( 200979 )  2024/08/12 16:43:51  
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外国人旅行者によるマナー悪化が深刻化している(Photo/Shutterstock.com) 

 

 マナーの悪い外国人旅行者が増え、地域住民の生活に無視できぬ影響を与えている。いわゆるオーバーツーリズム問題。モラルの低い旅行者を排除すべきだが、現在の円高が進んだとしても問題は解決されない。政府は、旅行者数の増加だけを求める政策から転換し、モラルの低い旅行者を排除すべきだ。 

 

【詳細な図や写真】静かな住宅地で夜中まで飲酒して騒ぐ、個人の敷地に無断で入り込むなど…地域住民の日常生活に支障が出ている(Photo/Shutterstock.com) 

 

 外国人旅行者が急増し、地域住民の日常生活に支障が出ている。オーバーツーリズム(観光公害)と呼ばれる問題だ。 

 

 静かな住宅地で夜中まで飲酒して騒ぐ、個人の敷地に無断で入り込む、写真を撮ろうと信号を無視して道路に出る、街を歩く女性にしつこく絡む、等々。また、これまで無名だった場所が、SNSで紹介され、突如として世界的に有名な観光地になってしまい、住民の日常生活が乱され、厳しい対策を取らざるを得なくなった例もある。 

 

 こうした被害を受けている方々は、まったくお気の毒だ。 

 

 以下では、オーバーツーリズムの問題のうち、外国人旅行客による公共的サービスや施設の過剰利用、不適切利用という問題を取り上げたい。 

 

 京都など外国人旅行客が集中する観光地では、道路は混んで、地元の人はバスもタクシーも乗れず、住民の通勤や買い物などの移動に支障をきたしているという。ゴミの不法投棄(ポイ捨て)も増えるので、処理が大変だ。公共団体のゴミ処理費用も増える。 

 

 これまで地域住民の利用を想定されて作られていた公共サービスが、外国人旅行者の利用増加によってパンクしているのだ。 

 

 観光地のトイレの問題も深刻だ。JR鎌倉駅近くのコンビニエンスストアでは、トイレ待ちの行列が店外まで延び、買い物客の入店を妨げることもあるという。 

 

 何より、利用マナーが極めて悪い。使い捨てカイロやカップ酒のプラスチック製のふたが流されるといった使われ方も度々あるという。便器が詰まるたびに修理を余儀なくされ、清掃に追われて、店員が他の業務に手が回らなくなった。水道代が月約10万円に上ったこともあったという。 

 

 「銭洗弁財天」のトイレでは、「アイスキャンディーやだんごのスティックをトイレに流すと故障の原因になります」と、日本語だけでなく、韓国語や中国語も併記して注意を呼びかけている。 

 

 こうした外国人観光客が増えた原因は、日本の観光地の魅力が高まったからではない。 

 

 

 円安が進んで日本のコストが安くなったから、外国人観光客が増えた。外国人旅行者数は、2013年から急激に増加しているが、今年になってからの急激な円安で、それが加速した。1ドル160円近くになると、外国人の目から見れば、日本の旅行はきわめて安くなってしまった。 

 

 現在の日本では、外国人観光客は過剰だ。数が多すぎるだけでなく、費用が安くなったために、モラルの悪い旅行者が増えている。上で述べたような問題を起こしているのは、モラルの悪い旅行者だ。 

 

 8月の初めから、為替レートは急激に円高に転じている。これによって外国人旅行客数にも影響が出るだろう。ただし、コロナ以前の1ドル=110円程度の為替レートでも、外国人観光客は多く、オーバーツーリズムが問題となっていた。 

 

 したがって、今後仮に本格的な円高への転換が進むとしても、それだけで問題が解決できるとは思えない。オーバーツーリズム、とりわけ外国人旅行客による日本の公共インフラの使用問題について、抜本的な対策を講じることが必要だ。 

 

 トイレなどの公共的な施設の建設と維持には、コストがかかる。その負担は、日本人が負っている。そして、外国人旅行客は、負担なしにそれらの施設を使っている。 

 

 地域住民の税金でまかなわれている社会基盤が、観光客によって過剰に利用されているのだ。いわば、「ただ乗りの利用」を認めていることになる。 

 

 その半面で、サービス供給の費用を負担している日本人が使えなくなる。こうした費用を、民間の営業主体であるコンビニが負担するのは、さらにおかしい。 

 

 だから特別な税を作って外国人旅行客に課税し、それを公共施設の建設と維持のための財源にするということが必要だ。トイレの場合について言えば、コンビニが対応するのでなく、公共トイレを増設するのだ。 

 

 オーバーツーリズムの問題に悩んでいるのは、日本だけではない。そして、それへの対策として、世界のいくつかの都市や地域で、「観光税」が導入、あるいは検討されている。これは、宿泊施設や航空会社などの料金や運賃に上乗せする形で徴収される。 

 

 現在、世界の25以上の国や地域で観光税が導入されている。ベネチアやバルセロナの観光税はよく知られている。 

 

 日本では、2019年から、日本から出国する旅客から、出国1回につき1,000円を「国際観光旅客税(出国税)」として徴収している。航空会社がチケット代金に上乗せして、国に納付する。国税庁の説明によれば、これは、「観光先進国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図るための恒久的な財源を確保するため」のものだ。沖縄県は、2026年を目処に観光税を導入する考えを示している。 

 

 日本でも、主要な大都市では「宿泊税」を導入している。京都市は、2026年をメドに宿泊税を引き上げる方針だ。 

 

 これらとは別に、以上で述べたような対策の費用に当てるための財源として、「観光税」を創設することが考えられる。それは、単に、公共サービスの対価というだけのものではない。来日することのコストを高め、モラルの低い旅行者をカットするという意味もある。つまり、これによって、モラルの高い旅行者を選別するのだ。 

 

 なお、大阪府の吉村 洋文知事は、今年の3月5日、府内に滞在する外国人観光客に対して、「宿泊税」以外に、観光資源の保護などを目的に負担してもらう「徴収金」の導入の可否を検討する意向を表明している。 

 

 

 私は、外国人旅行者が日本に来ること自体は望ましいことだと思う。問題は、それが安売りによって数を増やすだけの政策になってしまっていることだ。 

 

 日本政府は、これまでも、外国人旅行者の総数を増やすことを政策目標としてきた。今は、2030年までに6000万人にすることを目標としている。しかし、現在の観光公害の状況を見れば、6000万人を受け入れることは、到底不可能だ。「訪日外国人旅行者が多ければ良い」という基本的発想を根本から考え直す必要がある。 

 

 外国人旅行者の数を求めるのでなく、モラルの高い旅行者を求めるべきだ。 

 

 「私有地に無断で入ったり、写真を撮るために交通規則を無視したり、通行する女性に付きまとったり、深夜まで騒いだりする観光客はお断り」ということを、はっきりと宣言すべきだ。 

 

 それこそが観光立国ということの内容であるべきだ。 

 

 観光税は、すでに述べたように、公共施設の利用料という意味もあるのだが、それだけではなく、旅行者のモラルを高めるために必要な施策だ。 

 

執筆:野口 悠紀雄 

 

 

 
 

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