( 194639 )  2024/07/25 16:56:10  
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日本ハムの1軍本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」。2軍の本拠地も同じ北海道へ移転する計画が取りざたされている(丹羽修/アフロ) 

 

 プロ野球・日本ハムが、千葉・鎌ケ谷にある2軍本拠地の北海道移転を検討していることが複数のメディアの報道で明らかになった。移転の候補地には、2023年から1軍本拠地とするエスコンフィールドがある北広島市に近い恵庭市や千歳市などが挙がっているという。 

 

 日本ハムが22年まで本拠地としていた札幌ドームはその後、巨額の赤字運営を余儀なくされた。2軍も移転が現実となれば、1軍本拠地ほどではないものの、地元への影響も避けられない。 

 

 「鎌ケ谷の球団施設が20数年を経過し老朽化している現状を鑑みれば、さまざまな検討を行うのは企業として当然必要となります。しかしながら、現段階では何も決まっておりませんし、計画といったものでもございません」 

 

 複数のメディアによると、球団はこのようなコメントにとどめている。現段階での決定事項ではないとしたものの、検討そのものは誤報だとは扱っていない。 

 

 北海道新聞は13日午前4時に移転構想に関する記事を公式サイトにアップ。いわゆるニュース速報である「本記」とは別に、移転検討の舞台裏も解説した「サイド記事」も掲載しており、水面下では以前から取材が進行していたことがうかがえる。報道によれば、移転候補地には札幌、千歳、恵庭、苫小牧、江別の5市が挙がっているという。 

 

 球団が移転を検討する要因はいくつかある。 

 

 一つは鎌ケ谷スタジアムの老朽化である。 

 

 スタジアムは1997年にオープン。当時の日本ハムは、巨人と同じ東京ドームを本拠地としていたため、面積もドームと同じ専用球場だった。室内練習場と若手選手寮「勇翔寮」も併設。1軍が2004年に北海道へ本拠地を移してからも、2軍は鎌ケ谷にとどまった。 

 

 現在はメジャーでプレーするダルビッシュ有投手(パドレス)、大谷翔平選手(ドジャース)もこの地から巣立った。現在は開場から30年近く経過し、千葉日報によれば、市の責任者も今回の報道に驚きつつ、「老朽化の課題はある」と認めている。 

 

 

 もう一つは、2軍の拠点がエスコンフィールドの近郊に移れば、シーズン中の1、2軍選手の入れ替えをスムーズに行うことが可能になる点だ。1軍で出場機会が少ない選手が実戦機会を確保するため、デーゲームで2軍戦に出場し、ナイターで1軍のベンチへ入るという、いわゆる「親子ゲーム」が他球団のように行いやすくなる。 

 

 一方で、課題もある。新球場建設などのコスト面と、日本ハムとの2軍戦で他球団の遠征にかかる移動コストが膨れ上がる点だ。 

 

 北海道新聞によれば、新球場を検討した構想では、球場の隣接地に寮と室内練習場の建設も想定する。鎌ケ谷スタジアムのような屋根とナイター設備は設置しないが、建設費は数十億円から100億円程度になる見込みだという。 

 

 そこで、球団は、移転先の地元自治体が球場を建設し、球団が運営を担う「公設民営型」を想定しているという。建設の主体は「公」、誘致するのは自治体というスタイルだ。一方で、鎌ケ谷スタジアムの建て替えの可能性も残っているという。 

 

 日本ハムは総工費約600億円をかけて、札幌ドームからエスコンフィールドへ移転したが、このときは、誘致した北広島市は土地を無償で貸し付け、固定資産税と都市計画税も10年間免除するなどの優遇策を打ち出した。 

 

 本拠地となった北広島市は地価が急上昇するなど、地域活性への道筋ができた。 

 

 対照的なのは、本拠地を手放した札幌市だ。日本ハムは札幌ドーム側とも何度も使用料や広告収入などの条件面での協議を続けたが、交渉はまとまらなかった。日本ハムの試合が収入の3割を占めていたため、収入の柱を失った市の第三セクターが運営管理する札幌ドームの2024年3月期決算は、純損益が6億5100万円の赤字。明暗がくっきりと分かれた。 

 

 一方で、他球団の負担増も高いハードルとなる。 

 

 プロ野球の2軍戦は、1軍のセ・パのリーグには分かれず、拠点を置く地域で東西(日本ハムが所属するイースタン・リーグとウエスタン・リーグ)に分かれて実施する。 

 

 プロ野球にとって、2軍は収益を見込む「興行」よりも「選手育成」の場としての位置づけが色濃い。このため、各球団はできるだけ運営コストをかけたくないため、遠征時の移動費用が少ないようにリーグを編成している。 

 

 イースタン・リーグは現在、日本ハムのほかに、巨人、ヤクルト、DeNA、西武、ロッテ、楽天、1軍がないオイシックスの8球団。東北に拠点を置く楽天と、新潟のオイシックスを除く6球団は現状すべて関東近郊に本拠地があり、全球団が陸路での移動が可能だ。 

 

 しかし、北海道となれば、飛行機での移動となって負担増は避けられない。遠征時の移動費はそれぞれの球団が負担しており、北海道への遠征による費用負担の増大には、他球団の理解が必要になる。 

 

 

 日本ハムは、「スカウティング」と「育成」をチーム強化の柱に掲げてきた。 

 

 ドラフト会議では「その年の一番高い評価の選手」の指名にこだわり、ダルビッシュ投手、3度の打点王に輝いた中田翔選手(現中日)らを獲得。高校卒業後に渡米を見据えていた大谷選手の指名にも踏み切った。 

 

 下位指名の選手も含め、入団後の育成がチーム強化の鍵を握るため、いち早く試合の分析やスカウト活動、選手の査定、トレーナーによる情報などを統括するITシステム「ベースボール・オペレーション・システム(BOS)」を導入し、2軍戦で出場機会を与えて成長と評価を定めていく。新たな若手を次々に台頭させる循環を生み、1軍で活躍した選手にはメジャー挑戦の理解も深く、ポスティングシステムでの移籍を容認している。 

 

 チーム強化の重要な役割を担う2軍の本拠地となる自治体は、鎌ケ谷市がそうであるように、チームにとっては重要なパートナーとなる。 

 

 その鎌ケ谷では移転検討の報道に困惑が広がり、一方で候補地に挙がった北海道の自治体からは歓迎ムードが起きる。 

 

 千葉日報によれば、球団と連携して地域活性化や魅力発信に努めてきた市は今年4月、商工観光課内に新たにファイターズファーム連携推進室を設置したばかりだという。芝田裕美市長は同紙の取材に「大変驚いている。今年度、積極的に応援に取り組んでいるさなか。具体化したものではないと認識している。(鎌ケ谷への)存続を求めたい」と話した。一方、北海道の地元メディアは、恵庭市や千歳市などの住民から移転実現を願う声を紹介している。 

 

 拠点施設の老朽化と1、2軍の入れ替えをスムーズに行いたいという日本ハムの移転検討の狙いが明確となり、課題は、他球団の理解に加え、鎌ケ谷市が老朽化したスタジアムにどう向き合うか、候補に挙がっている北海道の自治体にも「公設民営型」の新球場建設に本腰を入れて検討するには財源の確保が必要となる。2軍とはいえ、本拠地を持つことは自治体にとっては貴重な「地域資源」となりうる。 

 

 この価値と本拠地誘致に必要な財源をどう天秤にかけるか。現時点では残留の可能性もあるという鎌ケ谷市、そして、移転先の候補地に挙がっている自治体が誘致を実現するには、日本ハムとのシビアな交渉も予想される。 

 

 札幌ドームという拠点を出て、ゼロからボールパークを立ち上げた日本ハムの「実行力」を前に、2軍本拠地をめぐる「綱引き」が本格化しそうだ。 

 

田中充 

 

 

 
 

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