( 202515 )  2024/08/17 02:01:31  
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2024年の日本は、デフレ脱却で苦労する中で、インフレが急速に進行している。

しかし、インフレが裏目に出ている状況で、日本経済は停滞している。

過去25年間で13人の首相がインフレを目指したが、それに成功した例はあまりない。

岸田文雄首相もインフレを促進しようとしたが、ロシアによるウクライナ侵攻、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱などが日本経済に悪い影響を与えている。

企業の最高経営責任者のインセンティブが不十分であり、給与の低下とインフレによる生活コスト上昇が賃金増加を上回っている。

日本の解決には生産性向上と給与の増加を結びつける必要があり、それが困難な課題となっている。

(要約)

( 202517 )  2024/08/17 02:01:31  
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Getty Images 

 

非常に難しいことをやってのけたが、これからどうすればいいのかわからないという経済的な例があるとすれば、それは2024年の日本である。 

 

この25年間、歴代の指導者たちはデフレを打破し、持続的なインフレを生み出そうとしたが、その試みはほとんど失敗した。これは岸田文雄首相も同様である。岸田首相は8月14日、自民党の総裁選に立候補しないことを発表した。 

 

確かに、インフレは2021年10月に就任した岸田首相の任期中に起こった。しかし、日本の目標インフレ率である2%を超える物価上昇を引き起こしたのは、岸田首相ではなく、プーチン大統領だった。 

 

ロシアによるウクライナ侵攻はエネルギーと食料品の価格を押し上げ、さらにコロナ禍におけるサプライチェーンの混乱がコストを押し上げた。そのため日本は、過去10年間で価値の3分の1を失った通貨を使い、高騰した価格で商品を輸入していたことになる。 

 

これは経済学者が「悪いインフレ」と呼ぶものだ。1990年代後半から日本は、賃金上昇を伴った需要増加によるデマンドプル型のインフレを起こそうとしてきた。だが実際に起こったのは、家計の購買力を削ぎ、景況感を損なうコストプッシュ型のインフレだった。 

 

このことが、政府の指導者たちが待ち望んだインフレを1億2500万人の日本国民の大部分が嫌っている理由を説明している。 

 

総裁選への不出馬という岸田首相の決断は、インフレが裏目に出た最も大きな例の1つだろう。日本の情勢に詳しい専門家たちは、岸田首相は資金絡みの政治スキャンダルで国民の怒りを買ったと主張している。しかし実際は、長引く景気の低迷が原因だったのではないだろうか。 

 

世界最大の経済大国であるにも関わらず好景気を実感していないという多くの米国人が言うように、インフレはあらゆるものを曇らせてしまう。それだけでなく、日本ではインフレは賃金上昇を上回るスピードで進行しているのだ。 

 

岸田首相は、大胆な改革を公約に掲げながら過去12年間を浪費したツケを払うことになった。悲しいことに、労働市場の近代化、官僚主義的な体制からの脱却、技術革新の促進、女性の地位向上といった公約は、積極的な金融緩和の後塵を拝した。 

 

 

実際には、この25年間である。1990年代後半以降、13人の首相が物価の安定を目指した。どの首相も、競争条件の平準化や技術革新の促進、生産性の向上よりも、日銀にさらなる緩和を促すことに時間を費やした。 

 

1999年、日銀は主要中央銀行として初めて金利をゼロに引き下げた。そして、その2年後には世界で広がる量的緩和の先駆者となる。このような自由な資金供給は、経済の立て直しは急務であるという議員たちの認識を失わせた。企業の最高経営責任者には、リストラやリスクを取るインセンティブがほとんどなかった。 

 

そのうぬぼれ的な強気が、今の記録的な株価上昇とぶつかり合っている。 

 

自民党は過去10年間、コーポレート・ガバナンスの強化に成功した。企業に株主資本利益率(ROE)を向上させるよう働きかけ、日経平均株価は1989年の史上最高値を上回った。 

 

しかし、平均的な日本人の給与はこの間、毎年低迷した。この経済的な問題によって、岸田内閣の支持率は20%台半ば以下に低迷し、最終的には首相の座を失った。 

 

来月、自民党は後継者を選ぶことになる。そのリーダーには、経済改革プロセスを復活させる方法を見つけ出すという責任が課せられている。日本を悩ませる政治的麻痺を考えれば、言うは易く行うは難しであろう。 

 

世界情勢も同様だ。アジア最大の経済大国である中国は不動産危機と消費低迷のダブルパンチに苦しんでいる。欧州は足踏みをし、米国経済には警告のサインがちらつく。 

 

岸田首相の後任が誰になるにせよ、問題なのは、多くの家計がインフレを目に見えない増税とみなしていることだ。まともなエコノミストなら、デフレを良しとしない。債券投資家にとっても株式投資家にとっても、さまざまな意味で悪夢だ。 

 

しかし日本では、多くの消費者がデフレを受け入れるようになったということが、過小評価されている。生活費を引き下げることで、賃金上昇の少なさを相殺したのだ。賃金が低迷し、税率が高い日本では、消費者物価の低迷は減税に等しかった。 

 

インフレの復活は、日本の政府が望んでいたものを手に入れたことを意味する。難しいことをやってのけたのだ。しかし問題は、これからどうするかである。インフレが日本の大衆に受け入れられるためには、賃金の上昇が物価の上昇に追いつかなければならない。確かに、ここにはジレンマがある。日本には賃上げが必要だが、生産性向上と結びつかない限り、給与の増加はインフレリスクを悪化させるだけなのだ。 

 

日本の生産性は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも最低水準にある。2022年、消費者物価が急騰するなか、生産性は1970年以来の低水準に沈んだ。 

 

主要な経済改革を行わなかったことが、2024年の日本経済に跳ね返ってきている。2021年10月の就任から現在まで、岸田内閣は官僚主義的体制からの脱却や生産現場の効率化といった課題にほとんど手をつけていない。彼の後任は、自分の任期が前任者のそれよりも経済的に有効に使われるよう、直ちに行動しなければならない。 

 

今のところ、日本の大改革の話は「口先ばかり」のように見えてしまう。 

 

William Pentland 

 

 

 
 

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