( 192478 )  2024/07/19 16:28:35  
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関西に進出する「肉のハナマサ」(編集部撮影) 

 

 6月、業務用食品スーパー・肉のハナマサ(以下、ハナマサ)を運営する花正(東京都港区)が、今秋、大阪に2店舗(千日前、九条)出店すると発表した。併せて、大阪名物でもあるスーパー玉出の8店舗を譲り受けて、ハナマサとして出店することも報じられた。 

 

【画像】肉のハナマサ、好調を支える親会社のワザとは? 

 

 現在26店舗を展開しているスーパー玉出は、西成区を中心に残る店舗で事業を継続するが、ハナマサとの業務提携も実施。それぞれのプライベートブランド(PB)商品を販売するほか、玉出の生鮮・総菜を関西のハナマサに供給するとのこと。都内中心に首都圏で展開していたハナマサが、本格的に関西進出ということになる。 

 

 ハナマサの黄色い看板は都内の繁華街周辺でもよく見かけるので、ご存じの方も多いかもしれない。ハナマサのような業務用スーパーは基本的に大容量の商品を簡易なパッケージ(消費者向けではないので見た目を気にする必要がない)で売っているため、食材を安く入手できる。ハナマサは「一般のお客さま大歓迎」とうたっていて、周囲の住人にも安いスーパーとして認知されている。 

 

 このジャンルでは神戸物産の「業務スーパー」が最大手だが、同社は生鮮や総菜は基本的に扱わない。一方ハナマサは大容量でお得なPB加工食品「プロ仕様」で、さまざまなジャンルを取りそろえているが、肉の大容量パックなどの肉関連商品が大人気である。青果、水産も相応に品ぞろえしており、大きくはない店だが、業務用需要+家庭用需要を両方取り込めるため、十分な売り上げを確保できる。 

 

 ここ最近人気のハナマサだが、その歴史は紆余曲折があり、過去には経営不振に陥っていた時期もあった。東京都江戸川区で食品スーパーを始め、1983年には肉を強みとして銀座に業務用スーパーを開き、以降は急速に成長。100店舗を超える店舗網までに拡大したが、郊外で急拡大した店舗に不採算店が急増し、経営がつまずいた。 

 

 2008年には全日本食品(食品小売店、ミニスーパーなどのボランタリーチェーン)とファンドの支援、出資を仰いで再建を目指すことに。その後、2013年に精肉卸から発祥した生鮮スーパー運営のジャパンミート社(現JMホールディングス、東証プライム上場)の完全子会社となったことで、業績が急回復した。JMホールディングス(以下、JM)が、強力な生鮮スーパー運営ノウハウを持っていたからである。 

 

 

 JMはグループ売り上げ1548億円、経常利益74億円(2023年7月期)という巨大生鮮スーパー運営企業だ。中小スーパー、卸売などのM&Aも併用しつつ成長を続けており、この10年ほどで売り上げを倍増させた、知られざる有力企業である(図表1)。 

 

 同社は食肉卸から発祥し、スーパー店内での精肉売場運営で頭角をあらわした。総菜製造販売も内製化しつつ、商業施設内での生鮮スーパー業態を確立。特に、北関東地盤で巨大ホームセンターを運営するジョイフル本田(茨城県土浦市)のスーパーテナントとなり、同社とタッグを組んで生鮮スーパー「生鮮館」を大成功させた。これを基盤に生鮮スーパーを多店舗展開するに至る。ハナマサを傘下に入れ、その再建にも成功したJMは今まさに、成長を加速しようとしている。 

 

 JMが手掛ける生鮮スーパーの成長の原動力は、精肉卸としての調達能力を起点とした精肉の圧倒的なコスパにあるとされているが、それは同社が「異常値販売」と呼ぶ手法である。「特定の商品を大量に陳列し、値頃感がある商品を顧客にアピールすることで、購買意欲を高める」と表現しているが、これが実際に消費者の高い支持を得ている。 

 

 生鮮館は店舗当たり年商30億円ほどを売り上げるようなのだが、これは大型店を運営する食品スーパー大手ヤオコーの店舗平均売上に匹敵。一般食品も多く売っているロピア、オーケーが40億円ほどで食品スーパーのトップレベルであることを考えれば、JMの販売力がすさまじいことは分かっていただけるだろう(一般的な食品スーパーは15億円程度)。このノウハウをM&Aでグループ入りした企業にも適用可能であることは、ハナマサの業績からも分かる。 

 

 ハナマサの業績推移のデータは、2014年以降開示されている(図表2-1)。売り上げも経常利益も順調に右肩上がりで推移しているが、その要因は店舗数を増やすことに依存したものではない。 

 

 図表2-2はハナマサの店舗数と店舗当たりの売り上げ推移を示したものだ。店舗当たりの売り上げが上昇していることにより、会社の売り上げが伸びていることがお分かりいただけるだろう。これは、JMの生鮮強化が奏功して、ハナマサの既存店売上が増加しているということであり、販売力が強化された結果といえる。精肉の調達力を背景としたJMの生鮮販売ノウハウが他のスーパーに適用できるのであれば、JMはM&Aを強化することで、さらなる成長シナリオを描くことが可能なのだ。 

 

 JMは、ハナマサの子会社化以降も、中小スーパーのM&Aを実施しており、2023年には東京北部に13店舗を展開するスーパーみらべる(売り上げ150億円ほど)を傘下に入れた。今後、JMはこれまで以上に積極的に食品スーパーのM&Aを強化して、さらに業界で注目される存在となるだろう。 

 

 その理由に、JMの大型加工物流センターへの投資が完了したことが挙げられる。この供給基地は売り上げ2000億円を想定した先行投資であり、これはM&Aで供給量が拡大しても十分に対応可能な規模がある。このインフラを備えた上で、JMの販売ノウハウを適用すれば、成長を加速させられるのである。 

 

 センターを増設すればさらなる拡大もできるため、今後、JMが業界再編の核として名乗りを上げることは十分に可能だ。それこそ、業界の台風の目がまた1つ北関東に誕生した、といっていいだろう。 

 

 

 では、JMが乗り込んだ京阪神の食品スーパーの現状について整理しておこう。図表3は大阪、京都、兵庫で活動する主な食品スーパーの銘柄をリストアップしたものだ。このエリアは地元勢としてライフ、万代、関西フードマーケット(エイチ・ツー・オー リテイリンググループ)が、それぞれ売り上げ4000億円弱で鼎立(ていりつ)。その中で、総合スーパーを含めたイオングループ(旧マックスバリュ西日本のフジ、光洋)が推計売上6000億円超でトップクラスに位置する、といったマーケットになっている。 

 

 加えて、昨今ではこの首都圏に次ぐ規模のマーケットを狙って他エリアからの進出も増えつつある。代表格は今、売り出し中のディスカウントスーパー・ロピアであり、すでに同地域に15店舗を出店。売り上げ600億円以上(推計値)を確保したようだ。また、滋賀の平和堂の売り上げは1200億円を超えており、中部地方の成長企業バローもすで240億円以上になっている。 

 

 これからということでは、かつて関西スーパー争奪戦で話題となったディスカウントスーパーの王者オーケーが東大阪に関西1号店を出店。そこに、JMの尖兵としてハナマサが乗り込んでいるという構図なのである。京阪神マーケットの争奪戦は一気に過熱すること必定だ。 

 

 JMの関西進出はこうした事情をよく理解した上での布石のように思われる。急速に競争が激化するこの地区において、地場大手と進出組が激戦を繰り広げることになれば、さきほどのリストには入っていない中小スーパーの中から脱落組が現れる。一般的には、大手スーパーは、自社の店舗スタイルに合わない企業まで再生することが難しいため、古い店舗、小さい店舗のスーパーの受け皿になりにくい。 

 

 しかし、生鮮運営ノウハウのあるJMにとってはそこがハードルとならないため、中小の駆け込み寺となれる可能性がある。そうして一定の売上規模まで集めれば、加工センターを投入して関東でのモデルを再現できるのである。何年か先には、JMグループが中小スーパー再生工場となって、一夜城のごとく巨大加工センターをオープンする、というニュースが業界を震撼させる日がくる……そんな妄想も浮かんでくるのである。 

 

著者プロフィール 

 

中井彰人(なかい あきひと) 

 

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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