( 201690 )  2024/08/14 16:44:36  
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夏休みについての記事。

デンマークでは夏休みが3週間の連休が基本であり、働きながらも休暇を楽しむことが重要とされている。

デンマーク人は休みを大切にし、家族や友人と共に過ごすことが多い。

休暇中は自動応答メールを設定し、仕事から解放されてリラックスし、普段できないことを楽しむことが「休暇」だとされる。

デンマークでは休暇手当など休暇を楽しむための制度が整っており、子どもも休暇をゆっくりと過ごす環境が整えられている。

(要約)

( 201692 )  2024/08/14 16:44:36  
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著者提供 

 

今年も夏休みの季節がやって来た。あなたはワクワク楽しく夏休みを迎えているだろうか。それとも、まだ終わっていない仕事に頭を抱え「休んでる場合じゃないのに!」とストレスを感じているだろうか。 

 

【写真】「3週間の夏休み」が当たり前なデンマーク、夏休みの過ごし方 

 

北欧デンマークに暮らして15年になる筆者は、少し前まで「夏休みを楽しめないタイプ」だった。いや、それなりに楽しんでいたつもりではあったが、終わっていない仕事や、返信していないメールが常に脳裏をかすめていた。仕事のメール、所属しているグループのチャット……やり取りが気になり、せっかくの休暇にも「追われている感」が抜けないことが多々あった。 

 

だが、拙著『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHPビジネス新書)執筆のためにデンマーク人にインタビュー取材をして、彼らの言うことを実践してみてから、休暇を楽しむコツがつかめてきた気がする。仕事で成果を出すためには、休んだ方がいい。デンマーク人のマインドセットが、やっと身体を通して理解できるようになった。 

 

デンマーク人の夏休みは基本が「3週間の連休」である。 

 

それにもかかわらず、デンマークの国際競争力は2年連続1位(2022・2023年)、ビジネス効率性は5年連続1位(2020年~)に輝いている。デンマーク人は働きまくって成果を出しているのではなく、休みまくって成果を出しているのである。 

 

いったいどういうことなのか。 

 

デンマーク、夏のウォーターフロント/著者提供 

 

デンマークの首都コペンハーゲンは、ワークライフバランスを実現している都市第1位に選ばれた(2023年フォーブス調査)。春から夏の晴れた日のウォーターフロントや芝生には、平日の午後から水着姿で寝そべって日光浴をするデンマーク人で溢れている。 

 

そんなデンマーク人にとって、「ワーク」と「ライフ」は対立するものではない。デンマーク人にとって「ワーク」と「ライフ」は、どちらかが存在しなければもう一方が存在できないような、切っても切れない相互補完関係にある。 

 

一流のビジネスパーソンですら「休まないと仕事なんてできない」「休むことで仕事への高いモチベーションをキープできる」「子どもと一緒に過ごせる時間はとても貴重だ」と、休むことの大切さを口々に説く。 

 

もちろん個人差はあるが、デンマーク人は「仕事が忙しくて、休んでる暇なんてない!」と一生懸命仕事に邁進し続けるよりは、「休みを取るから、仕事で成果を出せるんだ!」と、休むことに驚くほど肯定的で、意欲的だ。「休むからこそ良い仕事ができる」と考え、「プライベートが上手くいっているからこそ仕事でも成果を出せる」と考えるのだ。 

 

そんなデンマーク人に囲まれながら、ひとりで長時間労働や休日返上で仕事をしていると、「大丈夫? 家族とは上手くいってるの?」と、妙に心配されてしまうことがある。 

 

デンマーク人の頭のなかで「ワーク」と「ライフ」はセットなのだ。「ライフ」を充実させるために「ワーク」があり、「ワーク」で成果を出すために「ライフ」を大切にする。幸せな人生を送るためには、「ワーク」も「ライフ」もどちらも欠かせないのだ。 

 

 

著者提供 

 

では、デンマーク人は、どんな休暇の過ごし方をするのだろうか。 

 

休日の様子を見ていると、家庭菜園・自家製パンづくり・DIY・ホームパーティー・森の散歩・スポーツ・読書……活動内容は人それぞれだが、何かしらの活動をしている。日光浴が大好きなので、晴れると屋外でゴロゴロして太陽光を浴びているが、基本的にはアクティブに活動して暮らしている。 

 

デンマーク人の夏休みは7月をメインに「3週間の連休」が基本だ。観光地の飲食店・ショップのほか、医療機関や市の窓口など社会に最低限必要な機関は、従業員の休暇取得の時期を調整して営業している。だが、会社員は基本的にこの時期に3週間の連休を取得し、会社と交渉してさらに長い夏休みを楽しむ人もいる。夏季に3週間の連休を取得する権利が法律で保障されているうえに、7月は夏休みの時期という暗黙の了解があるので、社内外の人に罪悪感を抱くことなく、思いっきり休めるのも良いところだ。 

 

筆者はデンマーク人にインタビュー取材してやっと気がついたのだが、そもそも罪悪感を抱きながら過ごす休暇や、メールを気にしながら過ごす休暇なんて、本質的には「休暇」ではないのだ。仕事から解放されて、心身ともにリラックスして、普段できないことを楽しんでエネルギーを充電するのが「休暇」なのだから。 

 

著者提供 

 

さて、ここで「デンマーク流、休暇に入るための儀式」を1つお伝えしたい。 

 

日本でもしている人はしていると思うが、休暇に入るための儀式とは、自動応答メールの設定である。デンマークのビジネスパーソンの多くは、夏休みに入る直前に自動応答メールを設定する。「ただいま夏休み中です。○月○日に戻ります」といった簡単な自動応答メールである。何かあったら対応できるようにしておきたい場合は、緊急連絡先として、代理人の連絡先あるいは自分の電話番号を記載しておく。自動応答メールを設定しておけば、基本的に休暇中のメール返信が不要になるので、気持ち良く休暇を迎えられる。 

 

 

では、儀式を済ませたうえで、デンマーク人は3週間の夏休みに何をするのか。 

 

デンマーク人にとって、夏休みは、基本的には「家族の時間」である。国内の自然豊かな田舎にある(一般庶民が所有し、貸し出しもしている)サマーハウスへの、テントやキャンピングカーでのキャンプ生活、非日常のバケーション気分を味わうための海外旅行など、楽しみ方は色々ある。海外の旅行先としては、夏らしさを満喫するためにスペインやギリシャなどの南欧などは人気の地だ。夏休みは長いので、サマーハウス滞在・キャンプ・海外旅行のすべてを組み合わせる人もいる。 

 

デンマークのサマーハウス/著者提供 

 

これだけ楽しむとなると、お財布が気になるかもしれない。だが、サマーハウス生活やキャンプ生活は、家族・親戚や親しい友人と協力して場所やモノを貸し合ったり、一緒に共同生活を送ったりするなど工夫すれば、それほど出費はかからない。旅行はコストがかかるので、家庭の所得によって行ける場所は異なってくる。だが、近隣諸国であれば自家用車でもアクセスでき、ホテルのパッケージ料金を利用すれば、リーズナブルに旅行できる選択肢はある。 

 

また、デンマークには休暇法に基づいた休暇手当がある。給与の一部が休暇手当として積み立てられる仕組みになっていて、休暇取得の際に申請すると休暇手当を受け取ることができるのだ。労働者があくせく資金を捻出しなくても、休暇を楽しめるように工夫された制度である。やはりデンマークは「休暇」を大切にする社会なのだ。 

 

子どもの夏休みは約6週間である。これといった宿題は何もなく、子どもたちは家族や親戚と一緒にゆったりとした時間を過ごすのが一般的だ。家族旅行やサマーハウス滞在のほか、おじいちゃん・おばあちゃんの家にお泊まりする子、サマーキャンプに参加する子、夏のスポーツクラブに通う子もいる。いずれにしても、子どもたちはのんびりと夏休みを過ごしている。デンマークの子どもたちを見ていると、小さな頃から「休暇とは、休むものなのだ」ということが、彼らの身体に深く刻まれているように見える。 

 

8月の夏休み明け、こんがり日焼けしたデンマーク人が挨拶を交わすオフィスには、どことなく夏の休暇の余韻と充足したエネルギーが漂っている。このエネルギーがあるからこそ、デンマーク人は再び仕事に向かっていけるのだ。 

 

針貝 有佳(デンマーク文化研究家) 

 

 

 
 

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