( 195954 )  2024/07/29 15:35:01  
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小山浩子氏 

 

 本格的な夏の到来で、厳しい暑さが続いています。管理栄養士の小山浩子さんによると、同じ環境にいても「熱中症になりやすい人」と「なりにくい人」がいると言います。熱中症になりやすい生活習慣とは。ジャーナリストの笹井恵里子さんが聞きました。(管理栄養士・料理家 小山浩子、構成/ジャーナリスト 笹井恵里子) 

 

● 熱中症になりやすい人と なりにくい人がいる 

 

 みなさんは熱中症にならないために、どんな対策をしているでしょうか。 

 

 私は管理栄養士で料理家の立場から全国各地で講演をするのですが、講演後に聴衆の方がよく話しかけにきてくださいます。そして「毎日塩あめを10個なめています」「スポーツ飲料を飲んでいます」などと、みなさんはご自身の熱中症対策を披露してくださるんですね(笑)。 

 

 しかしその対策には根拠がなく、自己流であることがほとんど。そもそもなぜ熱中症になるのか、そして熱中症を防ぐには何がどれくらい必要なのか、多くの人が知らないのです。ただただ夏は汗をかくから「糖分」と「塩分」が足りないと思い込み、過剰摂取している人が少なくありません。 

 

 この記事では熱中症になりやすい人の特徴から、その対策のために必要な栄養素と量を数字でお伝えしたいと思います。 

 

 まず、なぜ熱中症になるのでしょうか。 

 

 夏は気温や室温、そして湿度が高くなります。高温多湿の環境では末梢血管を大きく広げて血液をたくさん流したり、発汗させたりして、体の表面から空気中に熱を放散させて、適正体温を保たなければなりません。 

 

 けれども皮膚に集まった血液の流れが滞り、体温調節機能がうまく働かなくなると、めまいや頭痛、吐き気、体のだるさなどの健康障害が起きる、つまり「熱中症」になってしまうのです。 

 

 ですが、同じ環境にいても「熱中症になりやすい人」と「なりにくい人」がいます。 

 

● 熱中症になりやすいのは 「子ども」「高齢者」「肥満の人」 

 

 熱中症になりやすい人を挙げましょう。 

 

 最もリスクが高いのは、「子ども」です。子どもは大人に比べると体温調節機能が未熟なため、どうしても熱中症になりやすいのです。 

 

 次に「高齢者」。実は熱中症の予防には筋肉量を増やすことが重要なのですが、年とともに筋肉量が減少していきますから、一般的な高齢者は熱中症発症リスクが高いといえるでしょう。 

 

 どうして筋肉量が重要かというと、筋肉には体内の“水分貯蔵庫”の役割があるからです。気温が高いと汗をかき、一時的に脱水症状になって、臓器に血液を送れなくなったり、体温調節機能が働かなくなったりします。そのような非常時に、筋肉から水分を血液に送り込むことができるのですね。 

 

 そして「肥満の人」も、熱中症発症のリスクが高いです。筋肉は水分貯蔵庫と説明しましたが、脂肪は熱をこもりやすくする特性があるため、肥満の人は体温を下げづらいのです。 

 

● 熱中症になりやすい 2つの生活習慣 

 

 また「熱中症になりやすい生活習慣」も、二つあります。 

 

 一つは、朝ごはんを食べない人。朝ごはんを食べないことで一日の栄養素が圧倒的に不足します。昼や夜にまとめて食べればいいわけではありません。光を浴びて朝食を取ることで、その日の体内時計がスタートし、体温が上昇するリズムも整いやすくなるのです。 

 

 「体温が上がらなければ熱中症にならなくていいじゃないか」と思うかもしれませんが、それも違います。体内時計がしっかり働くことで、体温調整機能を含め、体は外部の環境に応じて体内をうまく変化させることができるのです。 

 

 もう一つ、「甘いものをたくさん食べている人」も注意が必要。疲労回復の栄養素、ビタミンB1は甘いもの(糖質)の代謝にも必要で、さらに夏は汗からも排出されます。ですから甘いものが大好きでビタミンB1が欠乏すると疲れやすく、エネルギー代謝もうまくいかなくなって熱中症のリスクが上がってしまうのです。 

 

 以上の“リスクが高い人”を踏まえた上で、それでは熱中症を予防するために、何をどれくらい取ればいいのかという話に移りましょう。 

 

 

● 「夏は塩分不足になる」というが 普通の食事で不足することはない 

 

 夏は汗で水溶性ビタミン(ビタミンB群、ビタミンC)とともに、水溶性ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム)が排出されやすく、中でもナトリウムとカリウムが体温調節機能に重要な役割を果たしています。 

 

 よく耳にするナトリウムは、細胞の浸透圧(細胞の内外の水分や成分の濃度を調整する機能)を一定に保っています。食塩の主成分なので、塩分として摂取したものがカウントされます。“夏は塩分が足りなくなる”という報道ばかりがされるため、塩あめや梅干しを頻繁に口にしているかもしれませんが、「一日に必要なナトリウム(塩)の量」をご存じでしょうか。 

 

 命をつなぐための一日に必要なナトリウム量は、なんと600mg。食塩に換算すると、たったの1.5gなのです。みそ汁1杯で約2g、しょうゆ小さじ1杯で1gですから、普通の食事で不足することはまずありません。 

 

 日本人の一日の食塩摂取量は平均10gで、すべての年齢層で過剰摂取といわれているくらいなのです。ですから、ナトリウムはよほど暑い環境でいつも以上に大量に汗をかいたという状況でなければ、基本的に足りています。 

 

● 不足しがちなカリウムの補給に おすすめはバナナ 

 

 一方でナトリウムとともに細胞内の浸透圧を維持している「カリウム」は足りていない傾向にあります。 

 

 カリウムは細胞の内側に多く含まれていますが、夏に汗などで体外に排出されてしまうと細胞内が脱水状態を引き起こし、夏バテに陥りやすいのです。カリウムは筋肉でエネルギーが作られるのを助けているので、不足すると筋肉の収縮がスムーズにできず、夜中に足がつることも……。 

 

 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、生活習慣病の予防を目的とした成人1人一日当たりのカリウム摂取の目標量を男性3000mg以上、女性2600mg以上としています。これがどれくらいの量かというと、キュウリ1本(100g)で200mgの量しかとれません。 

 

 以前、私が栄養指導をしていると、「毎日朝のサラダでキュウリを1本食べているから大丈夫です」と言いきった方がいましたが、それでは目標量の10分の1にもならないのです。今の時期ならキウイ、トマト、スイカには、汗で失われるカリウムや水溶性ビタミンが豊富なので、積極的に摂取するといいですね。 

 

 私のおすすめはバナナ。バナナ1本で500mg近くのカリウムが含まれ、脳と筋肉のエネルギー源である糖分も含まれています。 

 

● 熱中症対策には 「朝ごはん」が何より大切 

 

 そして、体温調節に欠かせない栄養素がもう一つあります。マグネシウムです。骨の構成成分であるだけでなく、神経の機能やエネルギー代謝に関わり、体温や血圧を調節するといった働きがありますが、カリウムと同様に日本人は不足傾向にあります。性別・年代ごとに推奨される量が異なりますが、およそ一日300mgを目安にするといいでしょう。 

 

 マグネシウムは大豆製品に多く含まれていて、納豆なら1パックで50mg、木綿豆腐なら1丁で約200mgも取れます。玄米ごはんでもいいですよ。 

 

 こうしてみてみると熱中症対策として、市販の塩あめやスポーツ飲料などでわざわざナトリウムや糖分を補給しなくても、3食の食事で間に合うということがわかりますね。特に寝ている間にナトリウムだけでなく、カリウム、マグネシウム、糖質も消費されているので、「朝ごはん」が何より大切なのです。 

 

 >>第2回『1日1杯でOK!老化と熱中症の予防にダントツに効く「最強の飲み物」とは?【コンビニで買える】』は2024年7月25日〈木〉公開予定です。 

 

小山浩子 

 

 

 
 

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