( 202362 )  2024/08/16 17:06:10  
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日経平均株価は8月5日、大幅下落を記録した(写真:アフロ) 

 

東京株式市場は、8月5日に歴史的な大暴落をを記録しましたが、翌日には大幅反発となりました。日本株はいまどのような状況にあるのでしょうか。澤上篤人氏の新著『大波乱相場、お金はこうして守れ!』より、現状の株式相場の実態解明、トレンドを問わず誰もが活用できる投資手法についてご紹介します。 

 

【チャートを見る】長期上昇トレンド入りしている日経平均株価 

 

■今は過去に例のない40年越しの株高 

 

 世界中で、ずっと株高が続いてきた。これって、1982年頃から今日まで続く、なんと40年越しの世界的な株高現象なのだ。 

 

 日本だけは1990年にバブルが崩壊して、長期の株価低迷が続いた。それでも最近になって34年ぶりに最高値を更新した。したがって、日本もやはり長期的には株高トレンドにあるといえよう。 

 

 ところで、1966年頃から1982年の前までは、アメリカでも「株式の死」といわれたほどの株価低迷が約17年も続いた。もう株価は上がらない、株式投資はやめたほうがいいと、経済専門誌が大特集を組んだほどだ。 

 

 そんな米国株だったが、1982年の8月から株価全般は上昇に転じて、ずっと今日まで続いている。株式の死といわれた頃から、なんと38倍の株高だ。 

 

 どうしてまた、ものすごい株高が40年超もの間、延々と続いてきたのか?  大まかにいって、3つの要因がある。 

 

 第1は、先進国を中心にした世界的なカネのバラまきだ。国や中央銀行がマネーを経済の現場へ大量にバラまいている状態を、「過剰流動性」という。 

 

 過剰流動性の下では、あり余ったマネーが経済活動の現場を越えて、株式市場など金融マーケットにも、どんどん流れ込んでいく。大量に流入してくるマネーが、株価などの上昇を強力に下支えする。 

 

 第2が、年金マネーによる、コンスタントな株買いである。年金として積み立てられるマネーは、今日まで増え続けてきた。その資金が運用を求めて、世界の株式市場や債券市場にどんどん流れ込んでいった。 

 

 膨れ上がる一方だった年金マネーが、運用を求めて株式市場などに次から次へと流れ込んでくる。それが世界の株価全体をずっと押し上げてきたわけだ。 

 

 第3が、大規模な金融緩和。2008年9月に発生したリーマンショックで世界は金融危機に直面した。金融不安をなんとしても阻止しようと、先進国を中心に主要各国はゼロ金利やマイナス金利政策の導入、ならびに史上空前の資金供給を断行した。 

 

 

 これは、金利を引き下げて資金を大量に供給しさえすれば、経済は成長する。そう主張する、マネタリズムの考えに沿ったもの。 

 

 これらの3つが重なって、40年越しの株高現象となっているわけだ。 

 

■資産デフレにのたうちまわる 

 

 カネ余りバブル高を続けてきた株式市場が暴落に一転すると、個人投資家も機関投資家も大きな投資損失を抱え込む。それは避けられない。 

 

 個人投資家の場合は、「しまった、大損した」と嘆いたり、最悪なら破産して夜逃げに走ったりと千差万別だが、いずれにしても、自分の問題として終わるだけ。 

 

 一方、機関投資家や企業など法人投資家は大変である。いずれも巨額の投資損失をこうむると同時に、投資家顧客への運用責任や資金提供先への返済義務を果たさなければならない。これは、きつい。 

 

 その寸前までは、ごきげんで膨れ上がっていた投資勘定だ。それが、暴落相場で一挙に大きく目減りする。株価などがドスーンと下がった分だけ、資産勘定は蒸発したかのように大きく目減りしてしまうのだ。 

 

 一方、投資家顧客からの預かり運用契約や金融機関などからの借り入れ勘定は、まるまる残っている。資産勘定の大きな目減りに対し、そのまま残っている預かり運用分や借り入れ勘定との差額を「資産デフレ」という。 

 

 それまで、もっともっと儲けようと買い上げてきた上昇相場だ。それが暴落すると、必ず巨額の資産デフレが発生する。その資産デフレは機関投資家や法人投資家に、ずっしりと重くのしかかってくることになる(図表1参照)。 

 

 機関投資家の場合で見ると、運用していた投資勘定が大きく目減りしてしまった。それをなんとかしようにも、マーケット全般がもとに戻ってくれないことには、どうにもならない。かくして、運用成績の大幅悪化を投資家(顧客)に報告することになる。 

 

 年金など運用を委託していた顧客サイドでは、預けていた資産が大きく目減りしてしまった。「さあ大変、年金の給付などに支障をきたす。どうしたものか」と頭を抱えるが、暴落した相場はそう簡単に戻りそうにない。 

 

 他方、企業など法人投資家も財務にポッカリと空いた損失で頭を抱える。資産は大きく目減りした。それに対し、まるまる残った負債勘定を返済していかねばならないのだ。 

 

 このように、暴落相場で必ず発生する資産デフレは、機関投資家や法人投資家を大いに苦しめる。その先では、年金資産などの大きな目減りが社会問題となる。また、法人投資家の間では経営破たんも相次ぐことになる。 

 

 

■アセット・アロケーションの切り替えを 

 

 経済全体で見ると、マネーの大きな流れというものがある。それは、大河のとうとうたる流れと同じで、誰も逆らえない。誰にも止められない。 

 

 資産づくりの投資も、経済全体におけるマネーの大きな流れに、ゆったりと乗っていくことだ。決して、逆らおうとはしない。それが、資産づくり投資の秘訣である。 

 

 経済を見ていると、景気が良くなったり悪くなったりを繰り返しているのがわかるだろう。景気が良くなったり、悪くなったりするにともなって、マネーの流れも方向も変わる。それに合わせて、運用先を「株式→現金→債券→株式」という順に切り替えていくのだ。それを、アセット・アロケーションの切り替えという。 

 

 どういうことか?  景気が良くなってくると、企業はもちろん個人もカネまわりが良くなり、マネーの動きが活発化する。それにつれて、企業の投資や個人の消費もどんどん活発化する。 

 

 すると、経済全体ではマネーは不足気味となっていき、金利が上昇しだす。それでも景気上昇の勢いは強いから、金利は徐々に上昇ピッチを上げていく。その先、どこかで景気は過熱気味となる。 

 

 景気が過熱し、あまりに金利水準が高くなってしまうと、金利コストの上昇が企業の収益を圧迫しだす。また、もろもろのコスト上昇が物価にスライドし、個人消費も鈍化しだす。 

 

 そのうち、どこかで突然、景気は失速気味となっていく。企業もそれまでの拡大投資から一転し、生産量を減らしたり設備縮小に走ったりする。つれて、その寸前まで高まり続けていたマネー需要も急激に落ち込み、金利も低下しだす。 

 

 すると、それまでの好景気は急減速しはじめ、個人消費も一気に落ち込んでいく。不況への突入だ。 

 

 それを見るや、国は景気対策の予算を投下する。減退した需要を喚起しようと、公共事業などを連発することになる。また、中央銀行は低金利政策に打って出る。 

 

 

■株式投資に入るべきタイミングとは?  

 

 低金利政策は、いってみれば、家計から法人部門への半強制的な所得移転政策である。個人や家計に、「景気が悪いから、我慢してくれ。預貯金の利子収入は減るが、その分で企業に頑張ってもらおう」ということだ。 

 

 この段階でのマネーの流れはというと、個人や家計が本来手にできていたはずの利子所得が、強引に法人部門へ向かわされている。つまり、家計から見ると利子所得を減らして、その分を企業に「しっかり儲けてください」と差し出しているのだ。 

 

 別の見方をすると、家計は企業にせっせと大きな資金を貢いでいるわけだ。「ここは我慢するから、うんと儲けて景気を良くしてね」といいながら。 

 

 そう、個人や家計は利子収入を減らして、せっせと企業の将来利益に貢献しているのだ。そういうことならば、低金利時にはどんどん株を買っておけば良いはず。それが、経済的にも合理的な行動となる。 

 

 株式投資は、企業の将来利益に期待して投資する行為である。ならば、低金利政策で家計から法人への所得移転が進んでいる時は、株式投資するにあたって最高の局面といえるはず。 

 

 不景気で企業の業績悪化が続き、株価全般はやたら安値にまで売り叩かれている。でも、マネーの流れは企業の将来利益増加へと向かっているのだ。ここで株を買わない理由はない。 

 

 われわれ本格派の長期投資家は、不況時に株式への投資ポジションを100%にまで高める。景気が悪く、株価全般も安いから、選り取りみどりで将来好望株を買い仕込みできる。 

 

 逆に、不況時すなわち低金利時に、債券投資はあり得ない。なぜなら、不況を脱しようと、国を挙げての景気回復に突き進んでいるのだ。景気が良くなれば金利も上昇するし、債券価格は下がる。 

 

 ということは、低金利時に債券を買ったところで、得られる利金収入などは、きわめて限定的である。それどころか、景気が回復するにつれて金利は上昇し、債券価格は下落して損するだけ。 

 

 そう、低金利時に債券投資なんて、下の下の投資をやらかすことになる。ましてやゼロ金利時やマイナス金利政策が続いている間は、利金収入もゼロだし、金利が上昇しだすと債券価格の下落で大損するだけだ。 

 

澤上 篤人 :さわかみ投信創業者 

 

 

 
 

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