( 201697 )  2024/08/14 16:51:25  
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(写真:時事) 

 

 9月の自民総裁選への出馬を目指す河野太郎デジタル担当相(61)に対し、永田町で「挑戦権喪失」の危機がささやかれている。所属派閥領袖の麻生太郎副総裁が、岸田文雄首相(総裁)の再選を支持する立場から河野氏の出馬を認めない公算が大きく、その場合、「断念か派閥離脱による出馬か」(周辺)の厳しい選択を迫られるからだ。 

 

 河野氏は2021年の前回総裁選の決選投票で岸田首相に惜敗したことで、捲土重来を期す。同氏は2009年総裁選にも出馬しており、今回は「まさに『3度目の正直』を狙っての出馬」(同)ともなる。しかも、父・洋平氏(元自民総裁・元衆院議長)、祖父・一郎氏(元副総理・五輪担当相=故人)がいずれも、「あと一歩で総理総裁を逃す」という悲運の名門・河野家の3代目だけに、「悲願達成へ意欲満々」(同)なのは当然でもある。 

 

 初当選時から「総理総裁を目指す」と公言し、46歳で総裁選に出馬した河野氏。ただ、父・洋平氏が宏池会(宮沢派=当時)を離脱して結成した河野グループを受け継いだ麻生氏は総理・総裁の座を射止め、現在も「キングメーカー」として君臨しているため、河野氏も「麻生氏の後ろ盾がないと勝負できない」(側近)との見方が多い。 

 

 その一方で、河野氏の「実質的後見人」とされるのは菅義偉前首相。無派閥議員による菅グループは今も党内影響力を維持しており、ここにきて、党内の“岸田降ろし”の旗振り役として活発に動く菅氏にとって、「河野氏は小泉氏と並ぶ重要な手札」(菅氏側近)とされる。ただ、菅氏は麻生氏との「激しいキングメーカー争い」を展開しているため、河野氏は「どちらに支援を頼むかで悩んでいる」(周辺)のが実態とみられる。 

 

■親分・麻生氏に頭下げ、「脱原発」も軌道修正 

 

 そうした中、河野氏が8月9日夜、都内の日本料理屋で麻生氏と会食したことが注目された。関係者によると、この会食で河野氏は、改めて総裁選出馬の意欲を伝え、みずからが掲げる政策などを説明したとされる。両氏の会食は6月以来で、「麻生氏は明確な意思表示はせずに、河野氏の言い分を黙って聞いていた」(周辺)という。 

 

 そもそも前回総裁選では、麻生派が二手に分かれる形で、河野氏と岸田文雄首相の双方を支援した経緯がある。このため、河野氏としては、「今回こそは麻生派の全面的支援を取り付けるべく、麻生氏に頭を下げた」(側近)とみられている。 

 

 

 もともと河野氏は、小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長とともに、世論調査での首相候補番付でのトップ争いの常連で、前回総裁選での連携などから「小石河連合」とも呼ばれてきた。ただ、最新の各種世論調査では石破、小泉両氏に比べて河野氏への国民の期待度が低下し、特に、自民支持層では岸田首相よりも下位となる数字が出始めている。 

 

 そこで問題となるのが河野氏の主張する政策だ。もともと河野氏は「脱原発」が持論だったが、前回総裁選では「現実的なエネルギー政策として原発再稼働を当面容認する」と軌道修正した。河野氏を支える若手議員らの助言を踏まえての方向転換とされるが、「支持者の反発などで失速」(自民長老)し、決選投票敗北にもつながったとみられている。さらに、河野氏が閣僚として所管している「マイナンバー」を巡っては、トラブルが相次ぐマイナンバーカードと健康保険証の一体化での「強引な手法」も批判の的で、こちらも人気低下の要因となっている。 

 

■「フォロワー最多」が“異端児”批判にも 

 

 そうした河野氏の「最大の武器」(側近)は X(旧ツイッター)のフォロワーが国会議員最多の256万人に達することだ。長年続けている「ごまめの歯ぎしり」と題する自らのウェブサイトでの歯に衣(きぬ)着せぬ言動が、フォロワー拡大につながってきた。その一方で、永田町では「ネットの専門家という特質が、『異端児・河野』という批判、不信にもつながっている」(閣僚経験者)との指摘も少なくない。 

 

 そもそも麻生、河野両氏の「親分子分としての絆は深い」(麻生派幹部)とされる。名前が同じ「太郎」なので、麻生氏は常々、河野氏を「太郎ちゃん」と呼び、政治家としての人間関係の作り方や、政策づくりのポイントなどのアドバイスを欠かさない。これに対し河野氏も「言われたことはすぐ実行に移してきた」(同)のは事実だ。 

 

 まさに、以心伝心の関係だったのに、今回、あえて河野氏が麻生氏に頭を下げ、出馬の後押しを求めたのは、石破氏ら「ポスト岸田」候補が水面下で動きを活発化させていることで、「このまま埋もれていく怖さもあった」(河野氏側近)という。 

 

 

 ただ、麻生派内では「今回は河野さんを中核で支える司令塔が見えてこない。前回ほど『河野氏を立てて戦うべきだ』という雰囲気ではない」との声が多い。党内には「麻生派の全面支援がなければ20人の推薦人が集まるかどうか厳しい」との指摘もある。だからこそ、親分の麻生氏と、後見人の菅氏の関係との悪化に頭を悩ませるのだ。 

 

■菅氏と同期の還暦過ぎ、「オワコン化」の危機も 

 

 当選9回の河野氏は菅氏と同期。閣僚経験も豊富で防衛相や外相など重要ポストを歴任してきた河野氏は、61歳と還暦を過ぎてかつての「若手改革派」のイメージは薄れ、「このままではオワコン化しかねない」(自民長老)との不安も広がる。しかも3回目の出馬となれば「ラストチャンス」(麻生派中堅)との見方も出始めている。総裁選では小泉氏や小林鷹之前経済安全保障担当相ら「40代ニュースター」の名前も取り沙汰されているからだ。 

 

 そうした中、巨額裏金事件を受けた「派閥解消」が今回総裁選にどのような影響を与えるかは「やってみなければ分からない」のが実情だ。ただ、「ここにきて、各候補の優劣は旧派閥の動きが土台となり、脱派閥の空気はくすみつつある」(自民長老)との指摘もある。河野氏自身は「大きな動きによって変わるのか、変わらないのか。そんなことは誰にも分からない」と笑い飛ばすが、「そのこと自体が『出たとこ勝負の総裁選戦略』の表れ」(同)ともみえるだけに、「今回ばかりは、党内の政争から距離を置いてきた河野氏の“政局勘”が厳しく問われる」(政治ジャーナリスト)ことは間違いなさそうだ。 

 

泉 宏 :政治ジャーナリスト 

 

 

 
 

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