( 194288 ) 2024/07/24 16:43:48 0 00 Photo/gettyimages
かつて、ゼロックスが登場した当時も、コピーマシンの需要予測は実際の未来よりも大幅に下回った数字が算出されました。
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前編『トヨタにピンチ到来か…「EV大逆風」の“最大の落とし穴”が発覚!EVに乗ってみてわかった、「EV時代は意外と早くやってくる」と確信した3つの現実』でも解説しましたが、この誤りは次のようにして起こりました。
コピーマシンがなかった時代、コピーは一枚か二枚しか作成できないのが常識でした。カーボンコピーと言ってタイプライターで書類を作るときにプリント用紙の間にカーボン紙を挟むことで、一度に二枚(ないしは三枚)の書類をタイプしていたからです。コンサルタントがコピーの需要予測をした際には、カーボン紙の売上高から計算して「未来のオフィスで使われるコピーの枚数はこの程度」と考えたのです。
ところが、実際はコピー機が便利だとわかったおかげで、オフィスにはコピーした書類が大量に溢れることになりました。
この失敗事例からわかることは、実際に使ったことがない人が想像する未来予測というものは大きく外れるということです。
そして、そうしたこうした誤りは、EV、つまり電気自動車でも起こっています。多くは、EVを持っていないひとたちが考える未来予想だからです。
EVビジネスの要点は、「EVは航続距離が短いので充電インフラが整わないと普及しない」、「EVが売れるには航続距離をどう伸ばし」、「充電時間をどう短縮するかが勝負だ、EV時代が来てもモビリティ需要はそれほど変わらない」、と考えています。
しかし、わたしはEVを2台所有していますが、実際に使っている者としてこの見方には、大きな欠点があると考えています。なぜなら、前編で詳しく説明したように、充電インフラが無い事にはあまり不便を感じませんし、航続距離は申し分なく、ボトルネックと言われる充電時間も苦にならないからです。
かつてコンピュータが登場したときやゼロックスが出現したときに未来予測の専門家が需要を見誤ったのと同じで、今、来るべきEV時代を予測するひとたちはそのモビリティについての前提を大きく見誤っている可能性があります。
それは以下の3点です。
充電ステーションは、ホテルや駐車場に設置されるだろう…Photo/gettyimages
実際に世の中の半数がEVに変わる2030年代を想像してみましょう。今の私のEVの使い方を前提に考えると、充電インフラを普及させるべきはガソリンスタンドの代替地ではなく、「夜間に車を停めておく場所」です。
私のように自宅のガレージがある人は自宅に。そうではなく月極駐車場を利用している人は、月極駐車場のひとつひとつの駐車場所に200Vのコンセントを設置してほしいと思うはずです。
月極駐車場の場合は、地面の車止めのあたりにコンセントがあれば十分です。充電ステーションは不特定多数の人が使う前提で、課金できるようなやや大きなポール型のユニットが必要ですが、自分専用の駐車スペースに置かれたコンセントなら必要な大きさはその程度。そこで使用した電気代を駐車場の地主が利用者に請求できればいいので、設備はもっと簡素になります。
またEVのオーナーはそれぞれ自分の車に充電ケーブルが備え付けられているので、駐車場のオーナーが設置するのはコンセントまでで大丈夫。その先のケーブルは実は不要です。むしろコンセントだけならプラグは共通なので、テスラ用とそれ以外で異なるプラグ形状も問題ではなくなります。
社用車の場合、夜に車が停められるという想定であれば営業所や物流拠点など、社用車が夜停められる場所にも同じような設備が必要になるはずです。別に出かけた先で、仕事中に高速充電する必要などまったくないのです。
ですから、チャデモのような急速充電設備は必ずしも市内に多数必要というわけではなくなります。必要なのはもっと絞られた場所です。具体的には高速道路のサービスエリアや道の駅など、長距離で利用する車が多数立ち寄る場所で、数はいまよりもずっとたくさん必要になります。
なにしろ世の中の半数の車がEVになるような未来を考える前提ですから、高速道路のサービスエリアの一角には50基ぐらいの高速充電器が使える場所を確保する必要があります。現在は浜松のテスラの充電器が4基という状況ですが、将来は10倍以上の数が必要になるのです。
いずれにしても今のモビリティ業界の充電設備の普及計画は、このようなEVを持っている人が考える予測とは若干外れた形で展開されています。将来的には事業計画の修正が必要でしょう。
実際にEVライフを始めてみて私が一番感じる不満は、選択肢の少なさです。特に不満なのは日本ではコンパクトカーのEVが発売されていないことです。一番コンパクトなのがBYDのドルフィンですが、これはローバーのミニと同じで小型の形状でありながら、それでも横幅は3ナンバーの大きさになります。
もっと小さい選択肢としては、軽自動車の日産サクラがあります。200km程度の走行距離で日本のEVの中ではとても売れているのですが、さすがに軽自動車は小さすぎると考える私のようなユーザーにとって、トヨタのアクアやヤリス程度の大きさのコンパクトカーを早く発売してほしいと思うのです。
そのボトルネックになっているのが、メーカーが考える航続距離です。メーカーの開発者はヤリスクラスの大きさのコンパクトカーでも今のユーザーニーズを考えると航続距離400kmはないと売れないと考えます。
これは消費者も同じで、初めてEVを買う際には航続距離が不安で、できるだけ長い距離を走る車が欲しいと思うのでしょう。ユーザーがそう思っていて、開発者もそう思い込んでいるので、小さいEVは日本ではなかなか登場しません。
ところが実際にEVを日常使いしてみると、実は後続距離は300km程度でも日常的に困るケースはまったくありません。これは日本だけでなく、EV先進地域の欧州でも同じ様子です。中国ではすでにこれに気づいたメーカーが対応車種を発売しています。しかしまだメーカーがこの需要に気づいていないために、一番売れるカテゴリーでのEVが販売されていないのです。
EVが普及すると「ガソリン税」が、「EV用電気税」に置き換わってしまうのか… Photo/gettyimages
さて、今の前提条件の中で仮に世の中の半分がEVになる未来を考えると、うまくいけばモビリティが今よりも倍増するような未来を予測することができます。日本でもアメリカのようなモータリゼーションが起きる、そんな未来をイメージできます。
ただ課題もあります。「EVはHVよりも燃費が倍いい」という話をしましたが、その構造を生み出しているのは日本の税制です。アメリカで暮らしたことがある人はわかりますが、アメリカではガソリンがとても安い。あれが税金を抜いた素のガソリンの価格です。その安さがアメリカをモータリゼーション先進国に押し上げました。
これが日本では起きない可能性があります。
仮に世の中からガソリン車が減り、半分くらいがEVになる未来を考えると、国は現在のガソリン税利権をどうEVにも適用できるかを考えるはずです。ですからEVの方が燃費がいいというのは、今の束の間の現実であって、長期的にはその前提は変わってしまう可能性が予想できます。
実は日本経済の未来を憂う人には、ここをしっかりと考えてほしいのです。アメリカのようにモビリティが発達した社会と、日本のように燃費が高いせいで国民が外出を控える社会、どちらの経済が発展するのでしょうか。
「EVが発展してしまうと困る」のが日本の政府の本音 Photo/gettyimages
2030年代ということになれば、ロボタクシーも現実化します。
高齢者がロボタクシーで日常的に外出する社会と、少ない年金では高価なタクシーには乗れないからと高齢者が一日の大半を自宅でテレビを見て過ごす社会、どちらが経済が発展するでしょうか。
実は2030年代の経済インフラとして、モビリティが発展する未来を描けるのかどうかは、日本だけでなくすべての国家にとっての重大命題です。
日本の場合、電力のグリーン化が遅れていることがEVをとりまく最大の問題です。このままだとEVを増やしていくと電力の消費量が今の1.2倍に増えて、結果として日本では発電インフラが足りなくなる。そうならないために、EVにはできるだけ発展してもらわないほうがいいというのが日本の経産省が抱える本音です。
そろばんを弾けば、電気代が今よりももっと高騰し、かつEVには割増の電気税がかかるような未来を設計することで、EVの利用を押さえて電源インフラの問題を回避する計算は可能です。
しかしそれでは日本の発展の芽をひとつ摘むことになる。
話をまとめると、EVがモビリティを変えていく未来では、充電インフラの配置は今の事業家たちの想定とは違います。自動車の航続距離前提も、メーカーの開発者の想定とは違います。さらには需要をまかなう電力インフラの想定も理想とはずいぶん違います。
このギャップ、市場が発展する前のいまのうちに解決しておきたい話だとは思いませんか?
判断次第で日本経済の未来は180度変わるのです。
さらに連載記事『「新・Vポイント」の破壊力がヤバすぎる…!セブンにローソン、マックにサイゼ、ドトールでも「7%還元」の衝撃』では、活況のポイント経済圏の新たな潮流に迫っていきましょう。
鈴木 貴博(経営戦略コンサルタント)
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