( 201797 )  2024/08/15 00:59:04  
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退陣表明する岸田文雄首相(写真:© 2024 Bloomberg Finance LP) 

 

 岸田文雄首相が14日昼、次期総裁選に出馬せず退陣する考えを明らかにした。岸田首相の党総裁任期は9月末までで、新総裁選出後に退任することになる。このお盆休みの最中の突然の退陣表明で、「ポスト岸田」レースは一気に白熱化するが、岸田首相の掲げた「新生自民への脱皮」は容易ではなく、「何が起こるかわからない、出たとこ勝負の総裁選」(自民長老)となりそうだ。 

 

 これまで、「岸田首相の出方次第」と息をひそめていた総裁候補たちも、「意表を突く岸田流決断」に戸惑いを隠せず、「まずは一変した総裁選の構図を見極めたうえで、出馬の可否を決める」ことを余儀なくされそうだ。もちろん、茂木敏充幹事長、石破茂元幹事長、高市早苗経済安保担当相、河野太郎デジタル担当相は出馬を前提に態勢づくりを急ぐ。ただ、「この中の誰が選ばれても、岸田首相の言う『新生自民』のイメージとは程遠い」のが実態だ。 

 

 このため、大胆な世代交代を求める声が強まれば、40代の小泉進次郎元環境相や、永田町で「コバホーク」と呼ばれる小林鷹之前経済安保担当相の急浮上も想定される。ただ、小泉、小林両氏の担ぎ出しをめぐって、麻生太郎副総裁、菅義偉前首相に加え、森喜朗元首相や二階俊博元幹事長ら党長老が暗躍する事態となれば、「これまで通りの談合総裁選となって、国民の自民離れが止まらない状況」(閣僚経験者)に陥りかねない。 

 

 そうした中、「突然の退陣表明での岸田首相の狙いは、麻生、菅、二階、森各氏の長老を道連れにして自民党の権力構造を一変させること」(側近)との見方も浮上する。いずれにしても「想定外の“岸田ショック”に長老や実力者たちがどう対応するかで、自民党の未来が決まる」(同)ことは間違いない。 

 

■「新生自民」の最初の一歩は「私が身を引くこと」 

 

 14日午前11時半から始まった岸田首相の記者会見は、これまでで最短のわずか23分で終わった。歴代首相の退陣表明会見でも例がない短さ。官邸記者団も虚を突かれた形で、質疑応答も「核心に迫るやり取り」もなく、あっけない幕切れとなった。 

 

 この会見で岸田首相は「昨日モンゴルの首相との電話会談を行ったことで、この夏の外交日程に一区切りを付けることができた」としたうえで「お盆が明ければ秋の総裁選への動きが本格的になる。(その際は)新生自民党を国民の前に示すことが必要で、透明で開かれた選挙、何よりも自由闊達(かったつ)な論戦が重要」と指摘し「自民党が変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」と決断の理由を語った。さらに「総裁選を通じて選ばれた新たなリーダーを一兵卒として支える」とも付け加えた。 

 

 

 岸田政権に対しては、昨年末以降、自民の派閥裏金事件をめぐる対応などに世論の批判が高まり、内閣支持率は低迷状態が続いてきた。そうした中、衆院議員の任期満了が来年10月に迫る一方、来夏には参院選が実施されるため、自民党内からは裏金事件での首相の引責を求める声が噴出、岸田首相の総裁選への対応が注目されていた。 

 

 今回の岸田首相の決断について、自民党内からは「退陣は当然」「出ても勝ち目がないと思ったからだ」などと厳しい声もあるが、党幹部の間では「まさかこの段階で退陣表明するとは予想もしなかった」との声が多く、最高幹部の1人は「今退陣表明すれば総裁選も混乱するので必死で慰留したが、聞き入れてくれなかった」と肩を落とした。 

 

■「数日前に退陣決断に傾いた」と最側近 

 

 ただ、最側近の1人は「(岸田首相から)今日(14日)しかないとの連絡があった」と明かした上で「前は強気だったが、数日前に相談した時、妙に冷静になっていたので、半分以上辞めるほうに傾いたと思っていた」と岸田首相が考え抜いた結果であると強調した。 

 

 これにより、総裁選は「出馬を目指してきた人物が我も我もと手を挙げて、大乱戦になる」(自民長老)のは確実で、とりわけ茂木、石破、高市、河野の4氏は「出ない選択肢はない」(同)ことになる。ただ、「いずれも新鮮味に欠けるきらいがある」ため、新生自民のシンボルともなり得る小泉、小林両氏を担ぐ動きも加速しそうだ。 

 

 その一方で、岸田首相不出馬が総裁選日程の設定にも影響しそうだ。というのも、9月22~23日には国連総会の最大のイベントとなる「未来サミット」が設定されているため、「日本の首相が堂々と参加するためには、それまでに新首相を決める必要がある」(外務省幹部)ことになる。 

 

■総裁選日程の大幅繰り上げ案も浮上 

 

 その場合、「9月20日から29日の間に投開票」とされてきた総裁選日程を大幅に繰り上げ、「9月初旬告示―同中旬投開票」とする案が浮上しそうだ。もちろん、「新総裁決定直後に臨時国会を召集して、首相指名―組閣による新内閣発足」が前提となり、岸田首相が党幹部と協議のうえで日程を決め、野党の了解を得ることが必要となる。 

 

 こうしてみると、「総裁選日程から新政権発足まで、すべてが急ごしらえとなり、出たとこ勝負を余儀なくされる」(自民幹部)ことになる。しかも「いったい誰が調整役となるのか、岸田首相がどこまで関与するのかも、まったく見えてこない」(同)ため、今後1~2週間前後の党内混乱は避けられそうもないのが実情だ。 

 

泉 宏 :政治ジャーナリスト 

 

 

 
 

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