( 200982 )  2024/08/12 16:50:56  
00

物流業界では、荷主との取引関係を見直す必要があるとされており、運送会社はコンプライアンス違反や過剰要求に対して取引解消を覚悟する必要があると述べられている。

ドライバー不足や残業の規制により、運送会社のトラック輸送リソースが減少しており、免許制度の改正も若者のトラックドライバーになる選択肢を阻んでいると指摘されている。

記事では、運送会社と荷主の健全な関係を築くことの重要性が強調され、2024年問題への対応や業界全体の変革が求められている。

(要約)

( 200984 )  2024/08/12 16:50:56  
00

物流トラック(画像:写真AC) 

 

「会社とトラックドライバーを守るためには、今まで取引のあった荷主であっても、取引関係を解消する覚悟が必要です」 

 

【画像】「えっ…!」これが自衛官の「年収」です(計8枚) 

 

車両台数60台ほど、中堅運送会社である八大(東京都中央区)の代表取締役 岩田享也氏は、ため息をつく。 

 

 岩田氏は数年前から「物流の2024年問題(以下、2024年問題)」を見据え、コンプライアンス違反の運行などを強いてくる荷主との取引を見直してきた。 

 

 筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)が先日、当媒体に寄稿した「いつまで荷主にナメられるのか――もはや爆発寸前、中小『運送会社』の“積年の恨み”の正体」(2024年8月3日配信)でも触れたとおり、かつて荷主にとって、運送会社は、 

 

「すげ替えの利く存在」 

 

だった。例えば 

 

・手積み手卸し 

・配送先の店舗における商品の棚入れ 

・積み卸し先での、フォークリフトを使ったドライバーによる自主荷役 

 

積み卸し先の都合で、何時間も待たされることも多々ある。こうした荷主からの過剰要求に対し、運送会社が改善を求めようものならば、 

 

「ウチの取引に文句があるの? だったらいいよ、辞めてもらって。だって、運送会社は世の中にたくさんあるんだから」 

 

といわれ、一方的に取引を切られてしまうのが、これまでの運送会社であった。1990年代に行われた物流2法改正による規制緩和によって、運送会社の数が1.5倍まで増加し、運送会社間の過当競争が起きてしまった結果である。 

 

 運送会社は、荷主から取引を切られることを恐れ、 

 

・運賃の安い仕事 

・長時間労働やドライバーの身体に負荷の掛かる仕事 

 

であっても、断る勇気を持てなかった。会社と、そして何よりもドライバーを始めとする 

 

「従業員の雇用」 

 

を守るためには、泥水をすする覚悟も必要だったのである。だが2024年問題によるドライバーにおける残業の上限規制や、コンプライアンスの強化(改善基準告示の改定)が2024年4月1日より実施された。 

 

「荷主にいわれるがままにブラックな経営を続けていれば、今度はウチ(運送会社側)が罰せられる……」 

 

健全な考え方を持つ運送会社経営者は、取引解消を覚悟して、荷主に改善を要求し始めたのだ。 

 

 

八大 代表取締役 岩田享也氏(画像:坂田良平) 

 

「当社の場合は、世間よりも『2024年問題』に取り組み始めたのが早かったので、『文句をいうんだったら、他にも運送会社はいるからね』という反応をした荷主がいました」 

 

と、岩田氏は当時を振り返る。筆者が取材した限りだと、運賃値上げや運行条件の改善等を要求された荷主側の反応はさまざまだ。 

 

・「何をいまさら……」と戸惑う荷主 

・適当にお茶を濁してズルズルと結論を先延ばししようとする荷主 

 

もちろん、真摯(しんし)に運送会社側の声に耳を傾け、改善を始めた荷主もいる。だがなかには、コンサルタントに意見を求め、運行スケジュールの見直しを図ったものの、改善後の運行スケジュールもまた、コンプライアンス違反の長時間拘束を必要とするものであったという話も聞いた。しかし、 

 

「どうせ運送会社の代わりなんていくらでもいるから」 

 

と考え、運賃や運行条件の見直しを図らず、別の運送会社を探し始めたという荷主の話も聞く。 

 

「荷主も、今までであれば、半月もあれば代わりの運送会社は見つけられたのではないでしょうか。しかし今では、『1か月たっても、いまだに代わりの運送会社が見つからない』という話を聞きます」(岩田氏) 

 

加えていえば、既存で取引をしている運送会社に増車を求めても芳しい反応は少ないという。 

 

物流トラック(画像:写真AC) 

 

 そもそもドライバー不足が深刻になっていたことに加え、現在は残業に対する上限規制が課されたことによって、ひとりのドライバーが稼働できる時間が減り、結果、トラック輸送リソースが減少するという状況に陥っている。 

 

 これら課題の根本的な原因として、岩田氏が挙げるのが 

 

「免許制度の改正」 

 

である。2007(平成19)年までは、トラックを運転するための免許は、大別すると普通免許と大型免許のふたつしかなかった(けん引免許等は除く)。しかし中型トラック(いわゆる4t車)による交通死亡事故が多かったことから、2007年6月に中型免許が新設された。さらに2017年3月には準中型免許が新設された。 

 

 思い返せば、現在50代の筆者は、運転免許を取得した翌日には4t車を運転し、千葉から名古屋まで走っていた(もちろん、先輩ドライバー同乗の上だが)。免許取得以前から運送助手として働いており、トラックのサイズ感や取り回しに、ある程度なじみがあったのは事実なのだが。 

 

「今の子たちにとって、『4t車は怖いもの』なんですよ。そもそも現在の普通免許では、一般的な2t車すら乗れませんし」(岩田氏) 

 

結果、ドライバーはどんどん高齢化していった。現在働いているドライバーの約半数は50代以上であり、逆に20代以下は1割しかいない。30代ですら13.9%しかいないのだ。免許制度という壁が、 

 

「若者がトラックドライバーになる選択肢」 

 

を阻んだ。ドライバーの高齢化に、改悪された免許制度が影響していないわけがない。 

 

「50代以上のドライバーって、もう頑張れないんですよ。そのため、『条件が良い運送会社』を求めて、転職を繰り返すようになってきています」(岩田氏) 

 

 

物流トラック(画像:写真AC) 

 

 なぜ、運送会社はウチの荷物を運びたがらないのか――。岩田氏はこのように悩む荷主が増えていることを指摘した上で、 

 

「キツくて安い仕事は、まず現場とドライバーが嫌がる」 

 

と指摘する。こういった現場を任されるドライバーや倉庫作業員は、より良い条件の職場を求めて辞めてしまうというのだ。 

 

「運送会社が取引の解消を匂わせ始めると、荷主によっては、運賃を少し上げたり、あるいはドライバー等を引き抜いたりして、取りあえず目先のドライバー、あるいはトラックを確保しようとすることがあります。小手先の対策では、長期的にはなんの解決にもならないことに、こういった荷主たちは気がついていません」(岩田氏) 

 

 ある運送会社では、2023年から運賃の値上げ交渉を荷主に打診していた。ところが、その荷主の物流担当者が雲隠れしてしまった。交渉ができず、困った運送会社は、 

 

「交渉に応じてくれないのであれば半年後には取引を解消する」 

 

旨、荷主に対し書面で通達を行った。すると、雲隠れしていた荷主担当者が突然連絡をよこし、値上げ交渉に対し、満額回答を行ったのだという。このエピソードに対し、岩田氏は指摘する。 

 

「運賃を上げればOKというものではありません。運送会社側からすれば、もはやこの荷主に対する信頼はゼロでしょう」(岩田氏) 

 

 では岩田氏が考える、今、荷主が運送会社に対して取るべきスタンスとは何か、と。 

 

「運送会社に寄り添ったスタンスを取れない荷主は、もはや運送会社から選んでもらえないでしょう」 

 

運送会社としても、好き好んで荷主との取引を解消するわけではない。取引の解消は、当然、運送会社にも痛みをもたらす(画像:坂田良平) 

 

 実際のところ、運送会社から選ばれなかった荷主――すなわち、運送会社から取引を切られた荷主はどうなっているのだろうか。 

 

「取引を解消した荷主の動向を積極的に情報収集しているわけではありませんが、根本的な改善を行うこともなく、基本的には以前と変わっていないのではないでしょうか」(岩田氏) 

 

一度取引を停止した荷主から、再び声が掛かることもあったという。しかし、 

 

・運賃 

・運行条件 

・付帯作業 

 

などは、以前のままだったそうだ。 

 

「一方で気をつけるべきは、ブラック運送会社の存在です。社会保険にも未加入で、もちろんコンプライアンスなどまるで気にしないブラック運送会社は、通常では考えられないようなダンピング運賃で仕事を引き受けますから。また、運賃交渉がうまくいかず、従業員への給与アップができないために、長時間労働をせざるを得ず、結果としてブラック運送会社になってしまっているケースもあります」(岩田氏) 

 

 岩田氏は正直者がばかを見ることのないよう、こういったブラック運送会社は徹底的に取り締まってほしいと熱望する。では、「運送会社の荷主に対する逆襲」という本稿のテーマについてはどう考えるのか。岩田氏は、 

 

「逆襲はまだ始まっていない」 

 

という。そもそも、取引の解消は、運送会社にとっても 

 

「売り上げの減少」 

 

など、デメリットが多い。今、運送会社が荷主を選別し始めているのは、 

 

「生き残るための窮余(きゅうよ。苦し紛れ)の策」 

 

である。荷主との取引解消が逆襲というのであれば、それは“勝者なき逆襲”というべきであろう。 

 

「逆襲というのであれば、それは2024年問題を生き残ることができた運送会社ならばできることかもしれませんが……」(岩田氏) 

 

 だが、そのときに逆襲されるのは、「運送会社の代わりはいくらでもいる」と勘違いを続けているブラック荷主であって、運送会社を対等のビジネスパートナーとして認める“ホワイト荷主”ではない。 

 

 政府は今、2024年問題を契機として、物流ビジネスを大きく変革しようとしている。岸田内閣が推し進める「物流革新」政策や、先日改正された物流関連2法などは、その表れである。 

 

 当然、運送会社と荷主の関係も変わらざるを得ない。逆襲などというネガティブな感情が生まれないような、 

 

「健全な関係性」 

 

で結ばれる運送会社と荷主が増えることを期待したい。 

 

坂田良平(物流ジャーナリスト) 

 

 

 
 

IMAGE