( 200189 )  2024/08/10 02:08:23  
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2021年7月13日、東京で行われたゼロ インターナショナル プリスクールの記者会見に出席した堀江貴文氏 - 写真=WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ 

 

世界で勝負するうえで日本の強みとは何か。実業家の堀江貴文さんは「日本で暮らしていると当たり前にある資源は、実は世界企業にとって事業に欠かせない宝になる」という――。 

 

【図表】名目GDP(為替レート:米ドル換算)の上位6カ国の推移 

 

 ※本稿は、堀江貴文『ホリエモンのニッポン改造論』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。 

 

■地方の衰退は「国家的損失」である 

 

 東京の人口過密状態は、過酷といってもいいほどである。街に出れば往来の人々とぶつからないよう気をつけねばならず、電車に乗れば見知らぬ人と至近距離になる。私には無縁だがラッシュ時の満員電車など正気の沙汰ではない。 

 

 東京という街は、たしかに刺激的で魅力にあふれている。ファッションにハイカルチャーにサブカルチャー、さらにはクオリティの高い多種多様な飲食店。どれを取っても東京はピカイチだ。地方から東京に移り住む人が多いのは理解できる。 

 

 しかし、この東京一極集中状態が維持、あるいは増幅すればするほど、地方からは人がいなくなり、過疎化と経済的荒廃が進むという事実を無視してはいけない。何より地方には地方の魅力がある。その宝をみすみす失うことは、日本の国家的損失なのである。 

 

 毎年2月、私は鳥取県にある「かに吉」で蟹のフルコースを食べる。毎回、唯一無二の極上の蟹料理を味わわせてもらえて大満足だ。地方の飲食店としては破格の金額を請求されるが、それだけの価値、いやそれ以上の価値があると思っている。 

 

■ホリエモンが考える「日本という国土の特殊性」 

 

 鳥取には飛行機で行くのだが、真冬の2月のこと、離着陸の前後には広大な美しい雪景色が眼下に広がる。それを眺めながら、あるとき、ふと日本という国土の特殊性について思いを馳せた。 

 

 まず言えるのは、日本は、平地が少ない狭い国でありながらも、豊富な水源のおかげで世界一清潔な民族になったこと。そして島国だからこその防疫体制で、人口密度が高くても安全な国をつくることができた。 

 

 人口密度が高いことは、日本中の土地がほぼ開拓され尽くしたことを示している。おそらく江戸時代の時点で、すでに北海道以外のほとんどの地域で未開地はほぼ消滅し、田んぼが広がっていたはずだ。 

 

 そこから強固な家族制度とコミュニティが形成された。ほぼ人力で開墾された土地の維持には、濃い人間関係による協力体制が不可欠だからだ。どのような山間部にも、それなりのサイズの集落が存在したはずだ。 

 

 

■「コンパクトシティ化」を促進すべき 

 

 しかし、戦後しばらくすると事情は一変する。経済成長が進むにつれて、農業から離れる人が増えていったのである。 

 

 それでも団塊ジュニアが生まれるくらいまでは、長男だけは地元に残ったり、都会に馴染めずUターンする人がいたりして、旧来の家族制度やコミュニティは、まだ保たれた。だが、やがて山間部から過疎化が進んでいった。 

 

 農地を維持してきた最後の世代と言える団塊世代が高齢化し、車の運転すらも難しくなると、農業を続けることができなくなった。そして今、奥地まで開拓された日本中の農地は放棄されつつある。 

 

 これは、いってしまえば当然の帰結だ。ライフラインのインフラ整備はタダではない。予算が限られているなかで、人がほとんど住んでいないような土地のインフラを維持、充実させる余裕はないのだ。もはやその財源は枯渇しつつある。 

 

 かといって、このまま地方が廃れていくのも忍びない。手遅れにならないうちに、地方のコンパクトシティ化を促進するべきだ。 

 

 便利で暮らしやすい、魅力的な街が地方に形成されれば、出身地に戻ってくる人や新たに移住する人も出てくるだろう。それが東京一極集中の緩和と地方経済の活性化につながることは言うまでもない。 

 

■世界随一、日本の最大の売りは「水」である 

 

 戦後、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国にまで上り詰めた日本だが、今では下降線を辿る一方だ。2010年あたりに中国に抜かれて第3位になり、現在はドイツに抜かれて第4位。次はインドに抜かれるという見立てもある。 

 

 そんななか、日本が本当に世界で勝負し、トップをとるには、日本人であること、そして日本に住んでいることのアドバンテージを生かして、競争が緩いところを選ぶしかない。 

 

 そのアドバンテージとは何か。私は自然環境、とくに「水」だと考えている。「湯水の如く」という言葉があるとおり、日本は豊かな水資源に恵まれており、インフラも行き届いている。 

 

 日本で暮らしていると、蛇口をひねれば、そのまま飲めるほど清浄でおいしい水がいくらでも出てくるのは当たり前という感覚だろうが、それは世界の当たり前ではない。 

 

 中東やアフリカなどには水不足にあえいでいる国や地域がたくさんあるし、欧米では、飲料水は「ボトルに詰めて売られているもの」だ。日本の水道料金とて有料ではあるが、欧米人からすればタダ同然である。 

 

 日本は水に恵まれた世界有数の国なのだということを、日本人はもっと自覚したほうがいい。世界で流行っていることにイチから挑戦するよりも、すでに潤沢にあるリソースを活用するビジネスを考えたほうが、よほど効率的に経済力を高められるというものだ。 

 

 

■良質な食材は「豊かな水資源」があってこそ 

 

 では、「水」というリソースを活用するビジネスとして、どんなものが考えられるだろうか。 

 

 まず、インバウンド観光だろう。 

 

 私はコロナ流行期の2年間、日本全国を旅した。そこで改めて日本という国に古くからある自然の豊かさに気づかされた。 

 

 外国人観光客も、おそらく、そういう日本の一面に気づきはじめている。というのも、東京や奈良・京都など定番の観光地だけでなく、山間部にも外国人観光客が多く訪れるようになっているのだ。 

 

 のどかな農村風景に、それこそ豊かな水資源など、日本人にとっては当たり前すぎてありがたみを感じづらいものに、彼らは日本にしかない特別な魅力を感じているのだろう。 

 

 また、日本の食文化や外食産業においても「水」は欠かせない。 

 

 フルーツしかり、米しかり、日本の良質な食材は、ほぼ例外なく、豊かな水資源があってこそ生産できるものだ。 

 

 私が「WAGYUMAFIA」で使っている和牛もそうだ。牛を健やかに育て、美味い肉を得るには、水に恵まれていることが最低条件である。 

 

 つまり、日本産の食材を対外的にアピールすることは、まわりまわって、豊かな水資源という日本ならではのアドバンテージを活用していることになる、と言ってもいいだろう。 

 

■TSMCが「熊本の水」に目をつけたワケ 

 

 さらには、こんなニュースも記憶に新しい。 

 

 2021年11月、台湾の大手半導体メーカー・TSMCが熊本に生産拠点を作ることを発表した。 

 

 その理由というのが「熊本の豊かな水資源」なのだ。半導体の製造には純度の高い水が大量に必要である。台湾が歴史的な水不足にあえぐなか、TSMCは節水、水の再利用技術の向上などさまざまなことを試みてきたが、このほど新たな生産拠点を熊本に求めたわけだ。 

 

 実は「熊本の水」に目をつけたのは、TSMCが最初ではない。 

 

 2003年には、ソニーが地元農家や環境NPOなどと協力して、地下水涵養(かんよう)(地表の水を地下に浸透させ、帯水層に水が供給されるようにすること)事業を開始しているのだ。ソニーの半導体工場は、製造に必要な大量の水を確保するために、1990年代後半から地下水涵養地域に進出していた。 

 

 熊本の水インフラは、もとは江戸時代に加藤清正(かとうきよまさ)が、熊本の白川中流域に井堰(いせき)を築いて水田を整備したことに始まり、今に至っているものだという。これこそ日本の伝統的な豊かさが経済効果を生んだ例と言っていいだろう。 

 

 

 

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堀江 貴文(ほりえ・たかふみ) 

実業家 

1972年、福岡県生まれ。ロケットエンジンの開発や、スマホアプリのプロデュース、また予防医療普及協会理事として予防医療を啓蒙するなど、幅広い分野で活動中。また、会員制サロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」では、1500名近い会員とともに多彩なプロジェクトを展開。『ゼロ』『本音で生きる』『多動力』『東京改造計画』『将来の夢なんか、いま叶えろ。』など著書多数。 

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実業家 堀江 貴文 

 

 

 
 

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