがしてくれるようになる。 

 

 今、考えてるのはシンクタンクを作ること。僕がしゃべる時にデータが必要なんです。しかし、調べるのに手間がかかる。それを専門にやるスタッフを雇って、調べてもらう。政策秘書みたいな感じですか。それを考えています。 

 

 ――堀江経営研究所みたいなものを作ったらいいと思います。「堀江さんと働きたい」という人は大勢、います。CROSS FMの大出整社長、北九州下関フェニックスの竹森広樹社長、堀江さんと働くことがとても幸せそうでした。 

 

 うーん、それもまたちょっと重たい。そういう関係に慣れてないので。 

 

 それより、今、日本の競馬って世界一ですよ。相撲もそうだけれど、日本にはスポーツのコンテンツでいいものがある。 

 

 

■スポーツビジネスはデータでもっとおもしろくなる 

 

 たぶん競走馬のレベルは世界一です。5月にサイバーエージェントの藤田(晋)さんが持っている馬(フォーエバーヤング、坂井瑠星騎乗)が世界最高峰のケンタッキーダービーで勝ちそうになりました。残念ながら、鼻差の3着でしたけど。でも、日本の競走馬はそのくらいのレベルに達してる。 

 

 加えて日本中央競馬会の存在です。しっかりした組織なんですよ、これが。おそらく世界で初めて公営ギャンブルでデータ提供を始めています。1992年から始まっているJRA-VAN(子会社のJRAシステムサービスが運営する競馬情報サービス)がそう。パソコン通信で競走データをダウンロードできるという、そんな先進的な取り組みを30年以上前からやってるわけです。他のスポーツでも取り入れるべき。 

 

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〈堀江貴文は全国各地で、さまざまなジャンルの仕事を同時に進めている。加えて新しい仕事にも随時、着手している。日常的に多人数のビジネスパートナーとコミュニケーションをとっている。 

 

CROSS FMの大出、北九州下関フェニックスの竹森のような立場にいる人間が日々、SNSで連絡してくる。時にはオンラインで打ち合わせをする。彼はそれに対して迅速に答えを出し、意図を伝え、実行を促す。 

 

それができるのはデジタル機器を駆使しているからだ。だがそれだけではない〉 

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■「一発で理解できる文章」の達人でもある 

 

 現在、ビジネスに限らず、コミュニケーションの基本は文章になっている。長々と電話で指示する経営者はいない。打ち合わせや会議を開催し、口頭で指示を伝達することもある。しかし、それで終わりではなく、必ずメール、SNSで指示を伝達する。文章力がコミュニケーションを左右する。 

 

 堀江貴文が他の経営者より抜きんでているのは「誤解されないような文章を書く力」だ。文学的素養と豊富な語彙で、判断と意志を伝えている。 

 

 彼のビジネスパートナーは問い直したり、誤解したりすることなく堀江の意図を実行することができる。結果としてコミュニケーションの時間を節約している。 

 

 では、彼が書いた文章とはどういったものなのか。ひとつの例を挙げる。NHKの連続テレビ小説『朝ドラ』の感想を書いたFacebookの投稿を一部、省略したもので、原文ママだ。 

 

 「特に涙無しにみられなかったのが、戦前最大の冤罪事件『帝人事件』をモチーフにした週だ。政財界の大物に加え贈賄側の株券運び役に見立てられたのが主人公の実父であり主人公は父の無罪を信じて恩師である弁護人を助け見事無罪を勝ち取る。『水面に浮かぶ月光を掬い上げるような』という法曹関係者ならみんな知っているこの表現は帝人事件の無罪判決を書いた東京地裁の判事が書いたものだ」 

 

 

 
 

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