( 201802 )  2024/08/15 01:06:16  
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キットカット 13枚(出所:公式Webサイト) 

 

 訪日外国人観光客(インバウンド)の定番土産になっているネスレのキットカット。その人気はすさまじく、インバウンドが多く訪れるドン・キホーテでは、月間1億円以上も購入されているという。 

 

【写真】インバウンド需要を意識して、壁一面にびっしりと陳列されたキットカット(ドン・キホーテ渋谷本店で撮影) 

 

 人気の主な理由は、日本でしか販売していないフレーバーが多数あるからだ。しかしなぜ、日本にだけ多くの種類があるのだろうか? その理由をネスレ日本(東京都品川区)でキットカットブランドのマーケティングを担当する藤井真梨奈さんに聞いた。 

 

 現在、国内で販売中のキットカットはフレーバーだけで約40種類。旬の素材を使った季節限定商品や、お土産を想定したご当地商品など、多くのラインアップをそろえ、サイズ展開やパッケージのバリエーションを含むと、さらに多くのSKU(商品管理単位)が存在する。 

 

 スイスに本社を置くネスレのキットカットは、英国で誕生したチョコレート菓子であり、現在は80以上の国・地域で販売している。一方でこれほど多くの種類を扱っているのは「ネスレ日本」のみ。海外ではミルクやキャラメルなどはあるものの、10種類ほどの展開にとどまっているという。 

 

 日本で幅広いフレーバーを展開している背景には、ネスレが掲げる「Think globally,Act localy」(グローバルで考えて、ローカルで行動しよう)というポリシーが前提にあると藤井さんは話す。 

 

 「その国の消費者の嗜好(しこう)や食文化を尊重しながら商品開発やマーケティングを行っていくという行動哲学のようなもので、こうした考え方に基づき、日本でもブランド展開を行っています。 

 

 日本には全国各地に豊富な特産品があり、旬を大切にする消費者は味に対して繊細な感覚を持っています。また、日本人は新しいものを好む国民性も持ち合わせています。こうした嗜好やニーズを追求しながら商品開発を進めてきた結果、現在の幅広い商品ラインアップに行き着いています」 

 

 またフレーバーだけでなく、パッケージのデザインに関しても、ここまで多様な展開している国は日本だけ。そうした点もインバウンドの目を引く大きなポイントになっているという。 

 

 

 ある種の“ガラパゴス的進化”を遂げた日本のキットカットだが、多様なフレーバー展開のきっかけは、2000年に発売した「ストロベリー(イチゴ味)」にさかのぼる。 

 

 当時は小売り業界でコンビニ業態が急速に成長した時代でもある。短いサイクルで棚の商品を入れ替え、新鮮な売り場を保つコンビニの戦略に合わせ、キットカットも目新しいフレーバーを出そうということに。 

 

 「1980年代までは、キットカットは量販店で家族向けに大袋を販売していました。しかし、企業として当時から日本の少子高齢化は懸念していました。つまり、日本における“胃袋のサイズと数が激減する”ことは分かっていたんですね。その上でチョコレート菓子メーカーとして生き残ることを模索しているタイミングでした」 

 

 こうしたなか発売した「ストロベリー」が爆発的にヒット。「棚に置いたそばから売れていく」(藤井さん)状況だったという。 

 

 この成功をきっかけに、フレーバー展開の多様化に舵を切ることになる。 

 

 その後、2002年にはご当地限定のキットカット「夕張メロン味」を発売し、2003年には今でも続いている「受験生応援キャンペーン」を開始。2008年ごろからはご当地キットカットを本格的に拡大させていった。 

 

 フレーバーの多様化に加えてもう一つ大きな変化があった。それは「高付加価値化」だ。受験生応援キャンペーンに成功によって、キットカットは「コミュニケーションツール」としての機能を獲得した。ご当地商品についても「地域経済を応援する」という共通するコンセプトがあるという。単なるお菓子という枠を越えて、意味付け・付加価値をつけた商品展開に舵を切っていったという。 

 

 SNSなどで今や「ジャパニーズ・キットカット」とも呼ばれる日本のキットカット。ネスレ日本のこうした取り組みは、スイス本社でどう受け止められているのか。 

 

 「ネスレ日本は『Think globally,Act localy』をしっかりと体現できているとして、『Premiumization(プレミアマイゼーション、高付加価値化)』の成功事例とされています。 

 

 例えば、通常のキットカットは13枚入りで約300円、1枚あたり約23円です。比べてご当地系の商品は10枚入りで約900円。中には6枚入りで500円ほどの商品もあります。プレミアマイゼーションによって、グラムあたりの単価を上げることに成功しています」 

 

 

 高付加価値化を成功させたことに加え、インバウンドからも人気を集めるキットカット。商品開発でも、インバウンドを意識するようになったかと思いきや、そうではないという。 

 

 「インバウンド向けの商品開発に力点を置いていくべきか、弊社でも大きな議論になったことがあります。 

 

 ただ、日本人も海外の旅行先で『日本人ウケ』を狙った商品を見て“興ざめ”してしまうのと同様に、インバウンドもまた『日本人が好きな商品』『日本で人気のある商品』を求める意向が強いです。 

 

 従って、国内で販売する全てのキットカットは日本人向けに企画し、日本人の嗜好に合わせて開発をしています」 

 

 一方、売り場の見せ方ではインバウンド客を意識し、小売りと連携して日本らしい仕掛けをふんだんに盛り込んでいる。 

 

 「キットカットという海外にも知名度のあるブランドを生かしつつ、日本独自の商品であることを分かりやすく訴求することを念頭に、売り場の提案をしています。 

 

 キットカットの紙パッケージで折った折り鶴を置いたり、富士山を模した大きなPOPを設置したり。特別な什器(じゅうき)をデザインし、全国150店舗以上に設置しています」 

 

 ネスレ日本では2025年に開催を控える関西・大阪万博に向けた新商品を検討中。体験価値に重きを置くインバウンドが増加傾向にあることも踏まえ、今後も独自の取り組みを加速させてくようだ。 

 

 「引き続き小売りと連携しながら、国内外の観光客の方々に楽しくお買い求めいただける売り場づくりを進めていく方針です。同時に、宿泊など買い物のシーン以外でのブランドの接点を増やし、楽しい体験をしていただけるような施策を考えています」 

 

 体験価値を訴求する実際のキャンペーンは現時点では非公開とのこと。長寿ブランドとなったキットカットは、時代の変化に合わせてさらに売り上げを伸ばせるか。 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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