( 199679 ) 2024/08/08 17:32:07 0 00 上げ幅が一時1000円を超えた日経平均株価を示すモニター=7日午前、東京都港区の外為どっとコム (写真:共同通信社)
日本株が乱高下している。8月5日に過去最大の下げ幅を記録した翌日には、過去最大の上昇となった。 年初来の上昇分が吹き飛んだ格好だが、なかのアセットマネジメントの中野晴啓社長は、「円安バブルが崩壊し、株価は適正水準になった」と話す。 大きな調整を予見してきた中野氏は、NISA初心者にとって今回の「大暴落」は長期視点で資産運用に取り組むうえでいい教訓になったと指摘する。(JBpress) (中野晴啓:なかのアセットマネジメント社長)
【写真】「つみたておうじ」こと、なかのアセットマネジメントの中野晴啓社長
ここ数日の日経平均株価の乱高下で、今年スタートした新NISAで資産運用を始めた方の中には「夜も眠れない」ほど動揺したという人もいるかもしれません。しかし、長期視点に立つならば、今回の「大暴落」はいい教訓として今後の資産運用に必ずや生きてくるはずです。
日経平均の急落を受けて、さわかみホールディングスの澤上篤人さんとの対談記事がJBpressで再掲載され、改めて多くの方が読んでくださいました。
実は、澤上さんとは、「そろそろ(大暴落が)来るかもな」という話をまさにしていたところでした。日銀が追加利上げを決める前です。4万ドルを超えていたアメリカのダウ工業株30種平均のボラティリティーが大きくなって、危うさを感じていました。
米エヌビディアを筆頭に生成AI株は実態を伴わない明らかにバブルの状況で、ハイテク株に調整が入りました。そうした状況で、日銀が追加利上げを決めました。
マーケット関係者は完全に油断していたと思います。植田和男総裁は「(利上げを決断するほど)根性がない」とみられていました。利上げをしたら景気にブレーキがかかると、多くのマーケット関係者は利上げに反対していましたから。
しかし、私は十分ありうると考えていました。アメリカが利下げをすると、逆の動きはしにくくなります。自民党総裁選を控えている国内の政治状況もあります。なにより、日銀関係者は1ドル160円を超えた円安基調に強い問題意識を持っていました。
■ 消費者は苦しく、輸出企業がうるおう不健全
円安でトヨタ自動車など輸出関連企業は最高益など好業績を叩き出す一方、消費者は輸入物価の高騰で生活は苦しくなります。まるで、円安によって国民の財産が輸出関連企業に転嫁されているような状況です。これを放置しておくのは明らかに健全ではないでしょう。
日銀には独立性があるとはいえ、日銀・政府は大きな意志として行き過ぎた円安の是正を周到に準備してきたのではないかと思えてなりません。事実として、財務省の覆面介入が複数回あり、日銀の追加利上げが決定打となりました。
日銀の追加利上げを受けた株価の下落までは、私も想定していました。ただ、米国の雇用統計が予想以上に悪く、マーケットにとって大きなサプライズとなり、それをきっかけに下落が止まらなくなったのは想定外でした。
それまでマーケットでは、米国景気はソフトランディングどころか、「ノーランディングだ」とも言われて、株価を押し上げてきました。それが、想定以上に悪い統計が出た途端、相場の景色が一気に変わりました。いまでは景気後退(リセッション)入りすることすら懸念されています。しかし、本当にそうなるのか、判断するのは早急でしょう。
今回の利上げにより、これまで日経平均株価を押し上げる一つの要因だった輸出関連企業の「円安バブル相場」は終焉しました。円高がさらに進行すれば、業績見通しを下方修正する企業が相次ぐでしょう。
■ 適正な円相場の水準は?
私は、円相場のあるべき姿は1ドル110~120円程度と考えています。円安で訪日外国人が増えてインバウンド市場が盛り上がっていますが、これは単に日本を安売りをしているに過ぎません。極端な言い方をすれば、私たちは円安によって3割くらい貧乏を強いられていたわけです。
11月の大統領選でトランプ氏が勝利したら、ドル安の是正に舵を切るでしょう。購買力平価で考えても、適正な水準へと円高はさらに進むのではないでしょうか。
とはいえ、円高がずっと株価にネガティブな影響を与えるわけではありません。落ち着きを取り戻せば、しっかりと企業の実力が株価に反映される世界になるはずです。
これまでのように、円安バブルで実力がない企業の株価まで上がるということはもうないでしょう。日銀が大量のETF(上場投資信託)を購入し、日本株全体を押し上げるということも、この先はなくなっていくでしょう。
他方、資本コストを意識して構造改革を進め、収益性を改善してきた企業は投資家からしっかりと評価されるようになります。かつてのバブル崩壊との違いはここにあります。今回の大暴落を経て、実力のある企業がしっかりと選別されるようになるのです。
では、今後の焦点はなんでしょうか。
■ 焦点はFRBの利下げの「幅」
まずは9月に予定されている米連邦準備理事会(FRB)による利下げです。もはや、利下げがあるかどうかではなく、その幅が焦点です。0.25%ではなく、0.75%一気に下げると予想する向きもあります。「3倍速」で利上げをしてきたのだから、利下げも0.25%ずつではなく、その3倍もありえるというわけです。
また、日銀がさらに利上げをするかも焦点です。植田総裁は先の金融政策決定会合後の記者会見で、さらなる利上げをほのめかしました。「0.5%の壁」とも言われますが、日銀としては利上げをしたいのでしょう。
もはや日本もインフレが前提の社会に転換したと言っていいでしょう。そうした状況で日銀は、インフレ社会にふさわしい金融政策の選択肢を得られる状態に戻したい、つまり、金利の上げ下げで物価をコントロールできるようにしたいわけです。
前任の黒田東彦総裁は「黒田バズーカ」とも呼ばれた異次元緩和を10年続けました。しかし、金融緩和を続けても実体経済、産業界は強くならなかった。緩和政策の限界が明らかになったいま、日本経済はこれまでとは違う政策で成長していかなければなりません。ただ、今回の日本株の大暴落や景気の状況を踏まえると、さらなる利上げは難しいでしょう。
■ 10年単位の長期視点で経験値を上げるしかない
新NISAで資産運用を始めた方たちにとっては、今回の大暴落は初めての経験です。円高が進んだことで、「オルカン」や「S&P」といったドル建てのインデックス連動型の投資信託に投資をしていた方は、含み益が大きく吹き飛んだことと思います。なかには、マイナスに沈んでしまった方もいるでしょう。
今回の大暴落は、インフレ前提社会になったことによる日銀の追加利上げが1つのきっかけとなりました。しかし、インフレ前提社会は株価にとってはいいことです。インフレに伴って企業の業績数値も上昇していきますし、そうなれば株価も上がっていきます。
つまり、短期的な相場の乱高下に左右されず、コツコツと資産運用を続けることこそが、インフレ社会の恩恵を得る必須の条件とも言えるわけです。資産運用で大切なことは、10年単位の長期視点です。相場の大きな調整は数年ごとに起きる可能性があります。それでも投資を続け、経験値を上げ、成功体験を積み重ねていくしかありません。
中野 晴啓
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