( 195634 ) 2024/07/28 16:07:29 0 00 「全身ファミマ」のファッションショーの様子(写真:記者撮影)
毎日全国で1万6000足以上売り上げる、コンビニ衣料の実力とは――。
ファミリーマートのオリジナル衣料品ブランド「コンビニエンスウェア」が好調だ。2023年度の同ブランドの売り上げは前期比で3割伸び、初めて総額100億円を超えた。外国人観光客がソックスや今治タオルのハンカチを土産用にまとめ買いするケースもみられ、2024年度も前期比3割増のペースで推移している。
【写真で見る】ファミマの店頭に並ぶカラフルなソックスの数々。「ファミマカラー」のソックスはSNSでも人気となり、販売を後押し。
ファミマのチェーン全店売上高(約3兆円)からすれば小粒だが、アパレル業界なら中堅ブランドの規模だ。大手のアダストリアが展開する「グローバルワーク」の5分の1、「ニコアンド」の3分の1程度に相当する。
コンビニエンスウェアの代名詞であるソックスは、今年5月に累計販売数2000万足を突破。全国展開を開始した2021年3月から計算すると、1日当たり1万6000足以上も売れている計算だ。
■2週間~1カ月ごとに新商品を投入
コンビニエンスウェアはコロナ禍の2020年にスタートしている。国内の新規出店余地が限られる中、各チェーンにはこれまで以上に新たな需要の取り込みが求められていた。そこでファミマが目をつけたのが衣料品だ。従来は下着類など出先で必要なときに買われる「緊急需要」が中心で、売り上げ規模も小さいものだった。
「コンビニで衣料品を買う文化をつくる」を目標にプロジェクトが始動し、大阪で実験販売を開始。緑、白、青のファミマカラーのソックスなどを売り出した。大阪を選んだ理由は消費者やオーナーからより正直な声が聞けるからだった。
ブランドの発足に当たって重視したのは売り場の新鮮さだ。従来の衣料品は白や黒など、無難なデザインの商品が多かった。コンビニエンスウェアでは著名デザイナーの落合宏理氏がデザインを担当し、日常のファッションアイテムとしても使える点を強く打ち出した。
新商品の投入頻度も高めた。従来は春と秋に商品を入れ替えるだけで、半年間はほぼ動かない売り場だったが、コンビニエンスウェアは新商品を2週間~1カ月に1回のペースで投入している。
春夏にはピンクや緑色を用いるなど、季節ごとの商品をそろえた。読売巨人軍や阪神タイガースなどのスポーツチーム、Netflixで世界的な人気を誇る「ストレンジャー・シングス」、「フジロック」などイベントとのコラボ商品も続々と展開していった。
売り場の見せ方にもこだわっている。アパレル業界では接客が重要だが、コンビニでは個別の商品の接客は難しく、試着もできない。
そこで、パッケージに素材や胸囲、着丈などのサイズを明記、POPもモデルの身長や着用サイズを示すなど、着用感がわかるように工夫した。
コンビニエンスウェアはソックスを筆頭に芸能人や若者によってSNSで拡散され、業界の枠を超えてアパレル関係者の間でも注目を集めた。
現在、同ブランドを手がける商品本部の須貝健彦氏も影響を受けた一人だ。須貝氏は大手のオンワード樫山で主に百貨店で販売する婦人服の開発を担当していた。ファミマのソックスを着用する同僚も多く、社内で話題になることも増えていた。
「コンビニがここまで本気でアパレルをやるなら、伸びしろは大きいのではないか」。そう直感し、ファミマへの転職を決意したという。
■「全身ファミマ」のファッションショーも開催
須貝氏はファミマ入社後、経験を生かして品ぞろえの拡大に尽力した。コンビニで前例がない商品には売れ行きを心配する声も上がったが、「コンビニは暑くなったり、寒くなったりしたときに客数が増える。絶対に売れる」と考え、丁寧に社内を説得していった。
その一例がカーディガンだ。突然肌寒くなったとき、冷房が強くて寒いときなどに購入する客がみられ、緊急需要も一段と取り込むことができた。
2021年3月には売り場を全国に展開し、アイテム数もさらに拡充してきた。「はっ水パーカー」やサンダル、ショートパンツなどを投入し、2023年には全身のコーディネートが可能になった。現在は常時約50アイテムを展開している。
当初の狙いだった「衣料品の目的買い」は着実に増えている。新商品の発売当日に来店し、入荷まで店頭で待つ客もいるほどだ。
また、コンビニは男性客の利用が多いが、コンビニエンスウェアの購買データを見ると、若年層や女性客ほど伸び率が高い。新たな客層の開拓にも貢献したといえそうだ。
驚くべきは、ファミマ本部側の担当者は須貝氏を含め2人だけということ。須貝氏は「正直、大変です」とこぼすが、繊維関係のノウハウに乏しいコンビニが、少人数かつ短期間で多数の商品を開発・販売し続けるのは「大変」どころではない。
この点は親会社である伊藤忠商事のバックアップも大きい。同社の担当者も毎週の開発会議に出席。ファミマ本部やメーカーと密接にコミュニケーションを取り、国内外の協力工場との調整役にもなっている。
デザイナーを交えた開発会議は毎週水曜日に行われている。「いつも朝から晩までかけてやっている」(須貝氏)ほどの熱の入れようだ。
■生産体制を整え、主役級の売り場へ攻勢
一気に成長を遂げたコンビニエンスウェアだが、衣料品ならではの課題もある。直近で開発に注力するボトムスのような新商材は、手探りで十分な数を準備できず、店頭ではすぐに売り切れがちだ。さらなる拡販には、生産体制や販売計画の磨き込みが求められる。
また、衣料品を強化する動きは競合にも広がっている。ローソンは目下、無印良品の衣料品や雑貨類を扱う店舗を増やしている。今年4月からは共同開発した靴下やハンカチなど、ローソン限定商品の販売も始めた。
新商品が少なく「動かない売り場」だったコンビニの衣料品は、今や最も変化の激しい売り場になりつつある。新たな客層を巻き込み続けることができれば、脇役から主役級の売り場に成長する日も近そうだ。
冨永 望 :東洋経済 記者
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