( 192398 )  2024/07/19 14:52:08  
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 7月14日放送のTBSの報道番組「サンデーモーニング」(サンモニ)でのキャスターを務めるフリーアナウンサーの膳場貴子氏の発言が物議を醸している。膳場氏は演説中のトランプ前大統領が銃で右耳を討たれたことなどを巡り「すごくプラスのアピールにもなりかねない」とコメントした。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。 

 

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 7月13日午後6時(日本時間14日午前7時)に米東部ペンシルベニア州バトラーで開催された集会において、演説中のトランプ前大統領に対して何者かが銃を発砲する暗殺未遂事件が発生した。トランプ氏は右耳を撃たれたが、無事であった。サンモニの速報映像では、銃撃後に出血しているトランプ氏が拳を上げる姿があった。「不謹慎だ」などと批判が起きたのは、その映像を受けて、ゲスト出演した藪中三十二元外務事務次官とのやり取りだった。その時の模様を書き起こしてみよう。 

 

膳場:選挙戦中にこういうことが起きた。民主主義の根幹である選挙を暴力で妨害してくる。許せないことではありますけれども、どういった影響がこの後出てくるのか? 

 

藪中:これからの影響ですけれどもね。本来皮肉なことなんですよ。トランプさんの立場は銃規制に反対というね。そこでこういう事件が起きたと。ただ、こうやって拳をあげた姿っていうのは、『俺は元気だぞ』と。むしろ選挙戦から言うと変な話ですけどね。有利に働く可能性はあります。  

 

膳場:すごくプラスのアピールにもなりかねないという感じがする。共和党、トランプ陣営が結束していくきっかけになるかもしれない。 

 

 紙一重で、トランプ氏はテロリストの兇弾に倒れいていたかもしれない。実際に聴衆の1人はテロリストの銃弾で死んでいる。そんな民主主義の根幹を揺るがす暗殺未遂事件で「すごくプラスのアピールにもなりかねない」と評価を加えたことに、X上で《人の心は、あるのか?》《人としてどうなのか》と批判をする声が続出している。 

 

 不謹慎であったのは間違いないが、「すごくプラスのアピール」というのも実態を表してるのは間違いない。サンモニという番組が、普段から公平公正な番組作りをしていれば、ひょっとしたら炎上もしていなかっただろう。 

 

 

 サンモニは、有名組織や著名政治家に「右派」「保守」の匂いを嗅ぎ取ると徹底して批判し、逆に「左派」「リベラル」と思しきものについては、実態が伴っていなくても、ルール無視で応援してきたようだ。 

 

 ブロガーの藤原かずえ氏によるウェブメディア『月刊Hanadaプラス』(7月8日)の論考を参照すると、 

 

 サンモニは、7月7日の都知事選投開票日当日の放送で、蓮舫陣営が行っていた「ひとり街宣」を取り上げ、 

 

<みたらし加奈氏:今回選挙の在り方がかなり大きく変わったものがあったと感じた。特にSNSを使った選挙活動は各候補者それぞれが目立っていたと思うが、その中でも私が注目したのが「ひとり街宣」と呼ばれる市民一人一人が街宣を行っていくという運動。これは2022年の杉並区長選から注目されてきたと言われることだが、今回の都知事選挙では600以上の駅で3000人の方が、ひとり街宣を行なった。これは凄く新しい形の民主主義だ。これから都知事がどうなっていくのかにかかわらず、みんなが都政の動きを見ているというところがアピールされた選挙になって行くのではないか。 

 

膳場貴子氏:選挙の新しい関り方かと思いますが 

 

竹下隆一郎氏:ひとり街宣で面白かったのは、プラカードをもってSNSに投稿するのだが、東京都以外の人もやっている。つまりこれは選挙運動や選挙活動が新しくなっていると思う。> 

 

 と、延々と、蓮舫陣営しかやっていない「ひとり街宣」を好意的に長尺で取り上げたのだ。膳場氏も公正に欠けるコメントを止めることもしないまま、またもう1人のゲストが、「ひとり街宣」を好意的に取り上げているのである。 

 

 それにしても投票日当日に、こんな報道を許す番組が存在することに非常に驚いている。膳場氏にも大きな責任はあるが、あらゆるゲストがリベラルや左派を熱烈に応援し続ける様を見ていると、責任の所在は、膳場氏にだけにあるのではなく、番組全体にあるということだ。 

 

 番組のホームページには、<制作プロデューサー金富 隆 番組プロデューサー黒岩亜純>と、クレジットが記されている。 

 

 

  検索してみると、金富氏のXのプロフィールには<TBS報道局 プロデューサー 「筑紫哲也NEWS23」「サンデーモーニング」「最後の赤紙配達人」「終戦SP 学徒出陣~大学生はなぜ死んだ」「終戦SP 子どもたちの戦争」「女性たちの8.15」「戦後76年SP へいわとせんそう」「NO WAR プロジェクト 戦争と嘘=フェイク」「戦争と子どもたち」などを制作>、黒岩氏は<TBS系 news23 担当部長/ ※掲載内容は個人の意見です。/前モスクワ支局長、 サンデーモーニングプロデューサー、夢の扉+チーフプロデューサー、政治部、筑紫哲也NEWS23担当デスク 、報道特集 、等 (共著 ) 「大学生のための動画制作入門」「夢の扉+ あきらめない人のための24の言葉」>とあった。 

 

 こうした公平さを欠く報道が、影響力の強いテレビ番組で行われるとどういう事態が待っているか、私たちは真剣に考えてみないといけない。ニューヨーク大学の論文「偏向メディアの選挙効果:ウクライナのロシアテレビ」(2017年、https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/ajps.12355)は、下記のような指摘をしている。 

 

<選挙区レベルの選挙データを用いると、ロシアのテレビ放送は、その顕著な偏向にもかかわらず、 親ロシア政党の選挙支持率を実質的かつ有意に高めたと推定される。ロシアのメディアがウクライナの国内政治をほとんど報道しなかった2010年と2012年の選挙や、地上波テレビを視聴できずロシアのアナログ信号の強弱の影響を受けにくかったウクライナ人を対象としたプラセボ・テストでは、ロシアのテレビのこうした効果は見られなかった> 

 

<(親ロシアに偏った)テレビ報道は、親ロシア的な先入観を持つ有権者には最も効果的であったが、親欧米的な先入観を持つ有権者にはあまり効果がなく、ある程度は逆効果であった> 

 

<異質性を直接研究していないが、隣国クロアチアでのセルビア語ラジオの受信が、過激なクロアチア民族主義者と穏健な社会主義政党の両方への支持を増加させた> 

 

 つまり、サンモニの報道は、都知事選であれば蓮舫候補に対してシンパシーを持っていた層に対して、より強固な応援をするような効果を持っていたということになる。 

 

 

 逆に、蓮舫候補に対して批判的な層はますます蓮舫候補が嫌いになったということだ。これは、選挙戦を通した蓮舫陣営の失敗にも重なる部分がある。無党派層がドン引きしてしまうような攻撃的で、閉鎖的な選挙運動を展開し、自らの「お友達」「仲間」だけが盛り上がってしまったということだ。 

 

 サンモニは、リベラルを応援したいという信念で報道を続けているのだろうが、かえって無党派層などの反発を招いている可能性がある。 

 

 そしてまた、リベラル派がもっとも批判しているところの「社会的分断」が起こしているとも言える。あまりに独善的な報道は、社会にとってプラスになることはない。分断!分断!と保守政治家を糾弾する割に、実際に分断を起こしていたのは自分たちであるというのは、皮肉という他ない。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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