( 194133 ) 2024/07/24 01:54:37 0 00 岸田内閣が掲げる「異次元の少子化対策」の効果は(時事通信フォト)
「経済的な不安定」「子育てと仕事の両立の難しさ」「賃金格差」──少子化にまつわる議論では、まるでこの国がいま、“お先真っ暗”で未来への不安を抱えているかのようなワードばかりが並び、現役世代にそこはかとなくプレッシャーを与えている。しかし、少子化によって人口減少する日本の未来は、本当に“最悪”といえるのだろうか。加速する少子化がもたらす“この国の新しいカタチ”を考えていきたい。【全4回の第2回。第1回から読む】
【グラフ】出生数は1971年に比べ2023年は半数以下 出生数と合計特殊出生率の推移
実際、岸田内閣は「異次元の少子化対策」を掲げ、年間3兆6000億円もの巨額の予算を少子化対策に投じた。また、これまでも政府や自治体はさまざまな少子化対策を打ち出している。
しかしそれらはどれも少々「的外れ」ではないかと指摘するのは『人口減少社会のデザイン』の著者で、京都大学人と社会の未来研究院教授の広井良典さんだ。
「そもそも少子化の要因が誤解されています。実は、結婚したカップルの子供の数は以前からあまり減っておらず、未婚化や晩婚化といった出産より以前にあるハードルが少子化の大きな背景と考えられるのに、国の対策は出産費用の補助や児童手当の拡充などが圧倒的に前面に出ています。
結婚や出産は個人の意思であり、自由に選択されるべきですが、重要なのは結婚に至る前の段階での若い世代の支援です。ところが政府の少子化対策は結婚後の施策がほとんどです」
個人が自由に自分らしく生きられるようになったいま、かつてのような「産めよ、増やせよ」は多くの人の共感を得られない。
ただし、それを前提とした上で「できれば結婚して子供を育てたいけど、それができていない人たち」へのサポートは必要であると広井さんが続ける。
「未婚化や晩婚化が進むのは、若い世代の雇用が不安定で非正規も多く、将来に対する展望が持てない面が大きい。だから少子化対策をするなら、結婚前の若者の教育や雇用、住宅の支援などを大幅に拡充して、将来に明るい希望を持てるようにする必要があります」
女性の社会進出が進んだことと少子化を結びつける議論は尽きることがないが、広井さんは「そこにも誤解があります」と断言する。
「女性が働くようになって少子化が進んだとの意見もありますが、女性の就業率と出生率の相関を国際比較すると、意外なことに、女性の就業率が高い国の方が出生率も高い。残念なことに、日本は女性の就業率も出生率も低い国です。
日本は仕事と子育ての両立が難しく、キャリアか育児かの二者択一を迫られるケースが多い。これも未婚化や晩婚化が進む大きな要因で、仕事と子育てを両立できる社会システムが求められます」
国の少子化対策には的外れで意味をなしていないという指摘があると同時に、総花的で「バラマキではないか」との批判も根強い。慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授の小幡績(おばたせき)さんが指摘する。
「政治家はバカではありませんから、少子化対策の名目でお金をバラまけば選挙の際に票になることをちゃんと知っています。
ただしバラマキに子供を増やす効果はゼロ。それどころか、“子育てにはそんなにお金がかかるんだ。だったらやめよう”と若者が躊躇し、逆効果になる可能性すらあるでしょう」(小幡さん)
少子化が問題視されるとき、国民が被る不安や負担として労働力不足や市場の減少、行政サービスの質の低下などが危惧される。
だが広井さんは「短期的にはあまり心配はいらない」と言う。
「サービスを提供する人と同時にサービスを受ける人も減るので、単純に言えば需要と供給が相殺されて直ちに人手不足は起きません。
ただ、同時に進行する高齢化により人口に占める高齢者の割合が増していくので、サービスの出し手と受け手が釣り合わなくなることは確かです。ところが他方、AI(人工知能)などの技術が人間にとって代わるため大量の失業者、つまり人手余りが生じることが昨今議論されています。そうすると人手不足と人手余りが相殺されて均衡する可能性があります」
あらゆる場面でAIやロボットの活躍に期待が高まるなか、人口が減る社会では、これまでとは違う働き方も求められる。経済学者で、『次なる100年:歴史の危機から学ぶこと』の著者である水野和夫さんは、こう語る。
「いまの日本人の年間労働時間は1600時間ほどで、ドイツ人は1300時間弱ほど。両国における1人当たりのGDPはほぼ同じなので、同じモノを作るのに日本人はドイツ人よりも2割以上も多く働いていることになります。労働者の能力に差があるとは思えないので、日本人はドイツ人より無駄なことを2割以上していると考えられる。
労働の転換でこうした無駄な部分を効率化できれば労働時間を短縮できます。会議は必要最低限にして、空き家を生かして新築を建てないようにするとか、宅配便の即日配達や再配達をやめるとか。そうしたことで自分の時間を豊かにして人生を楽しむことができるはずです」
(第3回に続く。第1回から読む)
※女性セブン2024年8月1日号
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