( 198274 )  2024/08/04 16:30:20  
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京葉線(画像:写真AC) 

 

 2024年3月16日、ついに京葉線から上り2本を除いた通勤時間帯の快速と通勤快速が消えてしまった――。 

 

【画像】えっ…! これが60年前の「蘇我駅」です(計16枚) 

 

 快速が消えた19時台、筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)は東京駅から海浜幕張駅まで各駅停車で行ってみたが、仕事後の各駅停車で40分、快速通過駅とされる各駅には1両から 

 

「2~3人が降りる程度」 

 

で、悶々(もんもん)とするものがあった。これで立って毎日帰るのかと想像するとげっそりだ。 

 

 これよりもさらに遅い時間帯に都心と千葉市の間を通勤利用する筆者の母は「途中の駅で席が空いて座れるようになった」といいつつも 

 

「だからといって通勤時間が延びるのはいいことではない」 

 

としていた。今回はそんな京葉線のダイヤ改正騒動のその後の話をご覧いただきたい。 

 

 特急わかしお4号(蘇我7時39分発)は、朝の通勤快速の内1本のダイヤの時刻とほぼ同じ時刻で新設された。実質、 

 

「通勤快速の特急化」 

 

が行われたわけだが、これによって速くなるのかと思いきや、特急料金を取っているにも関わらず、蘇我~東京間42分から46分(約10%増)へと遅くなり、“景品表示法違反”と呼ばれそうなダイヤで走行。 

 

 しかも通勤快速では、停車をしていた新木場と八丁堀は通過で、この2駅で降りていた人は20分早起きして先行の各駅停車に乗ることとなった。特に新木場駅は通勤快速利用者の半数(目視観測)が下車していただけに、新木場や臨海副都心へ通勤している人には痛手だ。 

 

検見川浜駅(画像:写真AC) 

 

 3月下旬に乗ってみたが席はガラガラ。窓際すら着席がまばらな状態だった。現在は、月曜は3分の2の座席が埋まっているようである(7月29日〈月〉の7時30分~7時36分にえきねっとのシートマップで確認)。 

 

 火曜日に乗ってみると月曜よりは少なく、半数の座席しか埋まっていないようだった。蘇我を発車後、先行の各駅停車のすぐ後ろを追うダイヤで、しかも千葉みなと駅や海浜幕張駅での追い抜きもない。ずっと低速で走り、まるで小川でゆっくりとボートをこいで乗っているかのような、ゆったりとした時間が流れる。 

 

 検見川浜駅の通過ではホームで電車を待つ客に手を振ったら返してもらえるんじゃないかと思えるほどゆっくりで、ホームから見たら 

 

「おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃がどんぶらっこ♪ どんぶらっこ♪ と流れてくる」 

 

あのゆったりとした光景をほうふつするだろう。もっぱら運転士の間でも 

 

「こんなに運転していて眠くなる列車はない」 

 

との評判のようだ。 

 

 

 今回のダイヤ改正問題について、京葉線のベテラン運転士から以下3点の証言を得た。 

 

●通勤時間帯の快速取りやめの効果 

「朝ラッシュ時に快速があった頃、ダイヤ乱れで追い抜きを中止すると、東京駅に電車がいてもそれに乗る運転士が着いていなくて電車が出せず、代わりを手配するまで東京駅の4本の線路が折り返し列車でいっぱいになり、東京駅を先頭に電車が渋滞することがあった。ギリギリの人員で運転していたからだ。その影響で夜までダイヤが回復しないこともしばしばだった。朝の快速をやめてからはそういうことがなくなってきた。ただ現在もギリギリの人員でやっていることに変わりはなく休日出勤は当たり前。もっと余裕を持った人員配置をしていれば快速運転をしながらでもダイヤ乱れに対処できるのではないか」とのことである。どうやら余裕人員の配置、これが東京メトロ副都心線や東急東横線など、複数の分岐合流があっても追い抜き運行ができる私鉄との違いなのかもしれない。 

 

●ギリギリの人員で運行 

「利便性向上考えれば、現状の各駅停車の本数を維持したまま、快速の増発をするべきと思います。ただ、現状は会社が要員不足を許容(生産性向上)した状況で、休日出勤が多発しています。利便性を向上したダイヤにするべきだと思いますが、実現するには要員を増やす必要もあったりと、見えない部分の課題もあります」と現場の窮状を訴える。 

 

●職場内でも通勤快速復活・海浜幕張停車論が 

「乗務員からも感じることは、通勤快速を復活させて、海浜幕張駅に停車させるべきです。会社は通勤快速の乗車率を問題視して廃止しましたが、海浜幕張駅に停車することで、利便性は大幅にアップします。3月のダイヤ改正まで運行していた通勤快速は、当初から運行していた通勤快速より所要時間がかなり要しており、海浜幕張駅に停車しても、東京~蘇我間の所要時間は変わらないです。朝夕は特急列車が海浜幕張駅を通過しますから、海浜幕張駅に通勤快速が停車することで大幅に乗客の利便性が上がることは、乗務員の間でも話題になっています」とのことである。筆者がこれまで複数の記事で訴えてきたことは、現場の意見でもあったようだ。 

 

 さらにこの京葉線運転士は、通勤快速廃止で 

 

「勝浦への到達時間が大幅に延びた」 

 

ことも指摘している。これまでは東京18時14分発の通勤快速に乗ると、勝浦には20時9分に到着できていた。これがダイヤ改正でなくなり、ほぼ同じ時間帯の東京18時11分発に乗ると、蘇我に19時6分着。蘇我19時16分発の外房線に乗り上総一ノ宮に19時58分着。その後、勝浦まで行く後続の普通列車は20時35分までなく、これで勝浦には21時10分着となるのだ。実に 

 

「1時間もの延長」 

 

だ。上総一ノ宮で次の普通列車を待っている間に来る、東京19時発の特急に乗っても勝浦着は20時31分。18時15分頃に東京駅を出る旅客にとっては、特急料金を払っても 

 

・帰宅が20分遅くなる 

・東京を出るまで45分待ちぼうけ 

 

だ。総武快速線経由でも東京18時56分発、上総一ノ宮接続で勝浦21時10分着と、東京で40分待ちぼうけの上1時間遅い到着だ。これでは生活スタイルの激変は避けられないと訴えていた。 

 

 

新木場駅(画像:写真AC) 

 

 JRから通勤時間帯の快速取りやめの理由のひとつに、 

 

「新木場駅のホーム混雑が危険」 

 

という話が出てきているようだ。 

 

・ホーム上に武蔵野線を待つ列 

・京葉線各駅停車を待つ列 

・快速・通勤快速を待つ列 

 

などの群衆でホームがいっぱいで危険ということなのだが、新宿に住み、渋谷へ通勤する筆者にいわせれば、埼京線の新宿・渋谷のホーム(特に池袋寄り)に比べれば大したことなく、むしろ新宿の方が危ないのではないか。それでも埼京線では通勤快速運行を行っている。こんな理由で快速・通勤快速廃止がまかり通るなら、次は 

 

「埼京線でも通勤快速をやめる気」 

 

なのだろうか。しかも、帰宅客でホームがいっぱいになる夜だけならまだしも、ほとんどが降車の朝ラッシュ時の通勤快速まで廃止にするのは“スジ”が通っていない。夕ラッシュ時も間隔を整えて、例えば10分間に1本ずつ通勤快速、各駅停車、武蔵野線が入るパターンを繰り返せば混雑の偏りはなくなるだろう。 

 

 それでは今より本数が増えてしまうという意見もあるだろうが、むしろ本数が少ないからホームが混むのであって、それならどんどん電車を出してこまめに運ぶべきである。 

 

 JRは5月30日、通勤時間帯の一部快速の復活をともなうダイヤ改正を9月1日に実施すると発表した。 

 

 新設の快速は「通勤快速並みの速さ」と太鼓判を押すが、まったく通勤快速並みとはいえない。JRは、通勤快速は東京~蘇我間41~42分に対し、新設の快速は47~49分と、 

 

「6~7分の差」 

 

がある。これだけでも「通勤快速並み」とするには及ばないだろうと感じるのだが、今回比較対象とした通勤快速は2023年春改正のときの運転時分である。 

 

 そういう意味ではうそではないが、以前の記事でもご紹介した通り、2024年春の廃止の少し前の2023年春改正で通勤快速は片道4分所要時間が延びている。この分も加味すれば 

 

「10分以上の差」 

 

となり、もはやかつての通勤快速並みというには無理があるだろう。この点を千葉市はつっこむべきではないか。他にも正式な時刻表が出ればさまざまつっこみどころが出てくるのではと思っているが、続報を待ってもらえればと思う。 

 

 

伊藤隆広氏のX 

 

 筆者は京葉線問題についてダイヤ改正後、地元市議主催のタウンミーティングで4回講演した。 

 

 きっかけはダイヤ改正前の2月、X(旧ツイッター)で千葉市議の伊藤隆広氏(自由民主党千葉市議会議員団・副幹事長)主催の議会報告会の知らせが偶然流れてきたことだ。まったく知らない議員だったが、内容は京葉線問題に関するものとのことで、こういった住民とのタウンミーティングに行ったこともなかったので、どんな感じでやっているのかのぞきに行ってみた。 

 

 そこで伊藤市議に自己紹介をして質問などもしたところ、回答をもらう一方で逆に伊藤市議や参加者から質問を次々ともらった。市議より「明日も来ませんか」との誘いを受け、翌日再度訪問した際に「次の議会報告会で講演をしてもらえませんか」と依頼された。筆者としては「こんな需要もあるのか」と驚き、やったことはなかったが引き受けた。初講演の前夜は最後の通勤快速に乗車。 

 

「これを“さよなら運転”にはさせない」 

 

という決意を胸に、蘇我駅で最後の通勤快速を見送った。初講演の会場は、筆者が小さい頃に出入りしていたことがある稲毛海岸駅近くにあるコミュニティーセンターだった。鉄道好きだった祖父の家から最も近い会場だったので、亡くなった祖父からも呼ばれたのだろうかと縁を感じた。 

 

 参加者にはJR関係者の姿もあったが、土日の開催にも関わらず、通勤で利用している現役世代の姿は少なく、 

 

「年齢層は高め」 

 

だった。もう少し通勤利用者の参加があってもいいのではと思った。だが質疑は多めで、参加者からは関心の高さが伺えた。 

 

椛澤洋平氏のX 

 

 その後、他の市議の方にもお声がけをして、6月にさらに2回の講演活動を実施した。開催議員ごとに注文があり、緑区の椛澤洋平市議(日本共産党千葉市議団副幹事長)からは 

 

「鎌取駅の混雑問題についても取り上げてほしい」 

 

であるとか、車いすで活動する中央区の渡邊惟大市議(日本維新の会)からは 

 

「バリアフリーの観点を入れた話もしてもらいたい」 

 

といった具合に、議員の地盤地域や力を入れている政策課題に応じて資料と話をオーダーメードする点でおもしろさを感じた。鎌取駅の混雑対策については 

 

「外房線と京成千原線との交点に新駅を設置して分散させるとともに、千原線沿線から京葉線直通列車で新木場へのアクセス向上を図って京葉線の利用促進に」 

 

という話を盛り込んだ。バリアフリー観点については 

 

「南船橋駅3線化による武蔵野線から京葉線上下線ともに同一ホーム乗り換え化と、京葉線蘇我折り返しの一部列車の千葉駅へのスイッチバック直通運転」 

 

といった話を盛り込んだ。 

 

 これらのタウンミーティングで最も参加者が多かったのは緑区の椛澤議員の会だった。共産党の持ち前の動員力があるからなのか、現役世代を含めて参加者は多く、通勤利用しているからこその疑問もいくつかぶつけてもらい、大変好評だった。 

 

 7月には伊藤市議が京葉線をテーマに含んだ議会報告会をやるという話を母から教えてもらい、聴衆として参加した。その際、意見交換をした現役世代の参加者から 

 

「そんな講演をやっていたのならなぜYouTubeで配信しないのか」 

「配信で通勤時間帯にもスマホで見られるようにしておいてくれたら見たのに」 

 

との声があり、決して現役世代の関心が低かったわけではないことがわかった。 

 

 7月20日に「市長と語ろう会」というものがあると聞きつけ、こちらにも参加してみた。市長によると 

 

渡邊惟大氏のX 

 

「パブコメ(パブリックコメントの略。一般市民が政策や法律、規則、計画などの草案について意見や感想を提出する制度)を募集するといつもは来ても10件程度なのに対し、京葉線問題については他の沿線自治体も含めてではあるが1万4000件ものパブコメが集まった」 

 

とのことで、全国的にも異例の関心の高さであったことが伺えた。 

 

 今回は京葉線ダイヤ改正・通勤快速廃止騒動のその後について、筆者が 

 

・関係者から聞いた話 

・JRの動き 

・千葉市内での筆者の活動 

 

についてまとめた。引き続き動向を注視し、追って報じていきたい。 

 

北村幸太郎(鉄道ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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