( 195337 )  2024/07/27 17:06:51  
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日本銀行の植田和男総裁 Photo/gettyimages 

 

一時は1ドル162円に迫った円安は、政府の為替介入とアメリカFRBの利下げ観測から152円台まで円高が急伸した(7月25日13時現在)が、それでも歴史的水準の円安だ。 

 

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物価高に直結する円安を是正するのが、日本銀行の政策金利の引き上げである。それを決める注目の日銀政策決定会合が7月30日、31日に行われる。 

 

今回の政策決定会合の焦点は2つある。 

 

前編『日銀・植田総裁の「次の一手」を大胆予想!それでも「円安バトル」は終わらない…次の日銀会合で浮かび上がる「2つの政策」に注目せよ!』で紹介したように、ひとつは長期国債の買い入れ減額の措置で、次の決定会合では3兆円規模が減額されると筆者は予想する。これにより、円高反転への地慣らしとなるだろう。 

 

しかし、最注目であるのは、なんといっても政策金利の利上げである。国民としては、いずれも円安を是正するために迅速に行ってほしい措置だが、果たして日銀はこれに踏み切ることができるだろうか。 

 

実は、筆者は懐疑的である。 

 

岸田文雄岸首相は、物価高を抑えたいところだが…Photo/gettyimages 

 

6月の決定会合後、日銀・植田和男総裁は、利上げと長期国債の買入れ減額が同時に決定について、「7月までに出てくる経済物価情勢に関するデータないし、入ってくる情報次第で短期金利を引き上げて金融緩和の度合いを調整するということは、当然あり得る話」と答え、同時実施を否定しなかった。 

 

しかし、7月の利上げには、為替、国内経済、米国などさまざまな要素が複雑に絡み合っており、日銀も頭が痛いところだろう。 

 

まず、為替の状況だが、6月の日銀決定会合で国債の買入れ減額を発表しなかったことで、市場では「日銀は長期金利の上昇に後ろ向き」と捉えられ、円安が進行した。その上、6月20日には米財務省が通貨を意図的に誘導する為替操作を行っていないかや、マクロ経済政策をチェックする「監視リスト」の対象に日本を再び追加したことで、今後、為替介入が行いにくくなるとの見方も円安進行を助長した。 

 

結果、円は1ドル=154円台半ばから、7月3日には162円付近まで円安が進行してしまった。 

 

ところが7月11日、米国の6月消費者物価指数が市場予想を下回り、米国の早期利下げ観測が高まったタイミングで、政府・日銀によるドル売り・円買い介入が行われたことで、155円台前半まで円高が進行した。 

 

これにより、とりあえずは円安進行が止まっている。 

 

さらに、7月13日にトランプ前米大統領への狙撃事件が発生し、米国の大統領選はトランプ前米大統領が優勢との見方が強まっている。トランプ前米大統領は「ドル高・円安是正」を強く打ちだしていることから、円安から円高進行へとトレンドが変化する可能性もある。 

 

 

輸入物価は上がり続けている…Photo/gettyimages 

 

また、国内経済では、“GDPショック”が起きた。 

 

内閣府は7月1日に24年1~3月期GDP統計(2次速報)の改定値を公表したが、基礎統計の一つである建設総合統計が過去3年間に遡って修正されたことで、実質GDPが前期比-0.5%から-0.7%へ、年率換算値は-1.8%から-2.9%へと大幅に下方修正されたのだ。 

 

実質個人消費は前期比-0.7%と4四半期連続でのマイナスなった。4四半期連続のマイナスはリーマンショックに見舞われた08年4~6月期から09年1~3月期以来のことだ。いまは経済危機でないにもかかわらず、4四半期連続のマイナスの原因は個人消費の異例の弱さにあると言える。 

 

7月の日銀決定会合では、同時に経済・物価情勢の展望(展望レポート)が公表され、24年度以降の見通しが修正されるが、GDPショックは見通しの修正に影響を与える可能性がある。 

 

もしも、GDPショックを受け、展望レポートにおける24年度以降の見通しが下方修正されるようであれば、利上げの決定は状況判断に反していることになろう。 

 

さらに、困ったことに、アメリカのFRB(米連邦準備制度理事会)が日銀決定会合と同日の7月30、31日にFOMC(米公開市場委員会)を開催する。 

 

筆者はアメリカの利下げは見送られ、9月実施が有力と予想しているが、アメリカの金融政策の行方も、日銀の決定会合に影響を与えることは間違いない。 

 

そして、何よりも懸念されるのは、7月の決定会合で国債買い入れ減額と同時に追加利上げが行われることの影響だ。 

 

両者が同時に実施されれば、間違いなく短期、長期とも金利は上昇するだろう。それは、物価高に苦しむ家計に、さらに住宅ローン金利や借入れ金利の上昇という形で重くのしかかってくることになるだろう。 

 

日銀は、これらの不確定要素の行方を見極めることになる。さらに春闘からの賃上げの影響がデータとして確認できるのは、7月の関連経済指標が発表される9月である。筆者は、9月の決定会合(8月決定会合は休会)まで、利上げ判断は、見送られるだろうと予想している。 

 

さらに連載記事『円安「1ドル160円」攻防のウラで「岸田と植田の大バトル」が勃発…!いよいよ高まる「円ショック&超インフレ」への警戒感』では、すれちがう日銀と政府の思惑について解説しているので是非、参考にしてほしい。 

 

鷲尾 香一(ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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