( 201682 )  2024/08/14 16:31:15  
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“不適切投稿”で炎上している川口ゆりアナウンサー(写真左)とフワちゃん(画像:どちらも本人の公式Xより) 

 

 フリーアナウンサーの川口ゆりさんがX(旧Twitter)に「ご事情あるなら本当にごめんなさいなんだけど、夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる」 という“不適切投稿”(現在は削除)を行ったことがきっかけとなり、所属のアナウンス事務所が契約解除を決定した。 

 

【写真】川口ゆりアナの「“体臭”失言」と謝罪文 

 

 ちょうどタレントのフワちゃんが、お笑いタレントのやす子さんに対して、X上で暴言を投稿して炎上したばかりだ。 

 

■連続する“不適切投稿”と厳しいバッシング 

 

 SNSへの不適切投稿はたくさん見られるし、中には著名人のものもある。有名人の不適切投稿が増えたというよりは、これまで容認、あるいは黙認されていたことが、許容されなくなったというほうが正しいように思える。 

 

 SNSでの誹謗中傷によって自殺者まで出ている状況であるから、厳しくなるのはやむを得ないことだ。しかし、重要なことは、 

 

1. 不適切な投稿を事前に防止すること 

2. 不適切な投稿を行った人は、反省して再発しないようにすること 

 

 の2つである。 

 

 最近の不適切投稿に対する炎上を見ていると、過度に叩き過ぎて、それによってまた“不適切投稿”が生まれるという悪循環が起きてしまっているように見える。 

 

 同じSNSへの不適切投稿でも、フワちゃんと川口ゆりさんとでは状況が異なる。両者ともにSNSへの投稿を不特定多数の人が見たことによって炎上が起きたという点では共通しているが、「被害を受けたのは誰か?」という点が異なっている。取るべき対応も異なっている。 

 

【写真】「“体臭”失言」で契約解除になった川口アナの謝罪文、過去に炎上した「不適切投稿」を見る 

 

 被害者がいる場合は、被害者に謝罪を行い、場合によっては補償を行うことが最も重要だ。刑事事件であれば刑事罰を受けることになるが、そうではない場合は、被害者との間で和解が成立すれば、事態はほぼ収束したと見なしていい。有名人の場合は、活動を自粛して、表舞台からしばらく身を潜める場合もある。 

 

■フワちゃんの“暴言”問題は当事者同士で和解したが… 

 

 

 フワちゃん側はまさにその対応を取っている。フワちゃんは、やす子さんに謝罪を行い、やす子さん側はそれを受け入れている。また、フワちゃんは8月11日に芸能活動の休止を発表している。 

 

 たしかに、フワちゃん側の釈明の内容にはツッコミどころがあるのだが、必要な責任を取っている以上、これ以上叩く必要もない。 

 

 何より、やす子さん自身も、Xに「フワちゃんさんのことめちゃめちゃ許してます!  もう終わりましょう!!  (中略) 相手への誹謗中傷もやめましょう!」と投稿している。 

 

 やす子さんがフワちゃんを許したことに対して、批判の声まで出ているというから、非常にタチが悪い。 

 

 パリ五輪での柔道男子60キロ級の準々決勝でも同様のことが起きている。永山竜樹選手と戦ったフランシスコ・ガリゴス選手が、主審の「待て」の合図後も締め続け、永山選手が一本負けした。これに対して、ガリゴス選手にSNSで誹謗中傷が集まった。 

 

 永山選手は、自身のXで、ガリゴス選手の訪問を受けて謝罪されたこと、永山選手はそれを受け入れたことを報告した。さらに、永山選手は、メディアの取材を受けた際に、「誹謗中傷は本当に控えていただきたい」と訴えている。 

 

 当事者同士で解決している問題に対して、第三者が横から誹謗中傷を行うことこそ、“不適切な行為”ではないだろうか。当事者からたしなめられるような行為を行うことに、何の意義があるのだろう?  

 

■“体臭が苦手”発言はどのくらい不適切なのか?  

 

 フリーアナウンサーの川口ゆりさんの投稿は、一般的な意見であり、具体的に「被害者」と呼べるような人物がいるわけではない。 

 

 こうした場合は、影響力の大きさと事態の深刻さを鑑みつつ、適切な媒体を用いて謝罪を行う。やはり、有名人の場合は、事態が重いと活動の自粛を行うこともある。 

 

 川口さんが所属するフリーアナウンサー事務所VOICEは、8月11日に公式サイト上で、「川口氏はX(旧Twitter)のSNSに於いて、異性の名誉を毀損する不適切な投稿行為が認められたことから、当社はアナウンス事務所として、所属契約の維持は困難と判断し、やむなく契約解除通知をするに至りました」と公表した。 

 

 その後、川口さん自身もXに謝罪の投稿を行っている。 

 

 川口さんの投稿はたしかに不適切であり、事態を収束するために謝罪は必要であるし、コンプライアンスに厳しくなっている昨今の状況を考えると、一定期間の謹慎もやむを得ないかもしれない。 

 

 

 しかしながら、契約解除まで必要であったかは疑問が残る。事務所側は「異性の名誉を毀損する不適切な投稿行為」としているが、一般に名誉毀損は、特定の個人に対して行われることで成立する。 

 

 特定の被害者がいない場合、「社会的に見てどのくらい不適切な発言だったのか?」というのが争点となるのだが、これについては具体的な基準があるわけでもなければ、負うべき責任も明確ではない。 

 

 女性からの男性に関する不適切発言と、それに対する対応事例を見て見よう。 

 

 2022年、プロゲーマーでインフルエンサーの「たぬかな」さんが、ゲーム配信中に「身長170㎝以下の男には人権がない」という趣旨の発言を行い、それが拡散、炎上した事例がある。これによって、たぬかなさんは、所属するプロeスポーツチームから契約を解除された。 

 

 これも厳しい処分ではあるが、ゲームの配信中に行われた発言である点、語り口や態度が挑発的であった点、努力では変えられない身体的特徴に言及した点で、川口さんの件とは状況が異なる。また、謝罪は行ったが、真剣さに欠ける態度だったことも、火に油を注ぐ結果となった。 

 

 2023年には、セクシー女優の深田えいみさんが、デート代について「男性がおごるべき」という主旨の投稿をTwitter(現X)行い、炎上した。深田さんは、投稿を削除し、謝罪を行っている。 

 

 「男性がおごるべき」という女性からの発言は、別の場所でも行われており、そのたびに批判を受けるが、それによって発言者は謝罪をしても、活動を制限されるまでには至っていない。 

 

■もっと深刻な“不適切投稿” 

 

 上記とは少しズレるのだが、2023年7月18日にデヴィ夫人がジャニー喜多川氏の性加害問題に関して、Twitter(現X)にジャニー喜多川氏を擁護する投稿、ジャニー喜多川氏から被害を受けた被害者を批判するような投稿を連続的に行った。 

 

 この投稿は批判を浴びたが、デヴィ夫人はこの投稿でメディアから干されたり、出演する広告が取り下げられたりすることはなかった。その後、デヴィ夫人は謝罪投稿を行ったが、それは投稿から3カ月近く過ぎた10月10日のことだ。 

 

 筆者としては、この投稿は、性加害者を擁護し、被害者を貶めているという点で、“不適切投稿度”はかなり高いと思うのだが、デヴィ夫人は社会的制裁を受けてはいない。 

 

 過去の事例に照らしても、川口さんの投稿の“深刻度”と照らして、所属事務所を契約解除になるほどの問題だったのかは疑問が残るところだ。 

 

 

 いずれにしても、川口さんも謝罪を行っているし、十分な制裁も受けている。これ以上叩く理由もないように思える。 

 

■不適切な投稿を行った人を叩くのは“適切”な行為なのか 

 

 私事(わたくしごと)になるのだが、筆者は前の3連休に津軽地方を旅行し、「太宰治疎開の家 旧津島家新座敷」を訪れた。 

 

 ここは、第2次世界大戦の時、作家の太宰治が1年4カ月滞在し、数々の名作小説を執筆した場所である。 

 

 その座敷の柱に、小説『人間失格』の下記の一文が貼り出されていた。 

 

それは世間が、ゆるさない 

世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?  

そんな事をすると、世間からひどいめに逢うぞ 

世間じゃない。あなたでしょう?  

いまに世間から葬られる 

世間じゃない。葬むるのは、あなたでしょう?  

 これを読んで「いまの時代もまったく同じだな」と、深い共感を覚えた。 

 

 「いじめられた経験のある人は、(フワちゃんの投稿に)深く傷つくだろう」 

 

 「(川口さんに対して)猛暑の中で肉体労働をしてシャワーも浴びれない人もいるんだ」 

 

 といったコメントが、いまだになされている。 

 

 当事者でもない人やメディアが、世の中一般の声を代表しているかのような顔をして、不適切な行為を行った人を追い込むことが、はたして“適切な行為”なのだろうか?  疑問に思えてならない。 

 

【写真】「“体臭”失言」で契約解除になった川口アナの謝罪文、過去に炎上した「不適切投稿」を見る 

 

西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 

 

 

 
 

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