( 196999 )  2024/08/01 02:33:58  
00

ついに利上げに踏み切った植田和男・日銀総裁 

 

 7月30、31日の両日に開かれた日銀の金融政策決定会合で、ついに実質的なゼロ金利政策の解除が決定され、政策金利は0.25%へと引き上げられた。これに先駆け、7月22日にはソニー銀行が変動金利の基準金利を0.2%引き上げており、住宅ローンを抱えるユーザーの間では“連鎖引き上げ”に対する不安が高まっている。変動金利の今後の動向について、専門家の見通しは――?  

 

【写真を見る】睨み合う住宅ローン「3大ネット銀行」の“戦略”まとめ 

 

(前後編の前編) 

 

 *** 

 

「日銀会合を待たずしてのソニー銀行の利上げ発表には、その意図をはかりかね、首をかしげる関係者も少なくありませんでしたが……」 

 

 そう話すのは、住宅ローンアナリストで、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営する塩澤崇氏だ。 

 

「2016年に日銀がマイナス金利政策へと舵を切った際、そもそもソニー銀行は他行と比べ基準金利を一段と引き下げたという経緯があります。今回はマイナス金利が解除されて短期金利が上昇した分をそのまま変動金利の引き上げに反映させているので、“ロジックが通っている”とも言えます」(塩澤氏) 

 

 ただ、ユーザーに与える印象を考えると、このタイミングでの発表は影響が少なくないのだという。 

 

「実際のところ、私の元下には “借り換えを検討すべきか”という問い合わせが既に何件も届いています。言い方は難しいですが、“悪目立ち”してしまったのは事実でしょう」(同) 

 

 注目すべきは、既存のユーザーの支払額が増える「基準金利」のみならず、新規ユーザーに適用される金利も0.2%引き上げられたことだ。 

 

「他の大手ネット銀行と同じく、ソニー銀行の主力商品のローン手数料は借入金額の2%です。つまり、低金利をウリにユーザーを集め、手数料で収益を確保するというモデルだったわけですが、他行との金利差が開いたことで、同じように新規顧客を集めるのが難しくなったのでは」(同) 

 

 金利競争からは手を引き、例えば「ソニー生命保険」との連携など、別のサービス拡充などで差別化を図るという経営判断なのだろうか。ともあれ、既にソニー銀行の変動金利でローンを組んでいるユーザーからすれば、“先行利上げ”はバッドニュースと言えるだろう。 

 

 一方、政策金利が0.25%へと引き上げられた今、ユーザー全体が恐れるのは“ドミノ倒し”にように各行がいっせいに金利引き上げに動くのではないか、という懸念だ。 

 

 

 日銀の決定を受け、実際に各行の適用金利が引き上げられるのは、恐らく9月以降になるだろうと言われている。8月分への反映は準備が間に合わないためだ。 

 

 ただ、その引き上げ幅については、銀行によって違いが出る可能性が高いという。 

 

「これまで既に、各行で変動金利の引き上げが相次いでいますが、よく見るとその内容にはそれぞれ違いがあることが分かります。例えば、住信SBIネット銀行は、5月1日から“基準金利”を0.1%引き上げ、auじぶん銀行は7月から“適用金利”を0.01%引き上げました」(同) 

 

 実際に貸し付け時に設定される“適用金利”は、各銀行が独自に定めた“基準金利”に、申し込み時の特約で決まる “引き下げ幅”を差し引いた数字となる。 

 

 住信SBIネット銀行は“基準金利”を0.1%引き上げたうえで、“適用金利”の上げ幅は“引き下げ幅”の調整によって0.01%に留めている。一方のauじぶん銀行は、 “基準金利”には手を付けず、“適用金利”のみ0.01%引き上げた、というわけだ。 

 

「“基準金利”を引き上げた住信SBIネット銀行は、住宅ローンの既存ユーザーからの金利収益を改善させ、新規貸出のマーケティング原資にしようという意図が感じられます。一方、auじぶん銀行は、先行して金利引き上げを実施した住信SBIネット銀行へのユーザーの反応を見て、“基準金利”の引き上げを踏みとどまった可能性があります」(同) 

 

 一方、こうした動きと逆行し、PayPay銀行は7月から大幅な金利引き下げに踏み切った。最優遇金利は新規借入が0.380%から0.270%に、借り換えでは0.349%を0.290%に引き下げられ、いずれも先に挙げた2行の金利を下回る水準となっている。 

 

「PayPay銀行としては、隙を突いて住宅ローンの顧客件数を一気に増やそうと勝負に出た可能性があります」(同) 

 

 各行にとって、新規顧客の獲得は特に重要な意味を持つ。 

 

「現行の金利水準ではまだまだ住宅ローンは“薄利多売”の商売で、各行が借入金額の2%と定めている手数料が重要な収入源となっています。そして、継続的にこの手数料収入を得るためには、新規顧客を獲得し続ける必要があるのです」(同) 

 

 積極的な金利引き上げは新規顧客の減少に直結する可能性があり、金利の上昇局面でも銀行間の睨み合いは続くことになるというのだ。 

 

「スマホの普及もあり、各行の適用金利はユーザーからは“ガラス張り”の状態で、ひとたび金利を引き上げればすぐにニュースになります。つまり、競争原理が働き各社横並びでの金利引き上げとはなりにくい構造があるのです。今回の利上げを受けた、新規貸出向けの適用金利の引き上げ幅も横並びにならない可能性が高く、中には0.05%や0.1%の引き上げに留める銀行が出てくることも十分に考えられます」(同) 

 

 とはいえ、もし今後もベースとなる政策金利が上がり続けるとすれば、変動金利の更なる上昇は避けられないのでは――?  

 

 

「日銀が政策金利を0.25%から更に0.5%に引き上げられるかは、国内の経済状況が密接に関わってきます。具体的には“賃金”と“消費”ですね。このところ下落し続けていた“実質賃金”は秋頃にはプラスに転じる可能性が高いと言われており、今回の利上げはそれも踏まえた決定と言えます」(同) 

 

 一方の“消費”については、まだ十分に回復したとは言えない。 

 

「日銀が掲げる“消費者物価の前年比上昇率2%”の実現には、消費マインドの改善が不可欠です。ただ、賃金上昇に先行した物価高や、根強い老後資金への不安など、国民全体が消費に前向きになるまでには時間がかかる。言い換えれば、日銀が更なる政策金利の引き上げに動けるほど、国内の経済状況は盤石だとは言えません」(同) 

 

 今後の金利が“上げ基調”である流れに変わりはないが、欧米のような急激な利上げが実施されるとは考えにくいそうだ。 

 

「年内に再度の利上げが実施される可能性は、ほぼないと考えていいでしょう。来年以降の利上げペースも国内の経済状況を鑑みれば、緩やかに進む可能性が高い。むしろ、変動金利でのローンを検討中の方や、借り換えを検討されている方にとっては、各行がどのような金利政策を取るかよく観察することをおすすめします」(同) 

 

 利上げを受けた各行の金利動向をよく比較することが重要というわけだ。 

 

 *** 

 

 この記事の後編では趣を変え、固定or変動の選択率や、ペアローンの選好度合いに見る「ローンの県民性」を、データに基づき検証する。 

 

デイリー新潮編集部 

 

新潮社 

 

 

 
 

IMAGE