( 194529 )  2024/07/25 14:46:25  
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 東京だけでなく、日本中がその結果に固唾をのんだ東京都知事選。結果は現職・小池百合子の圧勝だった。一方でその最有力ライバルと目された蓮舫氏は2位どころか3位に終わり、野党に衝撃が走った。一方で2位の石丸伸二氏を巡ってもさまざま議論が巻き起こっている。元経済編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。 

 

【動画】「本気で勝つ気ありますか?」前安芸高田市長「石丸伸二」が語る熱すぎる野望…「東京弱体化計画」の具体的中身を語りつくす! 

 

 前安芸高田市長の石丸伸二氏が7月7日投開票の東京都知事選で、当選した小池百合子氏に負けたものの、1,658,363票、得票率24.3%を獲得し、立憲民主党、日本共産党とそれら関係組織、団体の手厚い支援を受けた蓮舫氏を抜いて2位を獲得した。 

 

 NHKの出口調査によれば、投票した無党派層の30%を獲得して、小池知事とほぼ並び、年代別では10代、20代、30代までは最も多くの支持を集めている。 

 

 筆者も昨年末に石丸氏にロングインタビューし、また都知事選直前にもインタビューをした。昨年末のインタビューでは「補助金をもらうことが議員の仕事ではない」「公共施設をつくったから発展するなんて夢物語です。むしろ、ランニングコストや大規模改修にかかる費用が、ますます地域を疲弊させてしまいます」「これまでの行政は、ゴールもわからずに、政治家が夢物語みて、走っていた」と語っていたことが非常に印象的だった。今、自民党の国会議員たちは、地方を疲弊させるばかりで、一向に発展しないような補助金を砂糖に群がるアリのように奪い合いをしている。こんなんでは日本は滅びると感じていたので、石丸氏がもし過疎化を止めることができれば、日本社会にとってとても素晴らしいことだと思っていたのだ。そして、また再選を目指すような口ぶりだった。 

 

 よって、都知事選の立候補にはとても驚いた。しかも、立候補の表明前後で石丸氏から出てきた政策が「東京解体」「東京弱体化」、そして「給食費の無償化」だった。 

 

「補助金をもらうことが議員の仕事ではない」「公共施設をつくったから発展するなんて夢物語」と言っていた人物が、過疎地域での自律的な経済発展を諦め、東京を弱らせ地方を活気づかようというのはあまりに政策態度が変貌している。 

 

 

 給食費の無償化というが、これは全額税負担であり、補助金行政の一つだ。さらにいえば、東京都ではすでに実施(未実施地域は基礎自治体の判断でやっていない)されていて、選挙期間中はほとんど演説であまり用いられることもなかったようだ。 

 

 しかし、選挙で無党派層が石丸氏に入れたことも含めて、橋下徹氏は選挙後の報道番組(フジテレビ)でこう話している。 

 

「石丸さんなんですよ。僕が維新をつくったときはまさに石丸さんのスタイルということで、本当にそういう政治をやりたかったんです。都知事選で(石丸氏が)無党派層を絶対惹きつけるなと思ったら、案の定こういう結果になった」 

 

 と、ベタ褒めだ。米重克洋氏が実施した2500人の有権者アンケート(7月8日『石丸現象とは何か 石丸伸二氏「165万票」の中身を独自データで分析する』Yahoo!ニュースエキスパート)によれば、<実際に投票先を選ぶうえで「参考にした情報源」を聞いた。その結果、石丸氏の支持層はYouTubeの動画を「大いに参考にした」「ある程度参考にした」割合が合わせて5割近くに上った>のだという。政策が語られているわけではない石丸氏のYouTube動画を観て投票をしたというのだから、すごい人たちだと思うが、いずにれしろ、無党派層をつく動かすことができる一点で、橋下氏は石丸氏を大変評価していることになる。 

 

 他にもあらゆるメディアが、石丸氏をどう捉えるかについて頭を悩ませているようである。褒める人もいれば、ダメだという人もいる。こういうケース、どうやって判断するか。 

 

 それは「言っていることではなく、やっていること」で判断するのが良いということである。誰かから「あなたのためだよ」と甘い言葉で説得を試みられて、違う人から「あの人は信用してはダメだ」と全く別のことを言われたとき、何が行われていたのか、実態を見るほかないということだ。 

 

 まず、石丸氏の行政手腕である。田んぼアートを即刻廃止し、ハコモノをつくらなかったことについては評価したい。 

 

 しかし、そうした歳出カット努力は全体からみると大したことではなかった。コロナ禍で国から地方へ財政支援があった21年度に黒字化は達成できたが、22年度の決算では赤字に転落。石丸市政最後の予算編成である2024年度予算では、支出が増え財政調整基金が億単位で取り崩されてしまっている。 

 

 

<広島県内で安芸高田市と同規模人口の庄原市や大竹市もほぼ同様の数字の変化を辿っていることからも、実質単年度収支の黒字化は石丸市政の成果ではなく、単なる外部要因による一過性の出来事だったに過ぎない>(渡瀬裕哉氏『「都知事選で2位」の石丸伸二氏が出馬した「本当の理由」…安芸高田市長時代に残していた「4つのフェイク」』7月10日)のだという。 

 

 訴訟でも負けまくっている。しかも内容はこんなことでいい大人が裁判するなよというものだ。 

 

 石丸氏は「非公開の会議の席で『議会を敵に回すと政策に反対するぞ』と議員から恫喝された」としてメディアに告発した。 

 

<だが、恫喝されたという発言は、その場に15名の議員と市職員がいたにもかかわらず、石丸氏の他に聞いた者がいないのだ> 

 

<密かに録音されていた音声(約30分の会議のうちの24分14秒)も公開されたが、こちらにもそのような発言は一切入っていなかった。それどころかむしろ石丸氏の方がその議員に啖呵を切っている様子が録音されていたのである。/被害者となった議員は、これらを根拠に石丸氏に主張の撤回と謝罪を求めたが、石丸氏はこれを拒否。議員は名誉回復のためやむなく提訴するに至った>(現代ビジネス『都知事選に出馬表明した安芸高田市・石丸伸二市長は「恫喝裁判」「73万円踏み倒し裁判」で相次ぎ敗訴…!それでもSNSで大絶賛される若きエリートの「実像」』6月6日) 

 

 2023年12月26日、広島地裁は「どう喝発言は山根市議によるものかどうか判然とせず、市長の発言や投稿は真実とは認められない」として、安芸高田市に33万円の賠償を命じている。 

 

 他にも、石丸氏が初当選した際に製作した選挙用ポスターやビラをめぐり、一部費用が未払いだとして、広島市中区の印刷会社が石丸氏に約73万円の支払いを求めた訴訟では、石丸氏に全額の支払いを命じた一、二審判決が確定してる。ポスター代ぐらい、払ったらどうなんだという他ない。 

 

 ここまで整理すると、従来型の補助金、ハコモノ行政を拒絶しようとした公平性は評価できようが、基本的には切り抜きのYouTube動画に若い有権者が煽られただけというのが実情だろう。むろん、政治家としての街頭演説は素晴らしいものであったのだろう。裁判で負け続ける石丸氏だが、法的な観点からはどう整理できるのだろう。公職選挙法関連の事件などを手掛ける城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士はこう語る。 

 

 

「ポスター代金の未払いや特定の個人を標的とした名誉毀損などについては、さすがにやり過ぎだと言わざるを得ません。一般的にこうした分野では、裁判費用や対策時間を捻出することが困難な市民が被害者であることが多く、力を有する者による理不尽な行為が事実上まかり通ってしまえば、政治家が閲覧数・広告収入アップのためなら何でもする悪質なYouTuberと変わらない存在になってしまいます」 

 

「憲法は過激行動などを防ぐための『公共の福祉』規定を数か所に設けており、首長・議員を含む公務員には憲法第99条で憲法尊重擁護義務が課されています」 

 

「ただし極端な政策が流布されること自体は、憲法第21条が定める表現の自由の範囲内のことであり、特に選挙については憲法第15条が『その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない』と明示している以上、バブル崩壊後の不景気が30年以上続き、少子高齢化で今後の見通しも悪い日本において、選挙運動における過激な主張は『社会にたまった不満という名のガスを抜く』という側面と考えることができるかもしれません」 

 

 橋下氏がポジティブに評価する石丸現象。もしかすると無党派を扇動することができる石丸氏によって、常人にはなせない、何か日本社会にとってポジティブな要素が生まれてくるのかもしれない。しかし、私たちは、石丸氏が言っていることより、何が起きているか、何をやっているのかについて冷静に見つめていく必要があるだろう。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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