( 200974 )  2024/08/12 16:36:53  
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崔真淑さん 

 

■日経平均の乱高下  

 

ブラックマンデーという言葉が、久々にメディアから聞こえてきました。8月5日の日経平均株価が歴史的な暴落により、過去の株価暴落との比較のために使われました。その値下がり幅だけでなく、その後の値下がり率も歴史的なものとなりました。このコラムを執筆している8月9日現在は、日経平均は3万5千円を回復しており、少しづつ日常を取り戻しつつあります。 

 

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しかし、この下落がただの一時的なものなのか、それとも金融・社会システムに関わる何かの予兆なのかはわからないだけに、日経平均の値動きは通常時より激しいものとなっています。更には、8月8日に南海トラフ地震の臨時情報(巨大地震注意)が初めて発表されたことで、機関投資家からも日本経済への影響を懸念する声が出ています。今回は、備えあれば憂いなしと、資産運用における、もしもの金融危機や地政学・災害リスクなどに対してどう向き合うべきかについて再考します。 

 

■長期&分散が基本というけれど・・・ 

 

 日経平均が乱高下する中で、投資は長期・分散投資が基本ですよ!慌てないで!という声が、至る所から聞こえてきました。私は、こうしたコメントを聞くたびに、いつも心の中がモヤっとするのです。その理由は以下の通りです。 

 

 まず、分散投資とは、日経平均のような株価指数に連動するファンドに投資をすることで、株式投資における「銘柄分散=特定の個別株に一極集中で投資をするのではない投資」をする分散投資や、株式・債券・コモディティ・不動産・外貨……など異なる資産に投資をする「資産分散」があります。 

 

 特に重要なのは、ファイナンス理論的には資産分散です。何のために分散投資をするかといえば、景気・社会情勢・災害・地政学の異変に対して異なる動きをする資産に分散することで、突発的な異変に対して目減りしにくい資産運用をするためです。そうすると、仮に株式しか保有していないならば、そこで銘柄分散をしていても、景気悪化や地政学リスクに対して株式特有の脆弱さによってもたらされるリスクは分散できません。 

 

 

有事の時のゴールド買い、景気悪化に備えての債券買いという言葉を聞くことがありますが、社会的な異変に対するそれぞれの資産の強みを示した言葉でしょう。私は、この資産分散こそが、突発的なリスクに対して投資家が出来る最大の防御だと考えています。 

 

■長期分散という言葉にモヤモヤする理由 

 

 では、長期投資はどうか? 私がモヤっとするのはこの言葉なのです。ここでいう長期投資とは、毎月定額でコツコツと投資をして、時間分散をしながら投資をしていくドルコスト平均法のようなイメージを指しています。 

 

なぜ、モヤっとするかといえば、長期投資は必ず花開くかのような言い方がされることが多いからです。というのも、時間分散が資産運用において有効かどうかは、投資期間を通して投資対象の資産が必ず正と負を交互に繰り返巣という状況(=平均回帰性)を維持することが前提になっているからです。しかし、全ての資産価格が長期間にわたって平均回帰性を持っているかは、私が見る限り学術研究においても解明されていません。 

 

このようなことを書くと、何を言っているんだ!アメリカ株はいったんは下がっても上がり続けているし、それを繰り返しているじゃないか!日本株も戻ってきたじゃないか!といわれそうですよね。しかし、たかだか100年弱の話に過ぎないじゃないかと、私は思ってしまうのです。 

 

■ノーベル経済学賞を受賞したマーコウィッツの苦言 

 

こうした苦言は、私個人の戯言に聞こえるかもしれません。しかし、プロの投資家も警鐘を鳴らしています。著名投資家であるウィリアム・キンローたちの著書「誤解だらけのアセットアロケーション: 実務家のためのガイド」において、長期で投資をすることが本当にリスクを小さくするかについて疑問を呈しています。また、ノーベル経済学賞を受賞したマーコウィッツの言葉を引用しながら、その理由についても触れています。投資タイミングがずれるということは、その時々で計算される理論価格(≒評価)そのものも変化しているので、そもそも分散と言えるのかということです。 

 

 もちろん、だからといって時間分散をする積立投資の魅力が薄れた訳ではないです。長期間続けられる、お財布に優しい投資方法であることには変わりないのです。でも、いつかは株価は戻ると言っても、そのいつかは誰にもわかりません。最低でも、5年は使わないお金でリスク資産に投資をするなど、マイルールはしっかり決めて投資をしたいと思う今日この頃です。 

 

崔 真淑 

 

 

 
 

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