( 196679 )  2024/07/31 15:15:28  
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photo by iStock 

 

6月28日に配信されたニュースが、SNSなどのネット界隈をざわつかせた。 

 

<2016年の9月、兵庫県加古川市で当時中学2年生の女子がいじめを苦に自らの命を断った。この時<加害生徒>として認定された12名のうちのひとりが、事件から7年目に実業団のスポーツ選手として活躍していることを偶然遺族が知ってしまった> 

 

【マンガ】「一緒にお風呂入ろ」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性の罪悪感 

 

という内容のものだった。 

 

当時、謝罪をすることもなかったというこの元生徒は、事件後に学校の推薦を受けて志望校に進学もしていたという。 

 

こうした事実を受け、「娘の未来は断たれてしまっているのになぜ?」という遺族の悲しみと悔しさを共有した大勢のネットユーザーたちは、学校側を「犯罪者を推薦入学させた」と批判し、人生を謳歌しているようにみえる元生徒に非難の声を上げたのである。 

 

いじめ事件では被害者の顏や氏名が晒される一方で、加害者の情報は少年法や未成年であることを理由に、事件に関わる事柄以外のプライバシーが報じられることはほぼない。 

 

わからないがゆえに、ほとんどの加害者がその後も普通に人生を送っているのではないかという疑念は尽きず、それを踏まえれば「こんな理不尽なことが許されるのか?」という世間の声は至極当然の流れだろう。「加害者も不幸になるべき!」という感情論が沸き上がるのも、無理からぬことではあるように感じる。 

 

ただ、その一方で大きな代償を払うことになった加害者も存在している。 

 

「私の娘は中学時代に集団でいじめを行い、同級生を自殺に追いやりました」 

 

こう話す小川晴子さん(仮名・40代)の自宅は、北関東某所の住宅地の外れにあった。 

 

空き室が目立つ、築30年以上は経っているであろう賃貸住宅に、晴子さんは20代になった娘・留美さん(仮名)とふたりでひっそりと暮らしていた。 

 

「事件当時は持ち家に住んでいましたが、転居のために売却しました。その後、離婚することになり、それからも転居を繰り返しています。いつまた引っ越すことになるかわからないので家財などの荷物は常に最小限にしていて、入居費用など経済的なことを考えて安アパートを選んでいます。留美があんな事件を起こすまで、私たちは何不自由ない、ごく普通の幸せな家庭でした」(晴子さん。以下同) 

 

 

事件は10年近く前になる――。 

 

当時中学生だった留美さんは、2年間にわたって同級生A子さんに対するいじめに加担していた。A子さんがいじめを苦に自殺したことで、留美さんは「加害生徒」として周知されることになる。 

 

「留美は学校でも目立つ存在でした。そのイメージもあって、いじめの首謀者のように言われましたが、実際は主導していた仲間に焚きつけられて行動したに過ぎません。それでもいじめをしたことは事実ですから、責められるのは当然のことだと思います。ただ、正直『ここまでされなきゃならないのか!?』という思いで、この10年近く暮らしています」 

 

事件の経緯や詳細については登場人物の特定に繋がりかねないので割愛するが、いじめ加害者のリーダー格とされた留美さんは、事件が表面化して以降、返り討ちにあうかのようないじめにあっていた。 

 

「加害生徒数名は全員が自宅待機を命じられましたが、登校許可が下りたのは留美が最後でした。留美が登校した時には『いじめの主犯者』としての外堀りが埋められていました。 

 

すでに登校していたいじめ仲間たちが『留美に頼まれてやった』『断わろうとすると逆に留美からいじめられた』などと吹聴して回って、罪を押し付けていたのです。主犯格だった仲間たちは“普通の学校生活”に復帰し、留美だけに罪は被せられました」 

 

留美さんは全校生徒から無視されるようになり、持ち物を隠されたり、トイレで水をかけられるなどのほか、階段から突き落とされたり、化学の実験で使った劇薬を浴びせられて手が赤くただれるなど、身の危険を感じることも少なくなかったという。 

 

こうした留美さんに対するいじめは、同じ“加害生徒”で、かつての仲間たちが中心になり、周囲の生徒たちも同調するように行っていたそうだ。この晴子さんの主張が事実であれば、主犯格は仲間のひとりに罪をおしつけ、のうのうと生きているということになるが、いずれにしても、 

 

「裏切られたショックと、そういったいじめを見て見ぬフリをする学校側に絶望した留美は登校拒否になりました。私も学校側に何度も相談に行きましたが『お母さん、娘さんが何をしたかわかっていますか?』と諭されただけで、何の対処もしてもらえませんでした」 

 

つづく「「兄は医療施設」に入り、「姉は風俗嬢」になって薬物中毒者に…母親が明かす、“いじめ加害生徒”家族の「絶望的な末路」」では、一家離散、兄姉にまで及んだ被害など、加害生徒の家族に起きた「その後」を母親が告白する。 

 

清水 芽々(ノンフィクションライター) 

 

 

 
 

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