( 192913 )  2024/07/20 16:49:32  
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厚生労働省が発表した人口動態統計によれば、日本の出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数)は1.2(2023年)と過去最低を記録した。日本の出生率は8年連続で前年を下回り続け、東京都では出生率が1を切った。 

 

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私が暮らす北欧デンマークにおいても、最近、出生率は低下傾向にある。1980年代後半から上昇していた出生率は2008年の約1.9を境に下降傾向にあり、2021年にはまだ1.7以上だったものの、2023年には急降して1.5を切った。だが、それでもデンマークの出生率は日本に比べるとまだ高い。 

 

では、デンマークではどのような少子化対策をしてきたのだろうか。あるいは、デンマーク社会のどのような面が、少子化対策につながっているのだろうか。実際にデンマークで出産育児を体験して気がついたことをここでご紹介したい。 

 

記事前編は「酒に酔い、電車内で大声で騒ぐ若者たち…それを見たデンマーク人たちの『日本では驚きの反応』」から。 

 

写真:現代ビジネス 

 

デンマーク社会は、子持ち家庭にも優しい。 

 

職場の労働環境は、子どもの送迎などをする「子持ちの親」を基準にしてつくられている。筆者の著書に『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHPビジネス新書)という、デンマーク人の働き方をテーマにした本があるが、タイトル通り、デンマーク人は本当に午後4時に帰宅する。早退でも何でもなく、職場からのデフォルトの帰宅時間が、午後4時なのだ。 

 

みんなで無理して頑張って働くのではなく、みんなホドホドに適当なところで仕事を切り上げて帰宅する。それでいて、国際競争力は2年連続1位(2022・2023年)、2024年もベスト3入りしているし、ビジネス効率性については5年連続1位(2020~2024年)である。 

 

なぜそんなことが可能なのか。気になる方はぜひ本書を読んでみてほしい。その秘密を紐解いてみると、じつはすべて筋が通っている。 

 

デンマークでは、「子持ちの親」を基準にして職場が回っている。基本の帰宅時間は午後4時で、子どもの送迎で早退するのは日常茶飯事、子どもの風邪による在宅ワークも欠勤も当たり前だ。さらに、子どもの夏休みに合わせて夏に連休を3週間取得するのも、当然の権利として認められている。会社と交渉して、さらに長い夏休みを取得する人もいる。有給休暇を取得することに職場や社会から冷たい視線を感じることはなく、後ろめたさを感じる必要もない。 

 

子持ちの社員は、社員である以上に「親」である。仕事よりも「親としての役割」を優先するのは当たり前、という共通認識がある。 

 

 

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今まで述べてきたことはすべて「パパ」にも当てはまる。筆者がデンマークで驚くのは、男性の家事育児へのコミットぶりである。 

 

デンマークでは夫婦共働きのフルタイムが一般的だ。女性もフルタイムで仕事をしているので、男性もがっつり家事育児をしなくては家庭が回らない。 

 

デンマーク人男性を見ていると、彼らの家庭・学校・地域での働きぶりは、「パパの育児参加」という生易しい言葉では片づけられない。男性がひとりでベビーカーを押して歩く姿、保育園や幼稚園に送迎に来る姿、子連れでパパ友と遊ぶ姿、保育施設や学校の行事に参加する姿……。 

 

個人差はあるが、誰に褒められることなく料理・洗濯・掃除・育児を淡々とこなすデンマーク人男性の「家事・育児力」の高さを目の当たりにすると、筆者は脱帽してしまう。 

 

最後に、私が好きな光景を紹介して本記事を終えよう。 

 

デンマークで私が好きな光景のひとつは、パパがジョギング用ベビーカー(別名ストローラー)を押しながら公園をジョギングしている光景だ。 

 

子どもの世話をするついでに、自分がしたいジョギングもする。その様子は、育児をしながらも、自分のやりたいことも同時に追求するデンマーク人の姿を象徴している気がするからだ。そして、その間、きっとママは家事や上の子の相手をしているか、仕事しているか、「自分時間」を楽しんでいる。 

 

工夫すれば、夫婦共に、仕事も、育児も、好きなこともなんとか追求できる。それが可能な環境づくりや、すべて追求することを歓迎する「空気感」が少子化対策には必要だ。 

 

針貝 有佳(デンマーク文化研究家) 

 

 

 
 

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