( 194493 ) 2024/07/25 02:17:38 0 00 神宮球場での登板後、汗をぬぐう阪神の岩崎優投手
日本各地で猛暑が続く。この暑さが、プロ野球のペナントレースの行方に影響を及ぼしかねない状況になっている。
【写真】登板中にマウンドで熱中症になり「死ぬんかなと思った」選手はこちら
気象庁の観測によると、昨年の夏は1898年に統計を取り始めてから最も暑かったという。地球温暖化による影響もあるだろう。今年も全国各地で最高気温35度以上の猛暑日が続いている。
心配なのが熱中症だ。熱中症は高温多湿な環境で、発汗による体温調節機能が働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指す。初期症状として大量の発汗、めまい、筋肉痛などがあり、中等症になると頭痛、吐き気、嘔吐など、重症時には意識障害などが起こり命を落とす危険もある。日本スポーツ協会は湿球黒球温度(WBGT、暑さ指数)を基準にして熱中症予防の運動指針を示しており、WBGT28(気温の目安31度)以上は「激しい運動は中止」、WBGT31(気温の目安35度)以上は「運動は原則中止」と定めている。
とはいえ、プロ野球が暑さで中止になることはない。日本スポーツ協会の運動指針がプロのアスリートにも一概に当てはまるものではないが、デーゲームはもちろん、猛暑の日はナイターでも、グラウンドにいる選手たちには過酷なプレー環境となっている。
■「すべての球団がドーム化を検討すべき」
プロ野球の元トレーナーは「ナイターでも夏の屋外球場でプレーするのは危険です。一昔前と違い、夜になっても気温が下がらず湿度も高い。人工芝は天然芝や土に比べて吸収した熱をため込みやすい。水を撒いてもすぐに蒸発するので、気温が下がるのは一時的です。夜でも体感温度が35度を超える感覚で、高いビルに囲まれて風通しが良いとは言えない球場があります。選手の体調を考えると、すべての球団で開閉式を含めて本拠地のドーム化を検討すべきです」と警鐘を鳴らす。
青空の下で観戦できる屋外球場は開放感があり、ドーム球場にはない魅力がある。ただ、選手が暑さによるコンディション不良でグラウンドに立てないならば本末転倒だ。実際に今年に入って、熱中症とみられる体調不良で試合途中に交代する選手が続出している。
■「息ができなくて、死ぬんかなと思った」
7月3日の巨人-中日戦(前橋)では、中日の先発・涌井秀章が5回1死三塁の場面を迎えると、マウンドに向かった大塚晶文投手コーチと共にベンチに下がり、そのまま降板。初回から大量に汗をかき、ポーカーフェースの表情が苦しそうに見えた。
スポーツ紙記者は「軽い熱中症だったようです。この日の群馬はナイターの試合開始時間を過ぎても気温30度を超えていた。ジメジメした気候だったので試合を見ているだけでも汗だくでした。涌井は汗っかきですが、スタミナ抜群で自ら降板することはなかなかない。体力を相当消耗したと思います」と振り返る。
7月5日の西武-ロッテ戦(ベルーナドーム)でも、ロッテの先発左腕・小島和哉の体調に異変が。6回まで無失点も、7回に四球や連打などで3失点を喫し、マウンド上で苦しそうな表情を浮かべて胸を押さえ、トレーナーが駆け寄る場面もあった。2死を取って降板したが、報道によると、「途中から投げるたびに息ができなかったんで、死ぬんかなと思った」と熱中症とみられる症状に見舞われたことを明かしていた。この日のベルーナドームの所在地・所沢(埼玉)は気温が35度以上の猛暑日だった。
7月19日のヤクルト-DeNA(神宮)でも熱中症とみられる体調不良の選手が続出した。DeNAの先発・ジャクソンが4回途中でマウンド上で座り込み、表情がゆがんだ。そのまま降板すると、三塁手の宮崎敏郎も6回の守備から途中交代。捕手の山本祐大は8回の守備につく前に、体調不良によりベンチで治療を受けた。
セ・リーグ球団の通訳は、「米国でプレーしていた助っ人外国人が来日して驚くのは日本の暑さです。屋外球場は気温が高いだけではなく、湿度が高いので汗が止まらない。日本で活躍した中南米出身の選手も『息苦しい中でプレーするのはクレイジーだよ』と嘆いていました」と証言する。
■「ドームでプレーする選手が圧倒的に有利」
かつて、屋外球場とドーム球場を本拠地にする2球団でプレーした投手は、「ドーム球場でプレーする選手のほうが体力面で圧倒的に有利です」と強調する。
「屋外球場ではナイターでもサウナの中にいるような感覚です。マウンドで30分以上投げ続けた時は呼吸がしづらくなり、立ちくらみがして、正直、命の危険を感じました。ドーム球場で投げると体の負担が全然違います。熱中症の不安がよぎりながらプレーするのは体力面だけでなく、精神的にも大きなストレスが掛かります。夜になると暑さが和らぐという時代じゃなくなっていますし、今後さらに気温が上がると言われている中で、本拠地のドーム化は選手だけでなく、観客を守るためにも必要だと思います。あとこの時期のファームのデーゲームは、さらに熱中症のリスクが高いです。若い選手は自分から体に異変が生じたことを言いづらい。実際に猛暑の試合中に体調不良で倒れた選手が過去にいました」
セ・リーグは首位の巨人から4位・阪神まで3.5ゲーム差の大混戦だ(7月23日時点)。これから勝負の夏場となるが、連戦が続く夏場はただでさえ体力の消耗が激しい。さらに屋外球場での試合が多く続けば、過酷な日々となるだろう。
■88%が屋外と最も過酷なDeNA
その夏場で最も厳しい日程になっているのが現在3位のDeNAだ。オールスター後から7、8月にある計32試合で、ドーム球場での試合は中日と対戦するバンテリンドームの4試合のみ。28試合(88%)が屋外球場で開催される。残暑の9月までで見ても52試合中、ドーム球場は9試合のみで43試合(83%)が屋外。熱狂的なファンの声援をホームで受けられる横浜スタジアムでの試合は追い風になるが、屋外球場で連戦が続くと主力選手に休養が必要になってくるだろう。
次に過酷な日程となるのが神宮球場を本拠地とする現在最下位のヤクルト。7、8月の32試合中、屋外球場が23試合(72%)。9月まででは52試合中37試合(71%)が屋外だ。
現在2位の広島も、マツダスタジアムを本拠地とするため屋外の試合が多い。7、8月の32試合中、屋外が20試合(63%)、9月までだと52試合中、屋外が38試合(73%)となっている。
■巨人、中日は半分以上がドーム球場
逆にドームでの試合が最も多いのが、バンテリンドームを本拠地とする現在5位の中日で、7、8月の32試合中、屋外球場は13試合(41%)。9月までだと51試合中23試合(45%)で、半分以上の試合が空調の利いたドームでの開催。
次にドーム開催が多いのが東京ドームを本拠地とする巨人。屋外球場は7、8月が32試合中14試合(44%)、9月までだと51試合中24試合(47%)と、やはり過半数がドーム球場での試合となる。
猛暑の屋外球場で連戦を続けることが、選手たちの体調、そして勝敗の行方を左右することもあるだろう。首位の巨人が、追いかける広島やDeNAと比べてドーム球場の試合が多いことが、優勝争いに影響を与えるだろうか。
(今川秀悟)
今川秀悟
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