( 196729 )  2024/07/31 16:11:04  
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一強のはずなのに、不調が目立つリンガーハット(出所:同社公式Webサイト) 

 

 長崎ちゃんぽんで知られる「リンガーハット」が苦戦している。以前は470億円前後を推移していた売上高は、コロナ禍で340億円まで減少し、外食産業が活況を見せる2024年2月期も402億円と回復が遅れている。主力事業である長崎ちゃんぽん事業の店舗数は、2020年2月期末の704店舗から2024年2月期末には570店舗まで減少した。 

 

【画像】今後の行方は? 

 

 値上げが客離れの要因とされているが、ちゃんぽんに関しては目立った競合もなく、同チェーンが“一強”のはずだ。値上げ影響度が低いはずの、ほぼ独占状態でなぜ同チェーンは値上げ耐性が弱いのだろうか。調べると、絶頂期の施策がかかわっていることが見えてくる。 

 

 リンガーハットは1962年にとんかつ事業で創業した。その後、1974年にリンガーハットの原型となる「長崎ちゃんめん」をオープンし、1977年にリンガーハットへ改称。年々勢いを増し、祖業であるとんかつ業態を上回ることになる。リンガーハットはロードサイドを中心に全国的に展開を続け、1995年からはショッピングセンター(SC)内にも出店し始めた。 

 

 2024年2月期における全社の売上高・営業利益はおよそ402億円・10億円であり、長崎ちゃんぽん事業はその内323億円・7億円程度を占める主力事業だ。ちなみにとんかつ事業はおよそ76億円・3億円である。 

 

 同社の業績推移は、リンガーハットが左右してきた。リンガーハットは「長崎ちゃんぽん」と「長崎皿うどん」が看板商品で、サイドメニューで餃子や半チャーハンなどを提供する。農家と直接契約することで国産野菜の供給を安定させ、厨房で使う調理機器を自社で開発し効率化に務めてきた。自動で野菜を炒めるドラム型機械や、複数のIHヒーターが並ぶ「自動鍋送り機」によって連続的な調理を可能にしている。こうした施策が競合を寄せ付けず、リンガーハットは長崎ちゃんぽんで一強状態を築き上げた。 

 

 

 しかし、近年の業績推移は大幅に悪化している。2020年2月期から2024年2月期の全社および長崎ちゃんぽん事業の業績は次の通りだ。なお、店舗のフランチャイズ比率はおおむね3割弱であり、海外にも進出しているものの店舗網のほとんどは国内店が占める。 

 

全社売上高:472億円→340億円→339億円→377億円→402億円 

 

全社営業利益:15.5億円→▲54.0億円→▲14.6億円→▲2.9億円→10.0億円 

 

売上高(長崎ちゃんぽん事業):369億円→265億円→269億円→301億円→323億円 

 

店舗数(長崎ちゃんぽん事業):704→615→599→577→570 

 

 2020年2月期末の時点で、リンガーハットは店舗の約6割をSC内フードコートに展開していたため、コロナ禍の2021年2月期と2022年2月期は出店先施設が休業や時短営業を余儀なくされ、大打撃を受けた。この間に店舗の閉鎖も進めたため、2024年2月期になっても売上高は回復していない。 

 

 規模だけでなく、既存店の業績も深刻である。各年度における前年比既存店客数を基に計算すると、2024年2月期の客数は2020年2月期比で81.7%と約2割減っているのだ。既存店の業績が以前の水準に回復していれば、全社売上高も今より回復していたはずである。 

 

 客足減の主な要因とされているのは、たび重なる値上げである。リンガーハットは人件費や原材料費の高騰に対応すべく、コロナ以前から値上げを実施してきた。看板メニューの長崎ちゃんぽんを例にとると、2011年10月には東京23区内の店舗で550円から590円へと値上げし、コロナ禍前後でも価格改定を繰り返した。この3月の値上げでは800円となり、もともと500円程度で食べられていた商品が現在では1.5倍以上の価格になっているのだ。 

 

 前述した通り、同チェーンは長崎ちゃんぽんでは一強状態であり、もともと極端な安売りで集客していたわけではない。また、ラーメン・うどん各社でも近年は値上げが相次いでいる。リンガーハットは「長崎ちゃんぽん市場」ではほぼ独占している立場であり、値上げに強いはずなのに、なぜ値上げ耐性が弱いのだろうか。 

 

 考えられる主な要因はその立地にある。 

 

 前述の通り、リンガーハットは約6割がSC内のフードコートだ。当初の強みとしていたロードサイドでは、ちゃんぽんを目当てに訪れる客が多いが、フードコートにおいて消費者は入店してから選ぶ傾向にある。すき家などリーズナブルな外食各社もフードコート出店を強化する昨今、リンガーハットのお得感はかなり劣後すると考えられる。 

 

 クロス・マーケティングの調査結果では、フードコートのイメージとして「安く食事ができる」(24.4%)が「気軽に入れる」(32.5%)に次ぐ2位に上がっており、フードコートにおいて安さが重要な因子であると考えると、リンガーハットの苦戦は必然といえるだろう。 

 

 

 そもそもリンガーハットが出店エリアをフードコートへシフトしたきっかけは、リーマンショックにある。同社は2009年2月期の営業利益が前年比7割減となる1.6億円、最終利益に至っては24.3億円の赤字となった。その後、業績を回復させるべく出店費用が路面店の半分程度で済むフードコートへとシフトしていった。その結果、2017年2月期には営業利益が当時過去最高の32.8億円を記録した。 

 

 ただ、見かけの業績は改善していたものの、客数減少の兆しは見えていた。2010年代における既存店客数について、前年比推移でマイナスが目立っていたのである。たび重なる値上げが足を引っ張っていたとみられる。筆者の所感だが、リンガーハットのCMは国産野菜や具だくさんを訴求するものの、丸亀製麺のように品質やこだわりを訴求する印象は少ない。質の高さを伝えるような宣伝をしていれば、値上げ許容度はもう少し高まっていたかもしれない。 

 

 なお今期のリンガーハット既存店業績について、同社は客単価8.5%増、売上高4.7%増を見込む。一方、客数は値上げによる影響を考慮してか3.5%減の予想だ。新規の出店計画はわずか11店舗である点も気になる。とはいえ第1四半期で利益は回復しつつあり、光明は見えている。再攻勢をかけるならば、今後はフードコート偏重の姿勢を改めることがポイントになるだろう。 

 

経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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