( 199302 )  2024/08/07 16:51:16  
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柔道混合団体戦の決勝で日本とフランスの試合がルーレットで決着し、フランスが勝利したことについて疑念が持たれました。

デジタル抽選であるため、抽選が操作された可能性も考えられましたが、アナログ抽選も完全に公正であるとは限らず、公正さと納得感を両立する適切な方式が議論されています。

(要約)

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パリ五輪・柔道混合団体戦決勝でルーレットを見つめる選手たち(写真:東京スポーツ/アフロ) 

 

 8月3日に行われたパリ五輪の柔道混合団体決勝、日本対フランス戦にて代表戦の階級を決めたルーレットが、公正さの欠けている抽選方式なのではないかという指摘が巻き起こりました。 

 

 柔道混合団体は、女子が57キロ級、70キロ級、70キロ超級、男子は73キロ級、90キロ級、90キロ超級の各階級で対戦が行われ、先に4勝した国が勝利します。3勝3敗となった場合には、抽選で階級を決める代表戦で決着をつけます。抽選は電光掲示板に表示されたルーレットで行われました。 

 

 日本対フランスの決勝は3勝3敗となり、ルーレットの結果、代表戦は男子90キロ超級に決定。日本の斉藤立選手とフランスのテディ・リネール選手が対戦してリネール選手が一本勝ちし、日本は銀メダルとなりました。 

 

 リネール選手は、2012年のロンドン五輪、2016年のリオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得し、今回のパリ五輪でも男子100キロ超級で金メダルを獲得したフランスの英雄です。ルーレットでリネール選手が属する階級が選ばれたこと、開催国がフランスであることから、ネット上では「ズルーレット」「リネールーレット」といった恨み節が飛び交いました。 

 

■デジタルではなく、アナログ抽選を求める声も 

 

 確かに、今回のルーレットに対して作為的な抽選なのではないかと疑いの目を持つ気持ちは理解できます。デジタル端末で抽選が行われているため、あらかじめ90キロ超級が選択される映像を用意して流していた可能性、止まる階級を意図的に決定している可能性が否定できないからです。 

 

 デジタルではなくアナログでの抽選を求める声もあります。では、本当にアナログ抽選のほうがよいのでしょうか。実はそうとも言い切れません。今回はその理由について、「同様に確からしい」という数学の用語を使って解説していきます。 

 

 突然ですが、皆さんに問題を出します。サイコロを1回振って、「3」の目が出る確率はいくつでしょうか?  

 

 おそらく多くの人が、特に計算をすることなく「6分の1」という答えを出したと思います。しかしこの答えは、知らず知らずのうちに「同様に確からしい」という確率の考え方を前提としているのです。 

 

 サイコロを1回振って、「3」の目が出る確率が「6分の1」であることを証明しなさいと言われたら、どのように説明するでしょうか。 

 

 

 例えばサイコロを1万回振って、「3」の目がちょうどその6分の1である1666回や1667回だけ出れば証明できるのか、と言われればそれでもまだ不十分でしょう。 

 

 さらに、確率は「収束値」にすぎないので、実際に1万回サイコロを振ったところでピッタリ1666回、1667回「3」の目が出るという事象はかなりまれです。 

 

 このように考えると、何をもって「6分の1」としているのか。ここの計算では、サイコロの6つの目「1、2、3、4、5、6」の中で特定のある目だけがよく出る、ということはなく、どの目も等しい確率で出ることを前提としているのです。このように、「同じように起こる可能性がある」ことを、数学用語で「同様に確からしい」と言います。 

 

■サイコロの目が出る可能性は本当に同じ?  

 

 さて、サイコロは本当に「同様に確からしい」と言えるのでしょうか。 

 

 もちろんサイコロの種類にもよりますが、サイコロのそれぞれの面には出目を示す黒色の穴(「1」の目のみ赤色の穴である場合が多い)が彫られています。その穴の大きさや数によって、厳密に言えば少しずつ各面の重さが変わることになります。 

 

 何かものを投げたり落としたりするとき、一般的には重い部分が下を向くように落下するため、それぞれの目が出る可能性はまったく同じとは言えないのです。 

 

 これはサイコロに限った話ではありません。例えばサッカーの試合などでも使われる「コイントス」でも、「表」「裏」が出る確率は等しく2分の1であると言い切れません。 

 

 コインにはさまざまな種類がありますが、表裏を区別するために模様を入れているものがほとんどです。その模様によって、ほんの少しではありますがコインの重心の位置が真ん中からずれることがあります。例えば裏に模様が入っていて裏面のほうがが重い場合は、表のほうがわずかに出る確率は大きくなります。 

 

■「同様に確からしい」状態を作るのは簡単ではない 

 

 箱の中にいくつかのボールを入れてそれを1つ取り出す、という抽選方法もよく用いられます。この方法も、ボールの重さを1つだけ変えたり、温度を変えたりするなどさまざまな作為的な介入がありえます。このように考えてみると、アナログでの抽選形式は、どの方法であっても完全に「同様に確からしい」状態を作ることは簡単ではないのです。 

 

 フランス柔道連盟のステファン・ノミス会長は、「ルーレットのボタンを押すのは、われわれではない。IOC(国際オリンピック委員会)が管理している」と地元メディアに発言したと伝えられています。ちなみに、このルーレット形式による階級の決定は前回の東京五輪から行われています。 

 

 皆さんはどのような抽選方法がいちばん公正だと考えますか?  デジタルにせよ、アナログにせよ、公正さに加えて「納得感」のある方式は何か、議論の余地がありそうです。 

 

永田 耕作 :現役東大生・ドラゴン桜チャンネル塾長 

 

 

 
 

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