( 202647 ) 2024/08/17 16:21:19 0 00 (※画像はイメージです/PIXTA)
2024年8月に入ってから、日経平均株価の乱高下の話題で持ち切りです。投資家……なかでも新NISAスタートと同時に投資デビューをした投資初心者たちにとっては、気が気でない人も多いでしょう。このままNISAを続けるべきなのか? そんな疑問を抱えているかもしれません。本記事ではAさん夫婦の事例とともに、投資を続けていくべきか否かの判断基準について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
【早見表】毎月1万円を積み立て「預金」と「NISA」を比較…5年~40年でどれくらい差がつくか
今回の日経平均株価の大幅下落では、「大暴落」という言葉だけが目立ちますが、実際には短期間での乱高下という表現のほうが正しいかもしれません。
8月5日に東京株式市場は史上最大の下落幅を記録しました。日経平均株価は取引開始直後からほぼ全面安の展開となり、終値は前の週末に比べて4,451円安い3万1,458円に。しかし翌日8月6日には一転、3,217円高という終値ベースで過去最大の上昇幅を記録したのです。
投資家のパニック状態を表す指標に、日経平均ボラティリティー・インデックス(通称、恐怖指数)があります。これが30を超えると、投資家が株価の大きな変動を見込んでいるとされています。8月2日から上昇をはじめ5日には72に達し、8月14日にかけて31.32まで再び下がっていきました。8月に入ってから約2週間、投資家はパニック状態にあったといえます。
投資初心者は狼狽
この期間に、投資の初心者、特に新NISAから始めた方々は「メンタルが持たない」「怖い」「騙された」「新NISAは国の陰謀だった」などと阿鼻叫喚の様相でした。数日間で資産額を大きく減らし、それが「年収と同じくらい」「手取り月収と同じくらい」とイメージしてしまうと、もう投資をやめたいという思いに駆られるかもしれません。
NISAの制度が始まってから各メディアで沢山取り上げられたため、初めて投資に興味を持った人たちも多いでしょう。しかし投資と金融についての体系的な勉強をしないまま「ほったらかし投資」をしている人は、市場が乱高下すると簡単にパニックに陥るものです。
勉強が足りていないのは、金融知識がYouTuberやインフルエンサーからの情報だけという人たちも同じです。金融の専門家でもないネットの有名人が、「NISAを続けても問題なし!」と強い言葉で断言すると、つい疑問も持たずに鵜呑みにしてしまうのです。知識や論理的思考に基づいていないため相場が荒れると、より強い意見を求めていく傾向があります。
日本では長年、普通預金での貯蓄を優先してきたため、まだまだ多くの人が投資に馴染みがありません。義務教育での金融教育も世代によっては皆無で、圧倒的多数の人たちは金融、特に投資についての知識をどうやって身につけるのかさえわからないままでしょう。今回の株式市場の乱高下によって、日本人の金融リテラシーがないがしろにされたままNISAの制度が前のめりになっているという「いびつさ」が露見したのではないでしょうか。
この2週間ほど、家計の専門家であるFPのもとには「今後もNISAを続けても大丈夫か」という相談が数多く寄せられます。その多くはつみたてNISAを数年にわたって継続している方々で、ほぼ全員がインデックス型のファンドを買っています。
「続けて大丈夫か」というのは「損をして元本を大きく毀損させるのが不安」という意味でしょう。その意味では、FPは今後の値動きを断言する立場にはありません。
1920年代の世界恐慌をはじめとして過去に〇〇ショックと呼ばれるような大暴落を何度か経て、その都度数年かけて回復。大きな流れとして株価が上昇してきたという事実は説明できるものの、それをもって投資を続けるべきかを一般論にして断言するほど無責任なことはありません。
残念ながら専門家であっても、断定的な物言いをする人が非常に多いのが投資の界隈です。YouTuberやブロガーはなおさら強い物言いになりがちです。断定的な意見や強い言葉に安易な共感をせず、いったん聞き流しておくべきでしょう。断定的な意見が心地よく聞こえてしまうのは、自分が勉強不足であるせいかもしれません。初心者はNISAを続けるべきかどうかを考える前に、自分にとって投資とはなにか、再定義するいい機会ではないでしょうか。
この2週間、強い不安を感じパニックに陥った人に共通する特徴があります。株価の乱高下でパニックに陥った人に共通するものには、次の3つの特徴が挙げられます。
・自分が買っているファンドのルールと仕組みを理解していない ・投資額が自分の家計に合っていない ・預貯金に置いておくべきお金まで投資に回している
特に投資額が家計に対して無謀な人ほど、パニックを起こしたようです。家計簿をつけていないのに毎月の積立額を感覚だけで決定していれば、大暴落で不安にならないわけがありません。価格変動のリスクを冷静に分析できなくなるからです。また、手元に置いておくべき預貯金まで投資に回した人もパニックに陥りました。老後資金以外で必要になる時期がはっきりしているお金を投資に回すのは、無知としかいえません。
たとえば子供の大学資金は18歳で必要になります。自宅のメンテナンス費用や自動車の買い替え時期も正確な予測ができるはずです。このように使う時期が決まっているお金は普通預金に入れておくべきものです。しかし、これを預貯金にとどめておかず投資に回してしまうと、必要なときに大暴落が起きて損を出していても売却しなければならないという状況に陥ります。
収入が給与所得だけの会社員の場合、投資に収入の多くを回してもいいのは、自宅を持たない、家族を持たない、自動車を持たない、恋人と交際しない、大きな旅行もしない、などというライフスタイルの人だけのはずです。
「住宅ローンの変動金利よりも、投資の利回りのほうが高いので、住宅資金はフルローンで借りて手元の現金は投資に回すべき」という意見が流行った時期がありました。しかし、低金利がいつまでも続くことを大前提とした机上の空論です。金融商品を販売する業者のポジショントークに過ぎませんでした。住宅ローンの変動金利が上昇したときは、手持ちの現金を使って一部繰上げ返済をし、元金を減らすリスクヘッジが最適解になります。リスクヘッジのための現金を投資に回してしまうと株価の大暴落でパニックを起こすのも無理はありません。
こう考えると、一般的な世帯年収の方にとって、投資に回せるお金はさほど多くないと気づくはずです。資金に大きなゆとりのある世帯でもない限り、老後資金の一助としてごく少額のお金を投資に回すだけが精いっぱいのはず。特にいますぐに現金で自動車を買えない人、自動車ローンを借りないと買えない人は、NISAをはじめとした金融投資は不向きです。自動車の購入をいつもローンに頼っているということは、家計収支に問題があるか、資産形成のポートフォリオに欠陥があるか、です。
ここで投資を続けていくべきか岐路に立たされている、ある会社員の事例をご紹介します。
<事例>
夫Aさん 39歳 会社員 年収850万円
妻Mさん 34歳 パート 年収120万円
長女 10歳
次女 6歳
住宅ローン残債 5,200万円
金融資産 200万円
つみたてNISA 月3万円
Aさんは首都圏近郊に住む会社員です。長年の悩みは、「貯蓄ができないこと」です。
妻Mさんと結婚したのは12年前。子供が生まれる前は共働きで世帯年収が1,000万円を超えていましたが、貯金はまったくありませんでした。特に派手な生活はしていないつもりです。自動車は国産の大衆車、服は安いファストファッションで、旅行もめったに行きません。夫婦ともに好きなのはマンガを読むこと。「幸福の沸点が低い」と自称して笑っていましたが、なぜか貯金はゼロなのです。借金はないためどこかでお金を使い過ぎていることだけは理解しています。
妻Mさんは出産と同時に退職。世帯年収は下がりましたが、夫Aさんが順調に昇給したこともあり、毎月の生活に困ることはありませんでした。
6年前に2人目の子供が生まれるときに戸建て住宅を購入。価格は6,000万円でした。変動金利0.5%、がん保障付きの団信に加入という条件でした。貯金がないので自己資金はゼロ。フルローンでの購入です。それまで住んでいた賃貸マンションの家賃は月10万円。住宅ローンの返済額は毎月15万5,000円となりました。大幅な支出増であるものの、無理な返済額ではありません。ただ、貯金がないことが気がかりでした。
外貨で殖やすことを試みるも、大して増えず1年で解約…40万円の損失
住宅メーカーから紹介されたFPに相談したところ、「強制的にお金が貯まる方法がいいですよ」とアドバイスされ、「米国ドル建て終身保険」に加入しました。掛け金は毎月272ドル。当時の為替レートは110円程度であったため、日本円で約3万円の掛け金です。
65歳まで払い続ければ、ドルベースでは払込保険料の総額よりも解約返戻金が増えるという計算です。しかし、設計書をよく見てみると予定利率が低く、さほど大きく増えるわけではありません。為替リスクもあります。1年も過ぎるとこの掛け金を支払うモチベーションが下がり、あっけなく解約することに。解約返戻金はゼロでした。支払った約40万円が水の泡に。
さすがに失敗したと思った夫Aさんでしたが、その後に円安が進行したため、「いずれにしても毎月支払えなくなって解約しただろう、早いうちでよかった」と考えています。
次に始めたのは、当時話題になっていた「つみたてNISA」です。あまり投資の難しい勉強をするのが面倒だったAさん。ネットでいくつかのサイトを調べたところ、証券会社のランキングで一位だったインデックスファンドを選択。幸い、それから数年間は資産が順調に増えていきました。しかし依然として預貯金はゼロに近い状態です。
妻Mさんは昨年から近所の工務店で、事務のパートをはじめました。年収は120万円。世帯年収は970万円と結婚したばかりのころの水準と同程度に戻りましたが、やはり預貯金はありません。NISAの資産額である約200万円だけが貯えという状態です。
Aさん夫婦はここ数年間ずっと決めかねていることがあります。夫Aさんが独身時代から乗っている自動車が14年目になっているのです。燃費が悪く、車検費用も高くなってきたため、買い替えたいのですが、自動車ローンを借りることに躊躇しています。
そこにやってきたのが、2024年8月の日経平均株価の大暴落です。幸い資産額が200万円と多くはなく、これまで順調に増えてきたため深刻な影響はありません。しかし、なけなしの資産が今後乱高下するのであれば、積み立てを続けるのは大きな不安があります。
乱高下からすぐに、知り合いから紹介されたFPに相談することにしました。
NISAをやめるべきなのか?
「NISAを今後も続けてもいいのでしょうか?」と夫Aさん。
FPはAさんの家計を分析したのち、こう指摘しました。
「まず、NISAそのものの価値と、Aさんの家計の問題をわけて考える必要があります。Aさんが選択している銘柄はインデックス型であり、今回は乱高下の影響は受けましたが老後資金のためにあと30年以上運用するのであれば、あまり心配がないというのが個人的な見解です」。
ほっとするAさんですが、次の言葉で愕然としました「しかしAさんの家計を見ると、株価の動きとはまったく関係なく、NISAを続けるべきではないかもしれませんね」。
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