( 200324 ) 2024/08/10 15:57:03 0 00 Adobe Stock
パリ五輪の日本での経済効果は2500億円にものぼるとされるなど注目度は高い。その一方各競技で日本勢が多くのメダルを獲得したが、そのメダル数に関しては結果に不満を抱いた人も少なくないだろう。一部では「パリ誤審ピック」と揶揄されるようなきわどい判定も多かったためだ。
なかでも、柔道においては疑惑の判定が相次いでいる。男子90kg級決勝や柔道混合団体・決勝など、細かいものも挙げればきりがない。
とりわけ、柔道男子60キロ級準々決勝、永山竜樹対フランシスコ・ガリコスの試合における判定には、試合から数日たってもいまだ批判の声が多い。ライターの小林英介氏がレポートするーー。
7月26日に開会式が開かれ、連日の熱戦が続くパリオリンピックだが、とある試合での「大誤審」が物議を醸している。
「大誤審」が起きたのは開会式翌日に開かれた柔道男子60キロ級準々決勝だ。この試合では、日本の永山竜樹(SBC湘南美容クリニック)とスペインのフランシスコ・ガリコスが対戦した。
試合が進む中、寝技を得意とするガリコスは永山に覆いかぶさる形で締め技に持っていく。審判はすかさず「待て」を宣言したものの、ガリコスは締め技を続けた。数秒間締められ続け、永山は一瞬、気を失った。それが影響したのか、審判はガリコスの「勝ち」を宣告。永山は一本負けを喫することとなったのだ。
試合後、全日本男子の鈴木桂治監督は審判団へと抗議。マスコミ各社への取材に応じた鈴木監督は「悪魔の6秒間だった」と試合を振り返り、以下のように説明した。
「審判団は笑っていた。私たちは『落ちた』(失神した)か否かを聞きたいのではない。審判の『待て』がかかった後に数秒間締め続けることが柔道の精神に則っているのかと」
ところが、抗議は実らずに判定はそのまま。全柔連も文書で抗議する事態となった。
抗議に対し、ガリコス側も反論。スペイン紙「アス」によれば、「主審が『待て』と宣告したことは歓声などで気づかなかった。そのため締め続けた」とガリコスは反論している。
また、ガリコスのキノ・ルイスコーチは、「(ガリコスは)不愉快なメッセージを受け取っている。なぜこのような状態になっているのか私は理解できない。私は死ぬまでガリコスを守る」などと困惑の表情だ。ルイスコーチはさらにガリコスに対して、ガリコスが日本でよく合宿を行っているとし、「行かないように」とも伝え、試合後に永山が握手をしなかったことを問題視。「彼は寝ていた。寝技では意識を失えば一本となり、一本を取られた選手は負けになるのだ」と主張した。
永山は準々決勝の後、「正直、何が起きたのか(分からなかった)。自分に隙があったのかも」と取材に答えている。この時にはすでに、心の切り替えができていた模様だ。その後に開かれた敗者復活戦では、東京オリンピック銀メダリストの楊勇緯(台湾、世界ランキング1位)を優勢勝ちで破って3位決定戦へ。
3位決定戦では、サリー・イルディス(トルコ)と対戦して一本勝ち。意地の銅メダルを獲得した。永山は「正直きつかった。沢山の方のために銅(メダル)を取ろうと戦った」とコメントした。なお、ガリコスは準決勝でエルドス・スメトフ(カザフスタン)に敗れ、3位決定戦でジョージアのギオルギ・サルダラシビリに勝利し、永山と同じ色のメダルを獲得している。
永山は1996年、北海道美唄市に生まれた。柔道は4歳の時に美唄市少年柔道会ではじめ、小学2年生からは岩見沢市にある柔道少年団で活動。その後は愛知県にある真和学園大成中学校、県真和学園高校へと進み、東海大学へと進学した。昨年に東京で開かれた柔道グランドスラム60キロ級では、2020年東京オリンピック代表の高藤直寿(パーク24)を下して優勝。全日本柔道連盟が昨年12月に開いた強化委員会では、永山ら3人を新しく柔道日本代表に選出していた。永山はオリンピック初出場だった。
一方、ガリコスは1994年にスペインで生まれた。2023年の世界選手権ドーハの王者であり、寝技を得意とする。ガリコスは偶然にも、世界選手権ドーハで高藤と対戦。ガリコスが高藤にかけた関節技が「危険だ」と批判の声が上がるなどした。
そしてまた偶然にも、ガリコスと高藤が対戦した試合をさばいていた審判、エリザベス・ゴンザレス氏が、永山対ガリコスの試合をさばいていたことも判明したためか、SNSでは目に見えるような批判が続出している。
「審判の質をどうにかしてくれ」
「人間が審判をやるのである程度の失敗は仕方ない。でもあまりにも誤審が多すぎやしないか」
「パリ五輪ではなく『パリ誤審ピック』だろう」
周りで批判が過熱する中、当の永山とガリコスは試合後に再会を果たしている。永山のインスタグラムには2人の姿が写った写真が投稿されており、「ガリコス選手が会いに来てくれました!」「彼から謝罪の言葉がありましたが、彼にとっても不本意な結果だったと思います」との文言も。そして「オリンピックの舞台で彼と全力で戦えたことを幸せに思います! 誰が何と言おうと私たちは柔道ファミリーです!」と仲直りした様子だった。
今回のオリンピックは、何かと物議を醸す事例が多い。柔道女子52キロ級代表・阿部詩の号泣をめぐる賛否や、トライアスロン会場となるセーヌ川の水質問題、選手村のエアコン・食事問題などもある。
ただし裏を返せば、それだけ注目を集めているともいえよう。あと数日でこの熱戦は終わりを迎え、パラリンピックが始まる。目に障害を持つ筆者としてはオリンピックの選手と同様、パラリンピックに出場する選手たちに対しても変わらない応援をお願いしたいところだ。
小林英介
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