( 200869 )  2024/08/12 14:35:44  
00

JR大宮駅のみどりの窓口=埼玉県大宮市、米倉昭仁撮影 

 

「みどりの窓口」が激減している。JR東日本が削減を発表した2021年から現在までに半数以上減った。コロナ禍が明けて、旅行需要が回復すると苦情が殺到。今年7月、JR東日本はお盆の繁忙期に計50駅で窓口を再開・増設すると発表した。だが、「みどりの窓口」混雑問題は深刻だ。 

 

【写真】エグすぎでしょ…「みどりの窓口」待ちすぎの様子 

 

*   *   * 

 

■みどりの窓口で70人65分待ち 

 

 8月上旬の正午過ぎ、JR大宮駅の「みどりの窓口」内で、高齢の2人の女性が番号札の発券機の前で声を上げた。 

 

「まあ、70人も待っているわよ。待ち時間は最大65分だって」 

 

「もっと待つんじゃないかしら。また来ましょう」 

 

 時間を空けて再訪すればすいていることを期待したのだろう。そう言って、2人は引き返した。座席で待つ人には若者の姿も少なくない。 

 

■「えぐすぎだろ」「軒並み閉鎖されたから…」 

 

 みどりの窓口は、JRの乗車券、特急券、指定席券などを予約・販売する駅の有人窓口だ。利用客の要望に合わせてきっぷを発券するほか、旅行に応じて「おトクなきっぷ」などを提案してくれる。 

 

 大宮駅のみどりの窓口では、今年2月1日から受付番号札での案内を開始し、待ち時間の目安を表示するようになった。JR東日本によると、昼から夕方にかけて、最大待ち時間は45分から60分にもなるという。繁忙期になると、待ち時間はさらに延びる。SNSには、同駅のみどりの窓口への嘆きの声があふれる。 

 

「待ち人数が100人超え。待ち時間1時間45分……」 

 

「朝9時30分ぐらいに行ったら待ち時間80分以上。えぐすぎだろ」 

 

「近隣駅の窓口が軒並み閉鎖されたから混むのな。クソだ」という投稿もあった。 

 

 経費削減のため、JR東日本が「みどりの窓口」を2025年までに約7割削減すると発表したのは2021年。当時440駅にあったみどりの窓口は、今年4月1日には半分以下にまで減っている。 

 

 窓口の混雑が目立つようになると、苦情が寄せられるようになった。今年5月、同社はみどりの窓口の削減を一旦凍結。繁忙期には閉鎖した窓口を臨時で開いたり、増設したりするという。 

 

 

■「一見さんお断り」のシステム 

 

 JR東日本は、「窓口に並ばずにきっぷが買える」として、指定席券売機や、インターネットできっぷが買えるえきねっとの利用を勧めている。 

 

 だが、なぜ混雑状況が一向に改善しないのか。 

 

 鉄道ライターの小林拓矢さんはこう話す。 

 

「指定席券売機にしてもえきねっとにしても、普段から使い慣れているビジネス客など、『きっぷのルールを知っている人』でないと、操作方法がわかりにくい。きっぷのルールをよく知らない人は、みどりの窓口に並んでしまうんです」 

 

 指定席券売機の使いづらさは同社も認識しているようで、ホームページには、「券売機の操作方法は難しいですね」とあり、指定席券売機の使い方を体験できるシミュレーターに誘導している。 

 

 いっぽうで、現代人のきっぷ離れが進んでいる。もはや必需品ともいえる交通系ICカードの普及で、きっぷを買う機会は減った。ICカードがあれば、きっぷを買わずともタッチすれば運賃が引き去られる。そのため、「きっぷの買い方」すらわからない人が増えている、と小林さんは指摘する。 

 

■きっぷが買えるか、自信がない 

 

 まさか、と思うだろうか。 

 

 先日、記者の大学生の娘が「1人でUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、大阪市)に行きたい」と言うので、「新幹線のきっぷなら、駅の指定席券売機で買えるよ」とアドバイスした。ところが、きっぷを買えずに帰ってきた。 

 

「どうすれば正しいきっぷが買えるのか、自信がなかった」と言う。 

 

 娘の視点で券売機の操作画面を見ると、確かにわかりにくい。指定席券売機の初期画面には「きっぷの種類をお選びください」と表示され、その下には「指定席」「自由席」「乗換案内から購入」「おトクなきっぷ」などの選択肢が示される。きっぷの一般的な知識がなければ、「指定席」「自由席」が「特急券」の種類で、さらに「乗車券」が必要だということもわからないだろう。JR東日本によると、「乗換案内から購入」から操作を始めるのが基本だというが、何も知らなければ「おトクなきっぷ」を選んでしまうことも大いにありそうだ。 

 

 

■つながらない「話せる券売機」 

 

 利用者の不便を解消すべく、同社はオペレーターと会話ができる、受話器付きの「話せる指定席券売機」も設置している。「こちらのほうが若干便利」だと、小林さんは言う。 

 

 だが残念ながら、「話せる指定席券売機」の設置駅はかなり少ない。JR山手線の駅の場合、設置されているのは高田馬場駅と巣鴨駅のみだ。 

 

「しかも待ち人数が多く、オペレーターにつながるまでかなり時間がかかるケースもあると聞いています」(小林さん、以下同) 

 

 娘のきっぷ購入の際に、えきねっとも試してみた。こちらもある程度のきっぷの知識が必要だが、気になったのは、ちょっと不思議な選択肢が一番上に表示されたことだ。新大阪駅から大阪駅までのわずか4分ほどの移動に、特急料金のかかる「特急サンダーバード」を使うものだ。 

 

「みどりの窓口できっぷを購入すれば、東京駅から新大阪駅までの新幹線特急券と、東京都区内から大阪市内までの乗車券が発券されます。おそらく、えきねっとはデータベースから自動的にルートを表示するので、そんなおかしな選択肢も表示されてしまうのでしょう」 

 

 つまり、えきねっとは、それを「おかしい」と判断できる人が使うことが前提のシステムなのだという。 

 

「指定席券売機やえきねっとを使いこなせない人は、世の中に大勢います。お盆やお正月のシーズンになると、そんな人たちがみどりの窓口に長い行列をつくるわけです」 

 

■なぜ券売機は使いづらいのか 

 

 指定席券売機やえきねっとが登場してから約20年になるが、使い勝手はあまり改善されているように見えない。 

 

「数年前まで、みどりの窓口がそれなりにあったので、苦情がそれほど多くなかったこともありますが、そもそもこのシステムを大きく変えるのは難しい」と、小林さんは言う。 

 

 大もとのJRグループのシステム「マルス(MARS)」を変えることが困難だからだ。駅員がきっぷの予約や発券をするためのシステムで、指定席券売機もえきねっともマルスをベースにしたものだ。さまざまな運賃計算の特例や規定がある「きっぷ」と利用者の希望に折り合いをつけたいところだが、システムの根本にかかわるため、そう簡単には手を入れられないという。 

 

 

■使いにくいと感じるのは「当たり前」 

 

「みどりの窓口では、『きっぷ』を熟知した駅員が利用者の要望を聞き取り、それをマルスが受け入れやすいかたちに置き換えて入力し、きっぷを予約したり、発券したりしています。利用者が指定席券売機やえきねっとを使いにくいと感じるのは、ある意味、当たり前なのです」 

 

 訪日外国人を含めて、きっぷのルールを知らない人が一定数いるからには、人が対応することは「不可欠」と、小林さんは指摘する。 

 

「現実的な対応策としては『話せる指定席券売機』を増やして、これ以上『みどりの窓口』を減らさないことでしょう」 

 

 結局、娘は新幹線ではなく、USJに直行する夜行バスを選んだ。 

 

 時刻表どおりに正確に運行される鉄道は信頼性の高い移動手段だ。そこへのアクセスを容易にする有人サポートは、今のところ大いに必要なのだろう。 

 

(AERA dot.編集部・米倉昭仁) 

 

米倉昭仁 

 

 

 
 

IMAGE