( 202767 )  2024/08/18 00:43:06  
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Photo:Diamond 

 

 アイスクリームチェーンのサーティワンの既存店売上高が「31カ月連続で増加」しています。暑いと食べたくなるアイスクリームですが、実は「気温が高いほど全てのアイスが売れる」とは限りません。それでも、サーティワンが増収を維持できる背景には「意外な理由」があるのです。(百年コンサルティング代表 鈴木貴博) 

 

● 暑すぎる夏、アイスクリームには逆風? それでも、サーティワンは「例外」に 

 

 猛暑日が続いているにもかかわらず、サーティワンの業績は好調です。 

 

 「『にもかかわらず』って、暑いからアイスクリームが売れるのは当たり前じゃないの?」と思った方もいるかもしれません。 

 

 もちろん、一般的にアイスクリームは特に夏場に売れます。実際、スーパーのアイスクリームの売り上げは夏場の気温が高いほど伸びます。 

 

 しかし、これは近年はっきりしてきたことなのですが、猛暑日で気温が35度を超えると飲食店では出足が鈍るのです。加えてお店でのオーダーも濃厚なアイスクリームよりもさっぱりした氷菓の方がよく売れます。 

 

 考えてみれば当たり前で、この8月、熱中症の危険を考慮して午前10時から午後4時までわが家でも家族に外出を控えるようにお達しを出しています。私の仕事も日中は極力リモートで、外出するのは主に日が暮れてからというのが、ここ1カ月の生活習慣です。 

 

 生活スタイルがこのように変わると、真夏の日差しの下で冷たいアイスを頬張るという夏の思い出は過去のものになってしまいます。 

 

 日中外に出る人が減れば、外食各社の来店客数も減少してしまいます。それで、外食各社は「災害的な暑さ」という逆境をどう乗り切るのか工夫をしているわけです。これが気候変動下の経済の実情です。 

 

 そこで冒頭の話に戻ります。夏の猛暑日が定着してきたにもかかわらずサーティワンの業績は真夏を含めて絶好調です。今年3月に記録した「31カ月連続既存店売上増」は直近6月の開示でも継続中ですし、上半期売上高は過去最高の141億円、前年比で26%増と同業他社が羨むほどの成長を示しています。 

 

 サーティワンはなぜ好調なのでしょうか。マーケティング戦略の観点から3つの成功要因を説明してみたいと思います。 

 

 

● 成功要因(1) 小学生からの絶大な人気 

 

 サーティワンのホームページを覗いてみると、この8月は子ども向けのキャンペーンが充実しています。ポケットモンスターとコラボした「31ポケ夏!」に、すみっコぐらしとのコラボ商品、前月の7月はミニオンズで6月はマリオといった具合に、毎月のように子どもが飛びつきそうなキャンペーンを行っています。 

 

 サーティワンというと、どちらかというと大人の女性が大好きなチェーン店というイメージがあるのですが、ことキャンペーンに限るとメインの顧客層と違うターゲット(=子ども)にフォーカスをしています。これを疑問に感じる人がいるかもしれません。 

 

 実はこのやり方、マーケティングの長期戦略として非常に確実な顧客確保方法なのです。 

 

 というのは、「食」というものは子どもの頃に覚えた味が圧倒的な記憶となって維持されるからです。 

 

 わかりやすい例が日清食品の「カップヌードル」です。1971年に発売された商品で、その後さまざまなバラエティの新商品が登場しますが、なぜか一番売れるのは昔からある最初の商品。その理由は多くのユーザーにとって人生で一番最初にたくさん食べたカップ麺がこの味だからです。 

 

 このやり方はアイスクリームのような競合が無数にある食品では特に有効です。 

 

 コンビニやスーパーでいつでもアイスが手に入る時代に、小学生の目の高さで31種類のカラフルで違った美味しさが楽しめるアイスが選べるという「特別な体験」を刷り込んでおく。これによって、サーティワンのアイスは特別なんだという舌の記憶を刻むことができるのです。 

 

 とはいえ、この物価高のご時世に普通のアイスよりも割高なサーティワンに子どもを親が連れていくかどうかが気がかりかもしれません。しかし、その心配はいりません。 

 

 なぜなら子どもをお店に連れていくお母さんの世代もすでに、子ども時代にサーティワンのファン層になっているからです。 

 

 

● サーティワンがランドセルを発売 「奇抜すぎでは」と思いきや… 

 

 このように「子ども時代に(主たるターゲットとして)女の子がサーティワンのファンになるという現象について、非常に興味深い実例が出ています。それがイトーヨーカドーとサーティワンのランドセルの共同開発です。 

 

 このランドセル、色はサーティワンの人気商品になぞらえたパステルカラー中心の8種類。錠前の部分が可愛いアイスクリームの形状をしていて、レインカバーはさらにアイスと同じ楽しい柄になっています。 

 

 2017年の発売当初はさすがに奇抜すぎて一回で消えてしまう企画だろうと思われたのですが、結局完売し、現在も長期企画として販売を継続しています。 

 

 子どもにも、ランドセルを買う親の世代にも、どちらにもサーティワンがブランドとして定着しているという事実を感じさせるのです。 

 

● 成功要因(2) 不二家のDNA 

 

 ふたつめの要因は運営する親会社の企業特性に関わるものです。 

 

 サーティワンはもともとアメリカのカルフォルニア州に誕生したバスキン・ロビンスが発祥です。日本でサーティワンを運営するB-Rサーティワンアイスクリームは、そのバスキン・ロビンスと不二家の対等な合弁会社です。 

 

 日本はバスキン・ロビンスにとって3番目に大きい市場ですが、経営としては不二家の意向を尊重する形で本国とは違う形での成長を容認してきました。それが結果的に現在の好循環につながっている様子です。 

 

 日本のサーティワンは国内の自社工場で開発されています。バスキン・ロビンスには現在1300以上のレシピがあるのですが、日本で開発された新商品も本国で認証された後に、グローバルなレシピとして共有される仕組みです。 

 

 若い読者の皆さんはピンと来ないかもしれませんが、1974年にサーティワンの日本の1号店が開業した当時、不二家は日本最大のケーキチェーンでした。昭和の当時、どこの町の商店街にも不二家のペコちゃんのお店があり、子どもにとってデザートといえば不二家だったものです。 

 

 そして当時も今も、不二家の最大の優位性は商品開発にあります。この不二家のスイーツに関わる商品開発のDNAが、バスキン・ロビンスとの合弁でぴたりとあったのです。 

 

 

● 「カラフルすぎる」アイスなのに 食べたいと思うのはなぜ? 

 

 サーティワンのロゴカラーはピンクと青が基調で、31種類のフレーバーはさまざまなフルーツをイメージしたカラフルな商品です。 

 

 普通に考えるとカラフルなお菓子は人工的なイメージを持ちやすいものですが、そこが不二家の商品開発力で、モチーフとなるフルーツのイメージを損なわない形でフレーバーが開発されています。 

 

 定番フレーバーに加えて、毎月、期間限定のフレーバーが投入されています。それらすべての商品で、「カラフルであるにもかかわらず、食べたい気持ちを生み出す」という非常に難しいポイントを両立させているのです。 

 

 起業のDNAという視点でもうひとつ指摘をさせていただくと、不二家がパートナーだったことで結果的に「高価なアイス」というマーケティングポジションが定着できたことは大きかったと思います。 

 

 サーティワンの基本的なメニューであるレギュラーシングル、つまり一つのフレーバーがコーンにのった商品の価格は420円、ダブルにすると760円というのが基本的な価格です。これをアイスクリームの価格だと考えると非常に高いと感じると思います。 

 

 ところがサーティワンの顧客から見ると、この価格をあまり気にする様子はありません。理由はサーティワンのアイスはスイーツだと考えている人が多く、価格もコンビニスイーツやカフェのデザートをイメージして比較するからです。 

 

 この現象も商品のカラフルな色が心理的に生み出している現象だと考えられます。見た目が普通のアイスではないことで、価格が高くてもこれはちょっと特別な商品なんだと消費者が納得してくれているのです。 

 

● 成功要因(3) テイクアウト需要の拡大 

 

 さて、サーティワンのIR資料を読むと、近年では同社はテイクアウトの充実に力をいれている様子です。これが成長の3つめの要因と関係します。 

 

 サーティワンの国内店舗は1000店を超えています。地方ではフードコート含め、座って食べられるお店が多いのですが、東京の都心では店舗スペースが小さいお店の方がもともと主流です。 

 

 さらに、サーティワンでは最近、テイクアウト専門店である「サーティワン to go」の拡大を始めています。直近ではまだその数は20店と限定的ですが、中期的には100店まで拡大する方針だといいます。 

 

 私の自宅から近い新宿の店舗もこの to go店で、立地の関係もあるのでしょうけれども全国では売上トップランクだといいます。 

 

 コロナ禍の影響があったのかもしれませんが、コロナ禍前に売り上げに占めるテイクアウト比率は23%だったところが、2023年には41%に増えています。自宅でサーティワンを楽しむ人が増えているのです。 

 

 

 
 

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