( 196812 )  2024/07/31 17:36:08  
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日本の人口減少は予想以上の速度で進行しており、政府が少子化対策を避け続けていることが問題とされている。

2023年の日本人の年間出生数は過去最低で、出生数の減少は母親不足が主要因であることが指摘されている。

少子化対策や外国人労働者の受け入れ拡大に対する効果が疑問視されており、人口減少対策には改善が必要とされている。

人口減少の影響は公的年金など幅広く及んでおり、現状維持バイアスにより真の対策が取られていないとの指摘がある。

(要約)

( 196814 )  2024/07/31 17:36:08  
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日本の人口減少は政府の予想以上のスピードで進行中(時事通信フォト) 

 

 岸田内閣が支持されない原因は裏金問題や経済政策だけではない。根本的な理由はこの政権が「日本が直面する問題から目を背け続けている」ことにある。その象徴が「少子化対策」だ。ベストセラーシリーズ『未来の年表』の著者で、新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』を上梓するジャーナリストの河合雅司氏が、「嘘と間違いだらけの人口減少対策」を喝破する。 

 

【グラフで解説】日本人人口は50年後に半減、100年後に9割減の可能性も 

 

 * * * 

「若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが、少子化トレンドを反転できるラストチャンス」との岸田文雄首相の言葉も虚しく、2023年の日本人の年間出生数は過去最低の72万7277人(概数)を記録した。 

 

 速報値を見る限り、2024年は70万人を割り込みそうである。岸田首相の認識が間違っていると言わざるを得ない。 

 

 日本人の出生数が100万人台を記録したのは2015年が最後だ。わずか8年で27.7%も減少した理由は、出産期の女性が激減したからである。近年出産した日本人女性の約9割が25~39歳だが、2015年と2023年を比較するとその世代は約14%減った。 

 

 未婚率の上昇や子供をもたない人の増加といった要因もあるにせよ、そもそも「母親になる女性人口」の不足が出生数減に拍車をかけているのだ。 

 

 今後、「母親不足」はより深刻化していく。2023年の25~39歳の女性と、25年後(2048年)にこの年齢に達する0~14歳を比較すると、後者が26%も少ない。短期間にここまで減れば、子育て支援策を強化したところで出生数減は止められない。 

 

 しかしながら、政府は出生数減の要因をいまだ非婚や晩婚、子供をもたないという価値観の広がりに押しつけている。「母親不足」が主要因であると認めてしまうと、子育て支援策の効果の乏しさをも認めることになり、それでは予算を確保できなくなるからである。 

 

 子育て支援に限らず、政策効果が疑わしい人口減少対策は少なくない。外国人労働者の受け入れ拡大もその1つだ。人手不足に悩む経済界の強い要望もあって政府は取り組みを強化しているが、日本人の減り幅が大き過ぎて追いつかない。すでに20~64歳の日本人は毎年70万人近いペースで減っている。これを補う規模の労働者を日本のみに送り出せる国などない。 

 

 しかも、これまで労働者を送り出してきた国の経済発展は目覚ましく、母国や近隣諸国に仕事が創出されている。わざわざ遠い日本まで働きに出る必要性が薄れているのである。他国も外国人労働者の受け入れを拡大しており、円安にあえぐ日本が競り負ける場面は少なくない。 

 

 

 一方、「AI(人工知能)やデジタル技術によって人手不足は解決する」と語る技術者や学者もいるが、これも幻想だ。人口減少の最大の問題は「消費者不足」である。機械は消費しないので、普及すればするほど国内マーケットの縮小が加速する。 

 

 いずれも中途半端な結果に終わることは想像に難くない。それでも、こうした空論が跋扈するのは「現状維持バイアス(注:未知の物事や変化を受け入れず、現状維持を望む心理作用)」が働くためだ。人口減少のリアルな数字を見る必要がある。 

 

 出生数の実績値は、すでに政府の予想をはるかに上回る激落ペースとなっている。2019年から2023年にかけて急落し、この5年間の出生数の対前年下落率は平均「マイナス4.54%」である。これは国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「出生中位・死亡中位推計」(最も現実的な予測)の6倍以上のスピードだ。 

 

 2024年の対前年下落率はもう一段落ち込みそうだが、仮に「マイナス4.54%」のペースが続いたならば2040年の出生数は約33万人、2070年には約8万2000人となる。100年後の2120年は何と1万人を割り込んで8000人ほどになる。 

 

 社人研の「出生中位・死亡中位推計」は2070年の日本人人口を7761万人、2120年は4123万人と予測しているが、この出生数の減り方を基に粗い試算をすると、日本人人口は2045年までに1億人を割り込み、2070年に6220万人とほぼ半減する。2120年は1500万人ほどとなり、日本は「小国」に変わり果てる。「2024年の社会・経済規模」を将来もキープしようとする現状維持バイアスを、即座に払拭する必要がある。 

 

 もちろん、政治家の一部や官僚にも厳しい未来図を認識している人は少なくない。だが、こうした人々にも結局は「現状維持バイアス」が働き、政策が虚構であることを承知のうえで「対策は実施している」と言い募っている。 

 

 真実を受け入れられないのは、とりわけ政治家に「縮小を前提とするのは敗北主義」との思いがあるからだ。「政治とは社会を豊かにすることである。畳むようなことを口にしたら当選できない」という危機感だ。 

 

 

 政治家がこうした姿勢にある以上、官僚は口を差し挟むことができず、人口減少の影響は事実に反して“軽微なもの”として扱われていく。 

 

 こうなると政策はゆがむ。一番分かりやすいのが公的年金だろう。「破綻」の可能性を口にしただけで時の政権が崩壊しかねないとあって、政府は経済成長率や将来進行推計の甘い見通しを駆使して、これまで辻褄合わせを繰り返してきた。 

 

 7月に公表された最新の財政検証はとりわけ強引であった。2030年代初頭までの出生数は「ほぼ横ばい」を続け、2040年まで「外国人人口が16万4000人ずつ増加する」という社人研の“現実離れ”した将来人口推計などを使って計算されたのだ。 

 

 だが、欺瞞に満ちた検証結果をもって「年金財政は将来も安泰」と言われても、多くの国民が真に受けるはずがない。むしろ年金不信は高まりをみせている。 

 

 人口減少の影響が軽微であるかのような姿勢は年金に限ったことではない。都市政策や交通政策、地方政策などにも社人研の甘い見立ては都合よく利用されている。そして「現状維持バイアス」が働いた弥縫策(びぼうさく)を、あたかも「人口減少対策」として各省庁が予算を注ぎ込んで展開するのだから始末に負えない。 

 

【プロフィール】 

河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、人口減少戦略議連特別顧問、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。累計100万部突破のベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『世界100年カレンダー』(朝日新書)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)など著書多数。最新刊は『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)。 

 

※週刊ポスト2024年8月9日号 

 

 

 
 

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