( 199984 ) 2024/08/09 16:26:50 0 00 Bloomberg
(ブルームバーグ): 7月30-31日の日本銀行の金融政策決定会合で植田和男総裁が発したメッセージは明快だった。円安はリスクであり、利上げは続く可能性が高いというものだ。
総裁の明らかなタカ派化に対する市場の反応は厳しく、円相場は対ドルで3%以上急騰し、日本株は1987年以来の大暴落となった。これに対し内田真一副総裁は7日、市場に新たなメッセージを送った。株価や為替相場が不安定な状況で利上げは行わず、当面は現行の金融緩和を維持すると述べ、ハト派姿勢を明確にした。
市場不安定な状況で利上げしない、当面現行緩和を継続-内田日銀副総裁
内田副総裁の発言を受けて円相場は下落に転じ、市場はやや落ち着きを取り戻した。しかし、朝令暮改とも受け止められかねない一連の発言に投資家を当惑している。
サクソ・マーケッツの為替戦略責任者チャル・チャナナ氏は「日銀のコミュニケーションはボラティリティーをさらに高めるだけだろう」と指摘。「日銀が見解に一貫性を保ち続ければ、少なくともパニック的な市場変動や、円や株式相場の不必要な乱高下は避けられるだろう」と語った。
「ダメージコントロール」
日銀が8日公表した7月決定会合の「主な意見」では、利上げ後も「0.25%という名目金利は引き続き極めて緩和的な水準」との認識が示された。しかし日銀会合後、市場ではさらなる利上げの可能性が意識され、低金利の円を借り入れて高利回り資産で運用するキャリートレードの逆流が始まった。米銀大手JPモルガン・チェースによると、世界のキャリートレードの約4分の3が消滅したという。
内田副総裁は、市場動向を受けて利上げに慎重な姿勢に転じたことについて、植田総裁との間に「考えに違いがあるということではなく、状況が変化したということだ」と説明した。市場が大きく反応するリスクも考えながら政策を進めていかなければいけないとも語ったが、こうした説明に一部の海外投資家は満足していない。
UBSのストラテジスト、ジェームズ・マルコム氏は「コミュニケーションには一貫して明瞭さと分かりやすさが必要だ」とし、「グローバル投資家は日銀のコミュニケーションのニュアンスを理解するために必要な基礎知識も、時間的余裕や意思もない」と話す。
オーストラリア・コモンウェルス銀行の為替ストラテジスト、キャロル・コング氏は、内田副総裁の発言は「日銀によるダメージコントロール」で、「円の巨大なポジションを考えると、日銀の行動と言葉が大きな影響を及ぼす可能性があることを最近の市場の混乱は思い起こさせた」と指摘する。
過剰な反応
オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場が織り込む年内の25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の追加利上げの確率は9日午前の時点で30%程度。日銀会合翌日の1日時点では60%超だった。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストによれば、最近の市場の混乱は利上げの遅れをもたらすかもしれないが、日銀が再び利上げを行うのを止めることはないという。
「日銀としてはマーケットが落ち着いたら粛々と利上げをやっていくということ。市場が落ち着いたら徐々に織り込ませていくだろう」と熊野氏と予想。「コミュニケーションはより丁寧にやると思うので、次の利上げのタイミングは後ろ倒しになるのではないか」とみる。
植田総裁の立場に対して同情的な見方もある。日本のインフレ率は円安の影響もあり、日銀が目標とする2%を上回っている。利上げは円を上昇させるための明確な手段であり、トレーダーに影響を与えることは日銀に委任された権限ではない。
大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジストは「日銀のコミュニケーションに行き当たりばったり感はあるが、ここまでの相場の変動を予想していなかった」とし、「不退転の覚悟で円安修正を狙ったというところで、あのタイミングでは仕方がない」と語る。
さらに、市場の期待と中央銀行の意図は乖離(かいり)することがあり、公式声明や政策シグナルはしばしば誤解される。例えば米国の利下げ観測は、変動する経済指標と米連邦準備制度理事会(FRB)当局者の慎重な発言により大きく揺れ動いてきた。
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは「日銀の言っていること自体はそれほど変わっていないが、トーンやどの部分が注目されるかということにマーケットが過剰に反応している部分はある」と指摘。「非常にコミュニケーションは難しく、日銀も苦悩しているに違いない」と語った。
--取材協力:酒井大輔.
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Mia Glass, Yoshiaki Nohara
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