( 195639 ) 2024/07/28 16:14:25 0 00 北陸新幹線(画像:写真AC)
京都府内の反対で北陸新幹線のルートが揺れている。各方面からさまざまな意見が出され、小浜・京都ルートから米原ルートへの転換を求める声が高まっている。特に、今回の建設費の倍増は、小浜ルートの費用対効果を0.5と半減させ、米原ルート派に追い風となりそうだ。
【画像】マジ!? これが60年前の「米原駅」です(計21枚)
筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)としては、小浜~京都~松井山手間などの時間短縮効果が高い(同区間の最短3時間が30分弱、2時間半短縮される)小浜ルート推しなのだが、今、誰が米原ルートに賛成し、どのような主張を展開しているのか。少し整理してみたい。
また、米原ルートを否定するにしても、支持するにしても、少々議論が不足しているかもしれない。米原でも小浜でもない案はないのか、という疑問にも触れておきたい。
まず、さまざまな立場で米原派と小浜派を分けてみた。北日本新聞(富山県)、北國新聞(石川県)、京都新聞、北陸放送(石川県)、TBS、NHK、ダイヤモンドオンラインなどの報道をもとにまとめたものである。同じ県でも知事と議会で意見が異なったり、県と市町村とでも異なっていたりと複雑な様相を呈している。
●沿線自治体(府県) ・小浜派 富山県知事:新田八朗 ・小浜派 石川県知事:馳浩 ・米原派 石川県議会 (賛成32・反対6で米原ルート決議) ・小浜派 福井県知事:杉本達司 期成会会長 ・小浜派 滋賀県知事:三日月大造 ・小浜派 京都府知事:西隆俊 ・小浜派 大阪府知事:吉村洋文
●米原派の沿線自治体(市町村) ・南加賀6市町 加賀地域連携推進会議 ・野々市市、白山市、川北町、能美市、小松市、加賀市、 ・南丹市(住民による反対の地域が多い)、京都市議会 ・米原派の経済界 ・金沢経済同友会:福光松太郎 代表幹事
●米原派の政治家 ・日本維新の会国会議員団:馬場伸幸代表 ・教育無償化を実現する会:前原誠司代表 ・自民党京都府議:四方(しかた)源太郎 ・自民党富山県議:米原(よねはら)蕃 ・前滋賀県知事:嘉田由紀子 参院議員
●小浜ルート反対の市民団体 北陸新幹線京都延伸を考える市民の会が事業の白紙撤回を求め、約2万7000人分の署名を集めた。
●中立派 ・米原市長:平尾道雄「小浜ルートは古都・京都を台無しにしかねない」 ・米原市 ※ただし小浜ルートを疑問視はしている。 ・京都市
2023年4月の京都府・京都市議選の全候補181人で、現ルートを明確に是としたのは26人だけであった。2024年2月の京都市長選で当選した松井孝治市長も賛同を明言しなかった。加賀市長の宮元陸氏に至っては、米原~新大阪をJR西へ移管すべきだという
「過激な提言」
もしているようだ。
米原駅の位置(画像:OpenStreetMap)
小浜派と米原派の主張はどうなっているのか。小浜派の主張には次のような感じである。
「詳細ルートが示されていないことからの不安があるのでは」 「時間短縮効果が大きい」 「開業後の料金が安い」 「もう決まったことを蒸し返すな」 「米原ルートでは東海道新幹線乗り入れの余裕がなく乗継が固定化される」 「米原ルートでは一部でも東海道新幹線を共用するため災害時の代替性が弱い」 「米原ルートでは小浜ルートより20分余計にかかる」
といったものが挙げられる。どれもごもっともである。特に与党整備委員会委員長の西田議員も京都新聞のインタビューで
「米原ルートでは、全国を新幹線ネットワークでつなげて過疎地域を元気にするという本来の趣旨とも違う」
と発言している。また、米原ルートだと金沢~新大阪間は1時間41分との試算で、小浜ルートより20分余計にかかるそうだが、もう少しかかると思った方がよさそうだ。
他の線区の事例を見ると、北海道新幹線新青森~奥津軽いまべつ間のように、合流手前の区間は260kmで走れる線路でも210km運転のダイヤにしていたり、東京メトロの小竹向原駅(練馬区)のように合流駅では停車時間を長めにしていたりするなどして、JRは5分くらいは遅れても取り戻せるダイヤにするはずである。
続いて米原派の主張は、
「着工のハードルが低い方で早く作ってほしい」 「小浜ルートではトンネル掘削で京都の水が枯れる」 「費用対効果で優位」 「建設費安い」 「工期短い」
特に小松市議会の決議文は
「敦賀以西への延伸の見通しは、全く不透明」 「着工条件はむしろ悪化」 「不協和音の強い京都を誰も説得できなかった。今さら誰が説得できると言われるのか」「30年に大阪まで全線開業できると信じている人はもはや1人もいない」
と語気を強めている。
小浜ルートは当初、総費用2.1兆円に対して総便益が2.3兆円、総便益を総費用で除した費用便益比(B/C)は1.1とされており、ギリギリだった。最近になって近年の資材・人件費高騰で費用が当初の倍に膨らむとの試算も出て、B/Cが1を割るどころか半分の0.5くらいじゃないかといわれている小浜ルートの着工は困難だ。
対する米原ルートは距離が短いため、事業費は上がるとしても小浜ルートの4分の1、工期は3分の2で済む。所要時間や運賃など便益は不利だが、B/Cは2.2と算出されていた。米原ルートの事業費も膨らむはずだが、仮に費用が倍になっても1以上を確保できる計算だ。着工条件を満たすのは米原ルートしかない、というのが米原派の主張だ。
米原ルートなら滋賀県の賛成が必要だが、滋賀県はどう思っているのか。滋賀県も
「小浜ルート1択」
との見解を示している。その動機には並行在来線問題がありそうだ。
北陸放送の報道によると、滋賀県の三日月知事はJR湖西線の並行在来線化を認めていない。県内を線路が通らないため、いくらJRの負担軽減のためとはいえ、滋賀県が税金を使って湖西線の運営していくのは納得がいかないとの考えがあるようだ。知事は
「並行在来線。これまで新幹線が通らない県、または大都市近郊区間の在来線が並行在来線に指定された例はありませんので、このことを早期に国に確認してもらいたい」
と湖西線が並行在来線となりJRから経営分離されることがないよう、くぎを刺している。
米原ルートになれば北陸本線を押し付けられるが、小浜ルートならさまざまな論法で並行在来線問題から逃げられると考え、どんなルートになっても並行在来線は受け付けないという姿勢のようだ。小浜ルート賛成派のなかで滋賀県だけは、小浜ルートの魅力よりも
「並行在来線を押し付けられたくない」
から小浜ルート推しなだけのような印象さえ受ける。現在の湖西線が並行在来線になるのか、JR西日本・長谷川一明社長は
「並行在来線の議論についてはどれが該当するかは明確ではない。着工ルートが決まらない状況なので、その次の話は全くの白紙状態」
としている。
北陸新幹線開業後の米原駅配線図予想(画像:北村幸太郎)
米原ルート推しの盛り上がりに呼応して国交省は、
・JRの運行管理システムや脱線防止ガードの構造が違う ・東海道新幹線乗り入れの余裕がなく乗継が固定化する
と、まるで
「JRの言い分をそのままコピーアンドペーストした」
かのようなリポートで納得させようとしているが、ちょっと仕事がお粗末ではないかと思う。
運行管理システムの違いについては、北海道・東北・上越・北陸新幹線系統は、路線分岐を想定した運行管理システムであるのに対し、東海道・山陽・九州新幹線系統は単一路線を想定した運行管理システムである。この違いが乗り入れを不可能にする理由というが、国交省は新大阪の地下駅から山陽新幹線の高架までアプローチ線を作って乗り入れも念頭に置いている。
それに今後の新鳥栖(とす)駅(佐賀県)での九州新幹線と西九州新幹線との分岐や、さらに将来的には岡山で四国新幹線や伯備新幹線との分岐も発生することを考えれば、運行管理システムの問題はどの道解決しなければならないはずだ。国交省の言い分は問題を
「先送り」
にしているだけである。米原ルートで直通するとなれば、車両は東海道新幹線側のスペックに合わせてN700系列になるだろう。国交省の資料を見る限り、N700系列の車軸取り付け部の両端に逸脱防止ガイドを付けるだけで、脱線防止ガードの違いは対応できそうだ。
こんなことで米原ルートを諦めさせようというのは浅はかではないか。筆者は小浜ルート推進派だが、お粗末な検討で米原ルートを否定する国交省の姿勢を見ると、米原派を擁護したくなってくる。
乗継が固定化される件についても検討不足だ。たしかに現行の東海道新幹線の設備のままでは乗り入れは厳しいだろう。乗り入れる場合は遅れる場合も想定して予備のスジも用意しておくことも必要だ。こうなると新大阪付近を走行する時刻表に載っていない回送列車をいつまでたっても出せないということにもなりかねない。これが乗り入れが厳しい理由だ。
新大阪~鳥飼間複々線イメージ(画像:北村幸太郎)
だが東海道新幹線の大阪付近にある新大阪~鳥飼車両基地間の9kmを複々線化するだけでも毎時5本程度の乗り入れ余裕は生まれる。
遅延時に後続のダイヤ枠に振り替えられるように予備を残して毎時4本でもよいだろう。現在の東海道新幹線は3分間隔で走らせることができ、名古屋~新大阪間は1時間最大で
・のぞみ:12本 ・ひかり:2本 ・こだま:1本
の計15本の運転で、その合間に最大5本の回送列車を運転する枠がある。既成市街地内の複々線化は費用がかかるが、小浜ルートで4兆円使うよりは安上がりだろう。新大阪~松井山手間の建設費分で作れて、さらにお釣りが来るのではないか。
ただ複々線化するのではなく、鳥飼基地回送線合流点の京都寄りから複々線化し、外側線と内側線で回送線を挟み込むような形にすることで、新大阪駅構内での平面交差を防げるようにするといい。東京メトロ副都心線・有楽町線の小竹向原~千川間のような配線だ。
内側2線は主に新大阪折り返しの列車や新大阪発着の回送列車、外側2線は主に山陽新幹線直通や山陽新幹線方面の始発・終着列車に充てる回送車両に使わせるといった役割分担をさせれば平面交差はほぼなく、回送列車と営業列車を同時並走させることができるだろう。
北陸新幹線米原ルート下り時刻表(画像:北村幸太郎)
それでも費用が高いというなら、東海道新幹線京都駅を
「3ホーム6線」
に拡張するか、京都駅の新大阪方に引き上げ線を設置して、一部列車を京都折り返しにしたらいい。
特に駅の拡張なら、その用地については筆者の前回記事「京都駅「改良事業」で混雑緩和 しかし、原案では解決できない問題とは?」(2024年7月1日配信)で提案した「京都駅重層化による嵯峨野線・奈良線直通化案」に対し、
「それによって生み出される奈良線跡地を北陸新幹線駅用地に転用するしかないだろうな」
とのコメントが付いていた。ナイスアイデアである。
京都駅拡張によって新大阪~鳥飼間の回送列車運転とかぶらずに1時間に5本は増設定でき、例えば1時間に最大12本もある「のぞみ」の内2本(特に京都で「ひかり」と緩急接続をする新大阪発着の「のぞみ」が望ましい)と北陸新幹線2本を京都折り返し、遅延時の予備ダイヤ枠1本で設定し、のぞみが抜けた分、山陽新幹線直通の北陸新幹線列車を毎時2本設定したらいい。
理想は新大阪~鳥飼間複々線化によって全列車の新大阪乗り入れを実現することだ。
|
![]() |