( 202315 )  2024/08/16 16:30:05  
00

日本での猛暑がEVに与える影響は重要な問題で、外気温が上昇するとEVの航続距離が減少することが判明している。

エアコン使用によるエネルギー損失が主な影響因子で、航続距離の低下が顕著になる。

対策として、EVを充電器に接続して予冷することやバッテリーの満充電を保つことが挙げられる。

EVはガソリン車よりも熱を発生させず、効率的に冷却できるため、熱管理システムが重要になる。

調査結果から、熱管理システムやバッテリーの開発がEVメーカーにとって重要で、企業努力が必要だと示唆されている。

(要約)

( 202317 )  2024/08/16 16:30:05  
00

EV(画像:写真AC) 

 

 近年の日本では、35度を超える猛暑日が1か月以上続くことが珍しくなくなってきた。こうした酷暑が電気自動車(EV)にどのような影響を与えるかは、重要な問題だ。 

 

【画像】「えっ…!」これが大手自動車メーカーの「平均年収」です(計13枚) 

 

 米調査会社リカレントが2024年6月に発表した調査結果によると、外気温が38度になると、EVの航続距離が 

 

「約3割減少する」 

 

ということがわかった。これは、 

 

「エアコン」 

 

の使用によるエネルギーの損失が主な原因だ。 

 

 日本のような環境では、EVの航続距離が短くなるのは避けられない。本稿では、酷暑がEVの航続距離に与える影響と、EVメーカーが直面している開発課題について詳しく解説する。 

 

リカレントの調査リポートの一部で外気温と車室内の温度差を示したイラスト(画像:リカレント) 

 

 リカレントによる調査では、7500台のEVを対象に外気温と航続距離低下の関係を調べた。その結果、 

 

・24度:0% 

・27度:-2.8% 

・29度:-3.5% 

・32度:-5% 

・35度:-15% 

・38度:-31% 

 

となり、35度以上になると航続距離が著しく低下することがわかった。主な原因は、外気温と車室内の 

 

「温度差」 

 

が大きくなるほど、エアコン使用によるエネルギー損失が増えるためだ。その結果、メーカーの公表値よりも実際の航続距離が短くなる傾向が見られる。 

 

 夏季は冬季よりも車室内と外気温との差が少ないが、例えば車室内を20度に保つ必要がある場合、冬季の外気温が-5度だと温度差は25度程度になる。一方、外気温が35度の場合、温度差は15度にとどまるが、夏季のエアコン使用によるエネルギー損失が大きく、航続距離に対する影響が増す。 

 

 酷暑のなかでEVの航続距離を伸ばす方法はいくつかある。まず、出発前にEVを充電器に接続したままにして、内部を予冷することが有効だ。これにより車室内が涼しい状態に保たれ、バッテリーからのエネルギー消費が減少し、無駄なエネルギー損失を避けることができる。 

 

 次に、バッテリーを満充電の状態にしておくことも重要だ。これにより、EVの熱管理(サーマルマネジメント)システムが余分なエネルギーを使わずにバッテリーを適切な温度に保つことができる。また、EVのバッテリーを充放電せずに炎天下に何週間も放置するのは、屋内に駐車するのと比べて航続距離に差が出ることがあるようだ。 

 

 

EV(画像:写真AC) 

 

 では、EVとガソリン車にはどのような違いがあるのだろうか。 

 

 基本的に、走行中やアイドリング時のエネルギー使用量には大きな差はない。しかし、ガソリン車はエンジンから大量の廃熱を発生させるため、車内を涼しく保つためにエアコンの稼働率が高くなる。 

 

 対照的に、EVはガソリン車ほど熱を発生させないため、エアコンの稼働率は低く抑えられる。また、EVは充電器に接続して予冷することができるため、車室内の冷却に必要なエネルギーも削減できる。 

 

 さらに、ガソリン車はエアコンを安定させるために暖気運転を行い、エアコンプレッサーの動作が安定するまで待つ必要があるのに対し、EVは冷気をすぐに発生させることができる。このため、EVは熱管理システムの効率が高いといえる。 

 

リカレントの調査リポートの一部でテスラ・モデル3の航続距離と公表値の差を示したグラフ(画像:リカレント) 

 

 今回の調査では、テスラを含む9車種について、外気温が実際の航続距離に与える影響を、実データを基に検証している。 

 

 調査対象の9車種は、 

 

・シボレー:ボルト 

・現代自動車:コナ 

・マスタング:マッハE 

・日産:リーフ 

・フォード:F150ライトニング 

・テスラ:モデル3、モデルY、モデルS、モデルX 

 

だった。 

 

 これらのなかで、公表値を上回るパフォーマンスを示したのは 

 

「コナ」 

 

だけで、20~30%上回る結果となった(調査車両は8台)。他の車種も、 

 

・ボルト(13台) 

・マッハE(20台) 

 

は26度前後の外気温で公表値を上回る性能を見せた。しかし、それ以外の車種は公表値を下回る結果が多かった。 

 

 最も興味深かったのはテスラに関する調査結果である。テスラの各モデルについては、高効率のヒートポンプが搭載されているため、航続距離の低下は全温度域でほぼ一定に抑えられていたものの、いずれのモデルも公表値の 

 

「約60%」 

 

にとどまっていた。この結果は、テスラの公表値が本当に適正なのか疑問を投げかけるものだ。特に、モデル3は2540台のサンプルがあり、リカレントによる調査はデータの信頼性が高いと考えられる。 

 

EV(画像:写真AC) 

 

 酷暑が常態化している日本のような国では、EVの普及には夏冬問わず航続距離を安定させる熱管理システムや丈夫なバッテリーの開発が不可欠だ。 

 

 調査結果から、酷暑下でのEVの開発課題が浮き彫りとなった。例えば、お盆の帰省シーズンを考えると、酷暑によって航続距離が3割ほど低下するのは、EV充電設備がまだ十分に整備されていない日本の状況では深刻な問題となる。 

 

 テスラがすでに実用化しているヒートポンプ技術に限らず、全ての温度域で一定の航続距離を維持するための企業努力が、EVメーカー各社には求められている。 

 

成家千春(自動車経済ライター) 

 

 

 
 

IMAGE