( 195924 )  2024/07/29 14:59:33  
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 7月7日投開票の東京都知事選を2位で終えた元安芸高田市長の石丸伸二氏。その大躍進に世間や永田町から驚きの声が漏れた一方で、負け続ける訴訟についても疑問の声があがった。元プレジデント誌編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。 

 

【動画】「本気で勝つ気ありますか?」前安芸高田市長「石丸伸二」が語る熱すぎる野望…「東京弱体化計画」の具体的中身を語りつくす! 

 

 石丸氏の発言にある「恥を知れ!」は、半沢直樹を参考にしていたのだという。ダイヤモンドオンライン『安芸高田の石丸伸二市長「恥を知れ!」は半沢直樹「倍返しだ!」がヒントに「読むと銀行員時代を思い出す」』のインタビューで、石丸氏は以下のように語っている。 

 

<銀行員時代から池井戸作品の大ファン> 

 

<「恥を知れ」発言の際も、半沢直樹をはじめ、池井戸作品に出てくる主人公の決めぜりふを参考にしたと明かす> 

 

<(『「恥を知れ!」という言葉は、半沢直樹の決めぜりふを参考にされたと別のメディアで答えていましたね。』という問いに対して)実はどのような言葉で発信したら効果的に伝わるかということを、2~3日前から考えていました。その時に、半沢直樹の『倍返しだ』のような短いフレーズが良いと思っていました> 

 

<(『半沢直樹や花咲舞に似ていますね、といったことは言われないですか』という問いに対して)言われますね(笑)> 

 

 と答えている。シリーズ第1作目の『半沢直樹1 オレたちバブル入行組』には、倍返しが一度だけでてくる。 

 

<オレは基本的に性善説だ。相手が善意であり、好意を見せるのであれば、誠心誠意それにこたえる。だが、やられたらやり返す。泣き寝入りはしない。十倍返しだ。そして――潰す。二度とはい上がれないように。浅野にはそれを思い知らせてやるだけのことさ> 

 

 半沢直樹がテレビドラマになったのは、「(1)2013年7月7日~9月22日」と7年後の「(2)2020年7月19日~9月27日」の2度だ。 

 

 このタイミングで石丸氏が何をしていたかというと、下記だ。 

 

(1)三菱UFJ銀行姫路支店の営業職(翌年に、為替アナリストとして三菱東京UFJ銀行子会社MUFGユニオンバンク初代ニューヨーク駐在として赴任) 

 

(2)2020年7月3日に、安芸高田市長だった児玉浩氏が衆議院議員の河井克行から現金計60万円を受け取ったことの責任をとり市長を辞職。7月8日に石丸氏は銀行に退職願を出し、7月22日に立候補を表明。8月9日の市長に当選を果たしている。 

 

 

 小説通りに銀行の不正を暴くのではなく、半沢直樹ノリで政界へ進出し、文字通りに<やられたらやり返す。泣き寝入りはしない。十倍返しだ。そして――潰す>ということを安芸高田市で実行してきたということだ。これほどまでに、ドラマの影響を感じる政治家も珍しいだろう。 

 

 当選して起きたのが、ポスター代の不払い問題だ。製作した選挙用ポスターやビラをめぐり、一部費用が未払いだとして、広島市中区の印刷会社が石丸氏に約73万円の支払いを求めたのだ。今年7月7日に確定した判決によれば、<印刷会社が提示したポスター費用などは計約108万円で、印刷会社は安芸高田市から公費負担分の約35万円を受領。石丸氏側は「公費分以外は払わないとの合意があった」と主張したが、一審・広島地裁はそうした合意はなかったと判断。未払い分全額の支払いを命じ、二審・広島高裁も支持した>(朝日新聞、7月8日)という。 

 

 石丸氏は、判決を受けて<断片的な情報がよくわからない評価を生んでいると感じました。/合意のない(公費負担を超える)金額を業者から請求されたので、異議を申し立てたという事案です。/合意した金額に後からクレームを言った訳ではありません>(Xへの投稿、7月9日)と反論している。 

 

 業者と費用の話をせずに納品が終わり、「安芸高田市から入金されるものだと思います。したがって、石丸さまへは負担が無いかと思われますが説明会資料にそういった説明書きや提出書類はございませんでしょうか」という書いた業者のメールを根拠に負担はないと石丸氏は言い張ったのだが、当然、それは認められなかった。 

 

 いったい、ぜんたい、ポスター代ぐらい払ったらどうなのだろう。業者とのメールのやり取りは、半沢直樹シーズン2の放送期間と重なっているが、石丸氏にしてみれば<やられたらやり返す。泣き寝入りはしない。十倍返しだ。そして――潰す>ということになってしまうのだろうか。 

 

 相手が強いからこそ理解できる話で、印刷業者相手に大立ち回りをすることを誰も求めていない。これが石丸氏が勝つ案件であったとしても、なぜ、市長に当選した状況で、73万円の残金ぐらい支払わないのかが不思議でならない。銀行時代にも、銀行という立場を利用して、こうしたイジメをやっていたのではないかと疑いたくもなる。 

 

 

 印刷業者にしても最高裁まで裁判をやって、得られるお金が73万円では、割りに合わないだろう。泣き寝入りする選択肢もちらついていたに違いない。泣き寝入りしないと息巻くのはいいが、相手を泣き寝入りさせるのでは、半沢直樹の敵役だ。 

 

 公職選挙法関連の事件などを手掛ける城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士は、筆者の取材に対してこう解説している。 

 

<ポスター代金の未払いや特定の個人を標的とした名誉毀損などについては、さすがにやり過ぎだと言わざるを得ません。一般的にこうした分野では、裁判費用や対策時間を捻出することが困難な市民が被害者であることが多く、力を有する者による理不尽な行為が事実上まかり通ってしまえば、政治家が閲覧数・広告収入アップのためなら何でもする悪質なYouTuberと変わらない存在になってしまいます>(みんかぶマガジン、7月25日) 

 

 どんな人が政治家になるべきかという問いは、非常に重要な問いであろう。私たちが政治や政治家に対して道徳的に何を求めるべきか、どこまできちんとしておくべきかという問いもまた重要だと思う。 

 

 すごい立派な人なんだけど、お金にだらしない、異性関係にだらしない、という政治家はいくらでもいるだろう。逆に、ある社会的課題において正しい解決策を実行する上でも、一部の人間にとって嫌な行動が含まれていることはある。誰かが困っていることを解決しようと思えば、誰かの困りごとをつくりだすということはよくあることだ。政治家はその政治家人生全ての場面で「モラル」を問われるといって過言ではないだろう。 

 

 石丸伸二氏は、都知事選において、「政治屋の一掃」を掲げていた。この石丸氏のいう「政治屋」とは、都知事選後のインタビューで「政治のための政治をする、党利党略に勤しむ、自分第一、これを言っているもの、やっているもの」と定義している。 

 

 私も石丸氏の「政治屋」の定義については同意できる。政治家はどのような政治行動をとっても、それによって負の影響を与えてしまう層が一定数いる。補助金で何かをすれば一部に喜ぶ人がいるが、国民負担が上がることになる。問題を放置し、何もしないでいることが最適解という場合でも、目の前で苦しんでいる人からは文句がでるだろう。 

 

 

 右を向けば、左が騒ぎ、下を見れば上を見ろと言われるのが政治だ。公益のために活動をしている前提だからこそ、政治家には国民生活に影響のある決定ができる権限が与えられているのだ。 

 

 だからこそ、日頃の政治活動においても、高いモラルが求められるというものだ。 

 

 石丸氏が政治屋を一掃するという動画をみて煽れれた人も多いはずだ。しかし、実際には、印刷業者相手にポスター代の支払いをせず、敗訴が確定した。一掃されたのは、石丸氏の思い込みのほうだったようだ。 

 

 ポジティブにも評価される石丸現象。もしかすると無党派を扇動することができる石丸氏によって、常人にはなせない、何か日本社会にとってポジティブな要素が生まれてくるのかもしれない。しかし、私たちは、石丸氏が言っていることより、何が起きているか、何をやっているのかについて冷静に見つめていく必要があるだろう。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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