( 198299 )  2024/08/04 16:56:11  
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日銀が7月31日にサプライズ利上げを決定し、市場との対決姿勢を鮮明にしました。 

 

これにより円安の是正を目指し、FRBの政策転換も見据えた動きが見られます。 

 

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その一方、FRBパウエル議長はインフレ退治の成果を背景に景気安定を重視し、9月の利下げの可能性を示唆しており、この機会に乗じる形で日銀が円安是正の機会を狙った可能性も高いでしょう。 

 

現在、投資家の間では日米で正反対の金融政策がいつまで共存できるかが焦点であり、米国の景気が安定し、景気後退がソフトランディングするのかも注目です。 

 

特にFRBが市場のリスクに配慮する中、円相場の不安定さが続く可能性があります。 

 

そこで今回は、日銀利上げの背景、国内経済への影響、円高のメリット・デメリットを受けやすい日本株、為替動向、投資家の投資戦略について解説していきます。 

 

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日銀の利上げ決定は、まるで「衝撃と畏怖」作戦のようだと比喩されています。この「衝撃と畏怖」作戦とは、米軍が2003年にイラクに対して行った先制攻撃を指し、強いインパクトを与えることを目的とした軍事行動を指します。 

 

日銀の今回の利上げも同様に、市場に強烈なインパクトを与えて円安是正を目指すものです。 

 

しかも、この利上げには事前の「地ならし」がほとんど行われていませんでした。 

 

「地ならし」とは、金融政策の変更を市場に予め知らせ、投資家や企業がそれに対する準備を整える時間を与えることを指します。通常、中央銀行は市場の動揺を避けるために「地ならし」を行い、政策変更を徐々に市場に浸透させます。 

 

今回の日銀の利上げは、こうした事前予告がなく、市場にとって完全に予想外の出来事となりました。その結果、投資家や企業は突然の政策変更に対応する準備ができておらず、市場に混乱が生じたのです。市場参加者は、突然の利上げに対する反応として売買を急いで行い、円買いが先行し、為替も円高へとが大きく動くことになりました。 

 

その影響がどのように収束するのか、今後もしばらく注視が必要です。 

 

 

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日銀の突然の利上げは、国内経済に多方面で大きな影響を及ぼします。 

 

まず、企業にとって借入コストの増加することになります。企業が銀行からお金を借りる際の利息が上がるため、資金調達が高くつくのです。これにより、設備投資や新しいプロジェクトへの資金投入を控える企業が増え、経済の成長スピードが鈍化する可能性があります。 

 

消費者にも影響は広がります。住宅ローンや自動車ローンの金利が上昇するため、毎月の返済額が増加し、家計の負担が重くなります。これにより、消費者の購買意欲が低下し、家庭の支出が減ることで、全体的な消費活動が減少することが予想されます。 

 

また円高が進むことで、輸出企業にとっては大きな打撃となります。円高になると海外で日本製品が高く感じられ、競争力が低下します。これにより輸出が減少し、企業の売上や利益が減少するリスクがあるのです。 

 

一方、円高は輸入企業にとっては有利に働きます。円の価値が高まることで、海外からの原材料や製品を安く購入できるため、仕入れコストが下がります。これにより、輸入企業の利益が増加し、価格競争力が向上することが期待されます。 

 

円高の際にメリットを享受する銘柄として、輸入比率が高い企業や、海外から原材料や商品を輸入している企業が挙げられます。以下に具体的な企業を紹介します。 

 

【ワークマン (7564) 】 

 

ワークマンは作業服やアウトドア用品を提供する小売企業で、多くの製品を海外で製造しています。円高が進むと、輸入コストが低減し、製品の仕入れ価格が下がります。これにより利益率が向上し、価格競争力が強化されるため、業績にプラスの影響を与える可能性があります。ワークマンの海外製品の仕入れ比率は約60%です。 

 

【ニトリホールディングス (9843)】 

 

ニトリは家具やインテリア用品を販売する大手小売業者で、商品の大部分を海外で製造しています。円高が進むと、輸入製品のコストが下がり、仕入れ価格が低減します。これにより、ニトリは製品の価格設定に柔軟性を持ち、利益率を向上させることができます。ニトリの海外製品の仕入れ比率は約90%です。 

 

【大阪ガス (9532) 】 

 

大阪ガスは主に天然ガスを取り扱うエネルギー企業です。天然ガスのほとんどを海外から輸入されており、円高になると輸入コストが下がります。これにより、大阪ガスはガス料金を抑えることができ、消費者に対する価格競争力を高めるとともに、利益率の向上も期待されます。 

 

天然ガスの主な輸入国はロシア、カタール、オマーン、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、オーストラリアなどです。 

 

【ベルトラ (7048) 】 

 

ベルトラは観光地やアクティビティのオンライン予約サービスを提供する企業です。円高になると、日本人観光客の海外旅行コストが下がり、旅行需要が増加する傾向にあります。これにより、ベルトラの予約件数や売上が増加し、業績にプラスの影響を与える可能性があります。ベルトラの営業収益全体の売上約60%が海外旅行事業です。 

 

【ラクト・ジャパン (3139) 】 

 

ラクト・ジャパンは乳製品や食品の輸入販売を行う企業です。円高になると、海外からの輸入コストが低減し、仕入れ価格が下がります。これにより、ラクト・ジャパンは食品の価格設定に柔軟性を持ち、利益率の向上を図ることができます。実際、ラクト・ジャパンの乳製品における国内シェアは約37%もあり、円高のメリットの恩恵を受けやすい企業です。 

 

 

円高のデメリット銘柄は、輸出比率が高い企業や、海外での売上比率が高い企業です。 

 

言い換えれば、円安のメリットを享受する企業とも言えるでしょう。 

 

【トヨタ自動車 (7203) 】 

 

トヨタは世界中に自動車を輸出しており、円安になると海外での販売価格競争力が増し、利益が増加します。トヨタの海外販売台数比率は85%以上(2022年現在)に達しており、特に北米市場での販売が重要な収益源となっています。直近の想定為替レートは1ドル=141円としています。 

 

【コマツ (6301) 】 

 

コマツは建設機械を世界中に輸出しており、円安によって輸出競争力が向上し、利益が増加します。コマツの海外売上比率は約86%で、アジア、北米、ヨーロッパ市場が主な収益源となっています。直近の想定為替レートは1ドル=140円としています。 

 

【日本ペイントホールディングス (4612)】 

 

日本ペイントホールディングスは、世界4位の総合塗料メーカーです。自動車用や建築構造物用塗料、表面処理剤、電子部品材料などを製造・販売しています。特に中国、タイ、フィリピン、ベトナムなどのアジア市場でトップシェアを誇ります。 

 

海外売上高比率は約80%に達しており、直近の想定為替レートは1ドル-141.2円としています。 

 

【三和ホールディングス (5929)】 

 

三和ホールディングスは、シャッター最大手である三和シヤッター工業を中核とする持株会社です。ビルや商業施設の建材製品や住宅建材製品を製造・販売し、26ヵ国で事業を展開しています。海外売上高比率は約57%に達しており、直近の想定為替レートは1ドル=152円としています。 

 

【荏原製作所 (6361)】 

 

荏原製作所はポンプ、送風機、圧縮機の最大手であり、風水力事業の建築・産業、エネルギー、インフラ機器の製造・販売を行っています。水インフラやエネルギー市場に製品を供給しており、環境プラント事業や精密・電子事業も展開しています。 

 

海外売上高比率は65%に達しており、直近の想定為替レートは1ドル=150円としています。 

 

 

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執筆時点で1ドル=148円台半ばまで円高が進んでいます。 

 

この円高の背景には、日銀の追加利上げとFRBのハト派的な姿勢が影響しています。 

 

8月22~24日には、米国では世界中の金融関係者が注目する経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が開催されますが、ここで利下げへの期待がさらに高まる可能性があります。 

 

過去には、この会議でFRB議長が今後の金融政策について強いシグナルをたびたび発しています。 

 

現状では、FRBパウエル議長はあくまでも「データ次第」との立場を強調しているため、直近の米雇用統計と消費者物価指数(CPI)の結果が注目されます。 

 

こうした一連の動きを踏まえて上で、利下げサイクルが視野に入っており、円買い・ドル売りの動きが続いています。 

 

とはいえ為替相場の予想は個別株よりも遥かに難しく、今後も外的要因によって大きな変動が起こることは歴史を見れば明らかです。 

 

つまり、円高、円安、どちらにも進むシナリオを想定しておくことが賢明といえるでしょう。 

 

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現在の相場は2007年の投機的な円売りが加速した相場と似ている可能性があります。 

 

これは2007年後半から2008年にかけて、米国でサブプライム住宅ローン危機が発生し、世界的な金融危機に陥りました。この影響でリスク回避の動きが強まり、投資家は円キャリートレード(異なる国の金利差で利益を上げる)を解消し、円が急速に買い戻され円高が進行したことで、日本経済に大きな影響を与えました。 

 

こうした2007年の為替相場と2024年の為替相場は酷似しています。 

 

なぜなら今回の円安の主な要因は大きな金利差にあるからです。 

 

仮にこれまでの為替が円安バブルだとすれば、そもそもバブルは非論理的な現象であり、いつ終わるか予測が難しいといえます。いいかえれば、投資家にとってはバブル崩壊後の迅速な対応こそ重要なのです。 

 

つまり今後の為替動向は、急激な円高に転じるリスク、再び円安に転じるリスク、どちらもあり得るということです。 

 

投資家としては、円安と円高の恩恵を受ける銘柄をポートフォリオに組み入れておくことが重要であり、どちらに為替が振れてもよい状態を準備しておくことが大切です 

 

また不確実性要素が高い局面では、休むことも立派な投資態度であり、筆者自身、現在のマーケットに対してバタバタと売買をするつもりはありません。 

 

ウォール・ストリート・ジャーナル紙が7月31日に掲載した社説によると、日銀が円を防衛するための措置を講じたことが大きく報じられています。 

 

さらに、日本は「世界最大で最も危険な金融の実験場」であると伝えており、これは日本が長期間にわたって低金利政策や大規模な国債買い入れを行ってきたことを指しています。 

 

実際、日本の低金利政策は他国と比較しても異例の規模と長さで行われ、今回の利上げの影響がどのように現れるかは予測が難しく「危険」と表現されているのです。 

 

つまり現在のマーケットは極めて不確実性の高い局面であり、多くの投資家が考えていたシナリオから外れていることを認識する必要があるでしょう。 

 

鈴木 林太郎(米国株ライター) 

 

 

 
 

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