( 194308 )  2024/07/24 17:03:20  
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2023年、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)で3度目のアジア制覇を達成した浦和レッズ(写真提供:URAWA REDS) 

 

 「売上高200億円のJクラブを作りたい」 

 

 Jリーグの野々村芳和チェアマンは大きな目標を掲げているが、そのハードルは非常に高い。世界に目を向けると、レアル・マドリードやマンチェスター・シティの1500億円超を筆頭に、遠藤航が在籍するリバプールや冨安健洋が在籍しているアーセナルも1000億円規模を突破しており、世界トップとの差は依然として大きい。 

 

【グラフを見る】100億円を超えた浦和レッズの売上高の主な内訳。スポンサー収入、入場料収入、物販収入はどれくらい? 

 

 こうした中、2023年度の決算で浦和レッズが売上高103億8400万円を達成したのは、明るいニュースと言える。 

 

■Jリーグ2チーム目の100億円突破 

 

 Jクラブの売上高100億円突破は、2019年のヴィッセル神戸の114億円に続く2チーム目。この時の神戸は親会社・楽天からの巨額の協賛金を含むスポンサー収入が74億円超と圧倒的だった。 

 

 だが、2023年の浦和のスポンサー収入は42億2300万円だった。もちろん筆頭株主・ダイヤモンドF.C.パートナーズに共同出資している三菱重工業、三菱自動車工業からの協賛金はあったものの比率が低く、より多くのパートナー企業やファン・サポーターから支援される中で100億円を達成したのである。 

 

 そこで今回は、2023年2月から社長を務めている田口誠社長に単独インタビューを実施。コロナ禍以降の経営の現状やクラブの取り組み、今後のビジョンなどを聞いた。 

 

 「100億円突破の背景を分析すると、まず2023年はチーム成績がついてきた。それが大きなプラス要因になっています。まずAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で3度目のアジア制覇を達成。年末にサウジアラビアで行われたFIFAクラブワールドカップ(FCWC)にも参戦し、4位という成績を収めました。 

 

 国内タイトルは取れなかったものの、シーズン終盤まで優勝争いに加わってのリーグ4位、YBCルヴァンカップ準優勝、天皇杯16強という結果になり、総額で約9億円の賞金を手にできたことも大きかったと思います」と田口社長は語る。 

 

 成績が良ければ、それに伴って入場者数が増加し、グッズ販売も増える。2023年の浦和のリーグ戦総入場者数は51万8648人、1試合平均では3万0509人を記録した。 

 

■熱心な固定ファンの支え 

 

 

 ホームスタジアムである約6万人収容の埼玉スタジアムが芝生の張り替え工事の影響で使用できず、収容人員約2万人の浦和駒場スタジアムでシーズン開幕戦を含む2試合を開催。さらにACL出場の影響でホームゲーム17試合のうち7試合を平日に開催せざるをえないという集客面で非常に厳しい条件下で、リーグトップの数字を達成したのは意味がある。埼スタでの週末開催試合の入場者数は平均4万人を超えているのも特筆すべき点だ。 

 

 過去の記録を紐解くと、元日本代表の長谷部誠(フランクフルトU-21コーチ)や田中マルクス闘莉王、阿部勇樹(浦和ユースコーチ)ら屈指のタレントを擁した2008年に1試合平均4万7609人という驚異的な記録を残しているが、コロナ禍後ということを考えれば悪くない数字と言っていい。 

 

 しかも、シーズンチケット保有者は2万人超いて、更新率が毎年95%を超えている。15年以上の継続者も1万以上おり、熱心な固定客に支えられているかがよくわかる。 

 

 「2008年前後は、週末の埼玉スタジアムはつねに満員に近い状態でしたけど、売上高は70億円規模だった。やはりパートナー営業強化が収入規模の引き上げに大きく寄与しています。 

 

 2008年のスポンサー収入は24億円程度でしたが、2023年は42億円を超えている。それはコロナ禍にテコ入れを図った営業活動によるところが大でしょう。1年間でパートナー企業が5社増加し、レッズビジネスクラブ(RBC)というクラブをサポートいただく企業の組織体への加盟も48社増えました。 

 

 2018年から始めた『パートナー紹介制度』を通して、埼玉りそな銀行さんから約100社を紹介いただき、行政書士や医師会など地域に即した法人の協賛が増えたことも基盤強化につながった。やはり地元の応援というのは何よりも大きな力になる。非常に心強いですね」と田口社長はしみじみと言う。 

 

 こうして浦和レッズの経営は右肩上がりで推移したが、2024年はやや厳しい展開になっている。昨季J1・4位ということでACLには参戦できず、FCWCは開催されない。天皇杯も昨年のサポーターによる暴力行為の制裁で参加権利剥奪となってしまった。残された2つのタイトルも、ルヴァンカップは1stラウンド3回戦で敗退。J1も24試合終了時点で10位と苦戦を強いられているのだ。 

 

 

■2024年は将来に向けた投資の年 

 

 そんな中、クラブOBの西野努テクニカルダイレクターが退いて、同じOBで40代の堀之内聖スポーツダイレクター(SD)が就任。シーズン折り返しの6月にはキャプテン・酒井宏樹、副キャプテンのアレクサンダー・ショルツ(アルワクラ)、ベテランの岩尾憲(徳島)ら主要選手が立て続けにチームを去った。現在はペア・マティアス・ヘグモ監督や新キャプテンの伊藤敦樹中心に立て直しを図っているが、現場の急激な変化に対してさまざまな懸念や不安の声が寄せられているのも事実だ。 

 

 田口社長は反響の大きさを受け止めつつ、「2024年は変革と投資の年」と強調。新たな体制強化に注力する構えだ。 

 

 「2024年は前年のように賞金がなく、試合数も減ることを考えると、入場者数こそ堅調に推移しているものの、2年連続100億円超は難しいと見ています。 

 

 けれども、我々には2025年から新たな形でスタートするFCWCの出場権がある。来年夏に第1回がアメリカで行われる予定で、32カ国が参加します。出場賞金だけで数十億円という情報もある中で、クラブ経営や現場の成長にとっては大きなプラスの機会になる。そこから逆算して、チームもクラブも強固な体制を築き上げていかなければいけない。今はできるだけのことをやるつもりでいます」 

 

 前身の三菱重工業時代にDFとして活躍した田口社長のレッズ愛は非常に強い。少しでも経営面にプラスになることを探すべく、今年2月には「成長推進室」を設置。物事を迅速かつ的確に動かせるように仕向けたという。 

 

 「今、レッズには契約スタッフを含めると約200人が働いていて、複数の部署がある。何かアクションを起こそうとすると、少し時間がかかる印象を持っていました。そこで、社長直轄のこの組織を立ち上げ、清水稔副社長を中心に、中長期的な方向性を探っているところです。 

 

 クラブ内には『フットボール委員会』というのもあって、トップチームとアカデミーの現状把握や課題整理を進めています。毎回白熱したディスカッションが繰り広げられている。みんなクラブをよくしたいという情熱に満ち溢れていますね」と田口社長は感心する。 

 

■地域密着のための施策作り 

 

 当面の経営的な課題をいくつか挙げると、まずは地域密着の強化。少子化の時代にあって、クラブの本拠地・さいたま市は人口増に転じている数少ない地域。特に埼玉スタジアムのある美園地区は住宅や学校が次々と建設され、若いファミリーも増えている。 

 

 

 「コロナ禍があって、特に20代以下の若い世代にとってはスポーツなどのリアル体験が不足していると感じています。そういう人々に身近な埼スタに足を運んでいただき、サッカーやレッズの魅力を感じ、ファンになっていただきたい。安全・快適で熱気ある満員のスタジアム作りの実現に向けて、可能な施策を出し合っているところです。 

 

 我々は埼玉県と一緒に埼スタの指定管理者に名を連ねていることもあり、試合日はもちろんのこと、試合開催日以外にも埼スタを楽しんでいただける試みを模索しています。 

 

 今年も4月には『パンのフェス』を開催。秋にはオータムフェスを実施する予定。5月には指定管理事業ではないですが、たくさんの働く自動車と大型遊具を設置して子供たちに楽しんでもらえる仕掛けも作りました。埼スタ発信で美園地区に賑わいを作り出すことが大事だと思います」 

 

 田口社長が語るように、スタジアムが重要なコンテンツなのは間違いない。今年市街地にオープンしたエディオンピースウイング広島も明らかに客層の変化が起きているという。 

 

 1試合平均観客数もホットスタッフフィールド(広島ビッグアーチ)を使っていた昨年に比べると9000人増と顕著な変化が見られる。埼スタも2001年に開場してから23年が経過し、アクセス問題は依然としてあるが、もっと人を呼べる場所になるはず。そこは浦和レッズ全体でアクションを起こしていくという。 

 

 「一方で、もともとの本拠地だった浦和駒場スタジアム周辺の人々から『レッズが遠い存在になった』という声をいただくこともあり、浦和駅周辺地域の熱量の維持にも注力しています。 

 

 浦和というのは広島、静岡に並ぶ『サッカー御三家』で、地域住民によるサッカーに対する思いが非常に強い。その熱意を大事にしながら、地域とともに成長を考えていくことがこれまで以上に重要だと感じています。 

 

 私個人としては、さいたま市内にバラバラになっている複数あるクラブの拠点を1つにして、もっと機動力のある組織にしていきたいという考えがあります。それは容易なことではないですが、クラブ内により大きな一体感や推進力が生まれますし、クラブをさらに発展させる原動力になると考えています。 

 

 

 
 

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