( 196402 ) 2024/07/30 16:45:53 1 00 夏以降の政局の焦点となる自民党総裁選では、現在唯一の出馬確実と言われているのが石破茂元幹事長である。 |
( 196404 ) 2024/07/30 16:45:53 0 00 石破茂氏(写真:時事)
夏以降の政局の最大の焦点となる自民党総裁選(9月20~29日の間に投開票)は、岸田文雄首相(総裁)の出処進退も絡んで、「告示直前まで戦いの構図が決まらない」(自民長老)との見方が支配的だ。ただ、現時点で「ポスト岸田」候補の中でただ1人出馬確実とされるのが、石破茂元幹事長だ。
同氏は、主要メディアなどほぼすべての世論調査で「次の首相」のトップを独走中で、国民的人気を背景に出馬への決意を繰り返している。ただ、「肝心の衆参自民議員の支持は、これまでと同様に広がりに欠ける状況」(政治ジャーナリスト)が続いており、「石破総理・総裁への展望は、極めて不透明」(同)なのが実態だ。
そうした中、裏金事件での国民の信頼失墜を踏まえ、自民党内で「政権批判」を続けてきた石破氏への待望論も拡大している。ただ、その理由は「疑似政権交代による自民の生き残りが目的で、多くの自民所属議員の反石破感情は完全払拭には程遠い」(同)との厳しい指摘も少なくない。
その一方で、岸田首相が総裁選出馬を決断した場合、「最有力対抗馬は石破氏となる確率が高く、多くの自民議員が次期衆院選での生き残りのため石破氏支持に回る可能性もある」(閣僚経験者)との見方もある。次期衆院選で当落線上とされる現職の間では、「岸田首相で選挙を戦うのは自殺行為」(若手)との反応が多数を占めているからだ。
■「鳥取から新しい日本をつくる」と事実上の出馬宣言
ここにきて石破氏は、「有権者を信じて『勇気と真心をもって真実を語る』政治をやりたい」と連日のように地方遊説に勤しむ。「地方での人気は極めて高く、石破首相への期待も大きい」ことから、総裁選での地方票で他候補を圧倒するための戦略とみられ、石破氏周辺でも「勝つためにはこの方法しかない」(旧石破グループ元幹部)との声が支配的だ。
そうした中、NHKの報道によると、石破氏は7月27日の地元・鳥取県での講演で「鳥取から新しい日本を作れるよう残った議員生活をかけたい」と述べ、事実上の総裁選出馬宣言に踏み切った。そのうえで石破氏は「長い間支えてもらったおかげできょうの私がある。申し上げるとすれば鳥取で申し上げる」として、地元で正式出馬表明することも約束した。
その後、石破氏は記者団に対し「40年近く順風満帆でもない政治人生を支えてくださった方々の思いに応えることは政治家の義務だが、なぜ立候補するのかをきちんと整理して言わなければ、それは正式な立候補表明にはならない」とも語り、正式な出馬表明時には“政権構想”も明らかにする考えを示した。
石破氏が繰り返す「『勇気と真心をもって真実を語る』政治」は、石破氏が田中角栄元首相(故人)とともに「政治の師」と仰ぐ渡辺美智雄元副総理(同)が繰り返した言葉。「あと一歩のところで総理・総裁の座に届かなかった渡辺氏の“遺志”を継ぐ決意をアピールする狙い」(石破氏側近)からとみられている。
■「地方票」で圧倒すれば「議員票では覆せない」?
総裁選で4連敗してきた石破氏にとって「今回はこれ以上ない好機」なのは間違いない。総裁選は、それぞれが同数でカウントされる、所属国会議員による「議員票」と全国の党員らによる「地方票」の合計で争われる仕組みだ。ただ、1年以内の衆参両院選挙が確実視される中、国民意識に近い地方党員らの多数から「石破首相」への期待が示された場合、「今回ばかりは、国会議員が永田町の論理で勝敗を覆すのは自殺行為」(政治ジャーナリスト)となりかねないのが実情だ。
自民の政権復帰前の2012年9月に実施された総裁選では、「地方票」で1位となった石破氏を、総裁再登板を目指した故安倍晋三元首相が決選投票で逆転した歴史がある。しかし、今回は石破氏を敵視してきた旧安倍派内でも「国民人気が1番の石破氏に入れたい」(若手)との声が少なくない。
そこで問題となるのが、第2次安倍政権から岸田政権にまで続く「説明責任を果たさない政治」を厳しく批判し続けてきた石破氏の、今後の政治的立ち位置だ。ここにきて、石破氏自身も周囲に「安倍政権以降の総括と、それを継続するか否かが最大の争点だ」と語っているとされる。
石破氏周辺によると、前回の2021年総裁選で岸田氏から支援を求められた際、①アベノミクスの検証②憲法9条2項を維持したまま自衛隊の存在を明記する憲法改正案の見直し③森友学園問題の再検証――を提示したが岸田氏が応じなかったため、河野太郎氏の支援に回ったとされる。
■岸田氏不出馬なら、菅、二階両氏が「見限る」可能性も
それだけに、今回総裁選ではこの「石破提言」の可否も問われることになる。そこで問題となるのが、無党派議員にかなりの影響力を持つ菅義偉前首相や、依然として旧二階派を仕切る二階俊博元幹事長への「政治的接近」(自民長老)だ。菅氏は官房長官、二階氏は幹事長として安倍晋三政権を支えてきただけに、石破氏側近からは「旧来の派閥政治に頼らず、孤立無援でも1人で立つべきだ」との声が出る。
しかも、8月下旬に岸田首相が再選断念を決断した場合、総裁選の構図は一変する。「反岸田勢力」の結集軸となってきた菅、二階両氏やその周辺議員は「簡単に石破氏を見限る可能性が少なくない」(自民長老)からだ。ここにきて、菅氏周辺でも「議員歴の長い石破氏より、40代の小泉進次郎元環境相ら若手を推すべきだ」(無派閥閣僚経験者)との世代交代論が勢いを増す。
そうした中、岸田首相抜きの総裁選となれば、茂木敏充幹事長の出馬が確実視される。旧茂木派と麻生太郎副総裁が領袖の麻生派による「数の力」でポスト岸田の最有力候補に躍り出る可能性があるからだ。すでに茂木氏は、アメリカ大統領選でのトランプ前大統領勝利を視野に、「私はかつてトランプ大統領から『茂木はタフだ』と言われたこともある」と外相時代の実績を踏まえて「トランプと渡り合える首相」をアピールしている。
■“コバホーク”急浮上など、「石破首相」には多くの障害も
その一方で、若手・中堅議員の間では、ここにきて「コバホーク」との名前にちなんだ愛称が定着しつつある小林鷹之・前経済安保相の出馬への期待も高まっている。「国民からみれば、小泉氏ですら『昔の人』で、本当に自民党が変わったと評価されるためには、小林氏しかいない」(無派閥若手)という分析からだ。
もちろん、党内保守派の代表格として、高市早苗・経済安保相も出馬の意欲を隠さない。さらに河野デジタル相も、所属する麻生派領袖の麻生氏に出馬の意思を伝えたとされる。しかも、候補乱立の総裁選となった場合に、「これまで集票の主体となってきた旧派閥が、どこまでその力を維持しているかはやってみないと分からない」(自民長老)との見方が支配的だ。
石破氏はそうした状況も踏まえ、テレビ出演などで自らへの国民的人気の高さを「単なる知名度調査の結果」と位置づけ、「自民党総裁選で問われるべきは、知名度ではなく首相として何をやるのか、やるべきなのかという点だ」と繰り返す。ただ、「石破氏のこれまでの主義主張をみると、そのこと自体が石破首相誕生への大きな障害ともなりかねない」(同)との指摘も少なくない。
泉 宏 :政治ジャーナリスト
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